死後結婚式のお見合い相手さがし

ちびまるフォイ

息子にぴったりの相手さがしてください!

「せめて息子にはいい人と結婚してほしいんです」


「わかりますよ、お母さん。では、こちらのリストをどうぞ」


死後婚式の相談にきた母親は案内人からリストをもらう。

リストは独身で生涯を終えた人がずらりと乗っていた。


「死後婚式はあの世でも一緒に暮らせるというものですから

 きっと息子さんも寂しい人生から救われますよ」


「ちょっと探してるんで黙ってもらっていいですか」


「ええ……」


母親は信じられない集中力でリストをめくっていく。

あっという間にリストを読破し終わってしまった。


「次はありませんか?」


「つ、次はないです……」


「ここに乗っている人はみんないまいちで息子にふさわしくありません」


「えええ……」


困った案内人はリストの中から適当な候補を決める。


「この人はどうですか?

 生前は家事手伝いをしていましたからとっても家庭的です。

 兄弟も多かったのでしっかりしていて、性格もやさしいです」


「ダメです」


「即答!?」


「息子は内気なんです。もっとぐいぐい引っ張ってくれる人じゃないと。

 この人と結婚したら、あの世での夫婦生活はお互いに不満を

 心の中に貯め続ける健康上よくない日々になります」


「死んでるんだから健康もなにも……」


「次」

「ごめんなさい」


死後婚式案内人はまた別の候補をリストから出す。


「こちらはどうですか? 生前はキャリアウーマンでした。

 バリバリ働きながらも、社交的で友達も多かった人気者です」


「ダメです」

「またですか!?」


「こんな人が息子の妻になったら浮気するでしょう。

 息子は傷つきやすいんです。女性と恋愛したことない息子が浮気されたら

 あっというまに心が壊れてしまいます」


「いやだから死んでるから……」


「 な  に  か ?」


「ごめんなさいなんでもないです」


母親の剣幕に案内人はしゅんと縮こまった。

その後も候補者を出しても欠点をあげつらねてつっぱねていく。


「お母さん、これじゃいつまでたっても死後婚相手見つからないですよ」


「そうねぇ、息子のことを誰よりもわかっていて

 それでいて優しくて、浮気しなくて、しっかり者で

 でも時に厳しくも接することができる美人まで妥協してもいないものね」


「条件厳しすぎるでしょ!!!」


「……やっぱり1人しかいないわね」


母親はそっと1枚の写真を出した。


「この人と死後婚式を挙げてくださる?」


「って最初から相手決まってたんかい!!」


案内人は昭和のノリで思い切りイスから転げ落ちた。

あーでもないこーでもないのやりとりはいったいなんだったのか。


おしまい。


 ・

 ・

 ・



「……ということで、死後婚式を挙げてきたのよ」


「そうなんだ」


「あの相手なら死後なにがあっても絶対に安心だわ」


「ふーん」



「さっきからなによその態度は。少しは死後婚式に興味もったら!?」






「……あのさ、母さん。

 いくら息子がニートだとしても死んだことにしないでくれる?」


息子は気まずそうに言った。




「わかってるわ。でも、あの世でもちゃんと面倒見てあげるから」


母親は息子に死後婚相手の写真を渡した。

自分の若いころの写真がそこにあった。

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