体内ペット、はじめませんか?

ちびまるフォイ

体内ペットは神話制

「いらっしゃいませ。体内ペットショップへようこそ」


「ペットショップって……なにもいないんですね」


看板の妙な言葉につられて入ってみたが、

店内のどこを見回してもペットはいない。


あるのは値札だけ。

近くの値札を手に取りレジへと持って行った。


「ヨルムンガンドですね、かしこまりました。はい、どうぞ」


「え? これ?」


店員が出したのはペットではなくただの小さな種。

ますますペットショップという肩書からは遠のいていく。


「こちらの種を飲み込んでください。体の中で孵化します」


「大丈夫なんでしょうね?」


「もし体内ペットが嫌になりましたら、出していただければ大丈夫です」


種を飲み込んでみると、体の中が変わったのがすぐにわかった。


「なにか変わった気がしますけど……別に何ともないですね」


「ヨルムンガンドの能力は食べ物を食べるとわかりますよ」


店員の言葉に半信半疑だったので、

ペットショップを出て近くの食べ物屋さんへと足を運ぶ。


なんでもないハンバーグを口にした瞬間、

その食べ物に含まれている成分が手に取るようにわかってしまった。


「すごい! これがヨルムンガンドの力!!

 体内にヨルムンガンドがいればこんなことができるのか!!」


影響は食べ物だけでなく飲み物にも。

ソムリエの資格をろくに勉強せずに取れてしまうほど精度が高い。


ヨルムンガンドは俺の体の中を自由に這いずり回っていた。





「おや、いらっしゃいませ。また来たんですか?」


「はい、あれから体内ペットをすっかり気に入ってしまって」


「それはいいですが……ちゃんとヨルムンガンドは排出されました?

 体内ペットはひとり1匹までと決まっています」


「え、ええ。もちろん、俺の体にはなにもいませんよ」


俺はウソをついた。

せっかく得たヨルムンガンドの力を捨てるのは惜しい。


ふたたび小さな種を持っていく。


「オーディンの種ですね」


「どういった効果があるんです?」


「カリスマ性がぐんとあがります。それにリーダーシップも身につきます」


「最高じゃないですか!!」


オーディンの種を飲み込んで、体の中で孵化させる。


その日以来、俺は仕事でも常にリーダーシップを発揮して大出世。


「先輩! 一生ついていきます!」

「君のような人材を求めていたんだよ!」

「先輩みたいな男性……素敵です!」


「かたじけない」


ヨルムンガンドの分析力。

オーディンの統率力。


次はどんな能力が手に入るのか楽しみだ。



「いらっしゃい。またまた来たんですね」


「ああ、オーディンってダメだったよ。すぐに捨てちゃった」


「そうですか。いい体内ペットだとは思ったんですけどね」


「次はこれをお願いします」


「フェンリルですか、これはまた癖の強い体内ペットを……」


店員は顔を曇らせたが、料金を払って種を飲み込んだ。

体の中で孵化したとたん世界が鼻からも見えるようになった。


「な、なんだこれ!? 匂いが視界に入ってる!?」


「ええ、フェンリルの能力は嗅覚視認ですから」


匂いが色をつけて目に見える。


焼きたてのパンのにおいがどちらの方角から出ているか、

立ち上る汗のにおいがどこから近づいているのか。


それがすべて目に入ってくる。


「この能力、最高じゃないですか!

 匂いで誰がどこにいるかわかるし、超便利!」


「ええ、能力はいいんですけど……。

 なかなか体内での協調性がなくって暴れるんですよ」


「暴れ……うっ!!」


店員の言っている意味がわかった。

フェンリルは俺の体を縦横無尽に走り回っている。

まるで元気な子犬だ。


落ち着いたかと思うと、今度は体のいたるところで戦いが始まる。


「いたたた!! 痛い! 痛い!! いったいなんだ!?」


体の内側から突き上げられるような痛みがおきる。

とても耐えられない。


「ふぇ、フェンリルはこんなに凶暴なんですか!?」


「いえ、走り回るだけです。なわばりにほかの敵がいない限り……」


「敵……いたたたた!!!」


オーディンの剣が体を内側から切り裂き、ヨルムンガンドがのたうちまわる。

フェンリルが駆けずり回って体の中がおかしくなりそうだ。



「あなた、まさかいくつもの体内ペットを!?

 体内ペットをいくつも飼うと体の中で聖戦が起きるんですよ!!」


「すみません!すみません! とにかく助けてください!!」


「これを飲んでください」


店員が種を出した。

わらにもすがる思いで種を飲み込むと、一気に軽くなった。


「あぁ、助かりました。今のはなんだったんですか?」


「ウンディーネの種です。ペットの排出に使われるんです」


「本当にありがとうございます。もうペットは1匹ずつ、ケンカしないように飼います」


「そうしてください。体内ペットを複数飼うと

 体の中で合体してサイズも大きくなりますから」


俺はこの教訓をしっかりと体に刻み込んだ。







「そういえば、体内ペットの排出ってどうなるんです?」


「おしりの穴から全部まとめて出てきます」




「え゛?」


その後、俺のおしりがサッカーボール大まで拡張されたのは言うまでもない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

体内ペット、はじめませんか? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ