CHAPTER―4

チェンはAKアサルトライフルを撃ちながら廊下に響く女性の声の言う通りに廊下の曲がり角に飛び込んだ。

すると天井からシャッターが下りて足を挟みそうになるのを転がりながら避けた。

「あぶなっ!」

思わす声が出てしまった、チェンはシャッターを見たがシャッターの向こう側の発砲音がまったく聞こえなくなり立ち上がり手のひらで叩いてみたが重い音が返ってきてシャッター自体が分厚いということがわかりため息をついた。

「危なかったわね」

女性の声が響きチェンはAKアサルトライフルを構え周りを見渡したが人影は無い。

「どこにいるんだ!?出て来い!?」

何故かチェンの声は女性の声の様には響かなかった。

「すぐに案内してあげるわ、言う通りに動いて、まずは最初の所を右に曲がって」

目の前には十字路になっていてこの道を右に曲がれということか・・・。

女性の声は少しこの状況を楽しんでいるのか笑っているような感じがした。

天井を見ると隅にある監視カメラの赤いランプが点灯してこちらを見ている、天井にスピーカーが埋め込まれているのかもしれない。

するとチェンは大声で毒づく。

「何でお前の言う通りにしなければならないんだ?、さっさとここから出せ!」

「あら、だめよ、言うことを聞いてもらわなければ・・・・こうするわ」

その瞬間にさらにシャッターが下りてチェンは廊下の前後をシャッターで塞がれてどこにもいけなくなった。

「わかった、わかった、言う通りにする」

まったく最悪の奴に絡まれてしまった。

「変な行動をしたらすぐに閉じ込めるわよ」

少し怒ったような女性の声がするとシャッターが上がり道が開いたと思うと先ほどまで三又に分かれていた廊下が右以外進めないようにシャッターが下りていた。

「迷うことは無さそうだ」

呟いてチェンは歩き出し右に曲がり進んでいくと背後から物音が聞こえ振り返るとシャッターが降りて埃が少し舞い上がった。

「おい、ちゃんと出ることができるんだろうな?」

「悪いようにはしないわ、さっさと進んで」

もう女性の声の言う通りにするしかないみたいだ、仕方なく黙って歩いた。

廊下を進むと目的地以外に行く道はシャッターが下りて迷うようなこともないようになっていた、歩いていると白骨化した遺体が廊下に倒れていて踏まないように避けて先に進んでいったが、その先にも白骨化した遺体が二体倒れていた。

「先に進んでも大丈夫なんだろうな?」

天井を見て大声で言った。

「大丈夫よ、あなたを殺すつもりならこの基地に入った時に殺せたのだから少しは信用してもらいたいわ、それよりも急いで頂戴、外に敵がだんだんと集結しているわ、ドアを塞いで中に入れないようにして時間を稼ぐから早く進んで!」

この女性の声が言う通り俺を殺す機会が何回かあったみたいだが助けたのは利用価値があるからだろう、それにしてもあいつらの仲間が集まってきているのは面倒だ。

「歩かないで走って!」

怒るような声で叫ばれ、チェンは埃を吸い込みそうで嫌だが走り出した、何回も右や左に曲がり白骨化した遺体の骨を何回か踏んだり蹴飛ばしたりして砕けた骨の粉で転びそうになった更に進むと先が行き止まりになっているのが見えた。

よく見ると突き当たりが扉になっていて前には数体の白骨化した死体が重なり合っていた。

近づいて扉を見ると今まで見た扉とは色が違い左側にあるボタンもカバーが壊されて中の配線がむき出しになり死体の近くの機械につながっている。

チェンはしゃがみこみ機械のボタンらしきところを何回か押してみたが反応は無かった。

「どうするんだ?、俺じゃこの扉を開けることはできないぞ」

「あてにしてないから大丈夫よ、ちょっと待って」

声が終わるのと同時に扉の近くでモーターが回転するような音が聞こえ扉から離れると扉は簡単に開いた。

扉の奥には大きな椅子とテーブルが一組見えた、テーブルの前は壁になり周りの壁には機械が埋め込まれているようで作動音と緑色に点灯しているところが数多くあり不気味だ。

チェンはとりあえず中に入ると靴の下になにか違和感を感じ足元を見た何も無く、足を上げて靴のあった場所を見ると銃弾の薬莢が転がっていた。

拾って見ると今でも使われている拳銃の薬莢と大きさも形も同じようなものだ。

持っていても仕方が無いので端に投げ捨て進んで行き椅子の後ろに立つと白骨化した死体が座っているのが見えた。

「俺はどうすればいいんだ?、おい!」

天井を見ながら言う。

「質問に答えてもらうわ」

テーブルの上に赤いワンピースを着た小人の女性が現れた、チェンは素早く後ろに下がりAKアサルトライフルの銃口を向けようとしたがあせって銃を掴みそこない手間取ったが構えて銃口を向けた。

「どうなってるんだ!、おい!、答えろ!」

チェンが叫ぶとテーブルの上の赤いワンピースを着た女性の小人は両手を腰に当て下を向きながら頭を振った。

「だらしないわねぇ」

テーブルの小人が顔を上げるとその顔は困ったように眉毛がハの字にしてチェンを見た。

AKアサルトライフルを向け引き金に指を掛けいつでも撃てるようにして尋ねた。

「お前は何なんだ一体?」

「私を見ただけでそんなにうろたえたのあなたが始めてよ」

小人はいいながら笑ったように見えたが、チェンにはその様子がムカついて怒鳴った。

「俺の質問に答えろ!、でないと粉々にするぞ!」

チェンはAKアサルトライフルの銃口を小人に向けた、すると小人は声を出して笑い呆れたように言う。

「私を撃っても意味がないわよ、あなたは日本国防軍の生き残り?そんなに慌てているんだから違うわよね」

「何を言っているんだ?日本国防軍?聞いたこと無いぞ」

「だってあなたここに入ってくるときヘルメットの端に旭日旗が書いてあったじゃない、だから助けたのに・・・」

ヘルメットの端に?確かに白と赤でかかれたものがあったような気がしたが・・・・。

「旭日旗なんて知らないぞ、俺と何とか軍とは関係ない、そもそもそんなの見たことも無いぞ」

「やっぱりそうなの・・・・、少ない希望だったけどあなたにかけたのに・・・」

呟いて小人は下を向いてしまった、だがそんなことチェンには関係ない。

「俺には関係無いことだ、俺はお前を捕まえようとかどうにかしようとは思っていないからここから出してくれないか?、俺はあいつらの一人を捕まえて尋問したいことがあるんだ」

チェンはAKアサルトライフルを構えるのをやめて安全装置をかけ肩から吊ってテーブルの上の小人に近づいて優しく言う。

「なぁ、お前の希望がかなわなかったのは残念かも知れないが、俺にもやりたいことがあるんだ」

チェンは素早く腕を動かしテーブルの上の小人を掴んだ。

と思ったが掴むことが出来ず空を切った。

「あれ?」

思わず声が出ると小人はわざと大きな声でため息をついた。

「原始人みたいな行動はしないでもらいたいわね、次にそんなことをしたら永遠に閉じ込めてしまうわよ」

チェンは両手を挙げて小人から一歩下がった。

「悪かったよ、何もしないさ」

言うと掴もうとしたときに舞ったテーブルの埃が口に入ったのか思わず咳き込んだ。

咳が収まるのを待って小人が言った。

「私の質問に答えてもらうわよ、あなたの名前と職業と目的を言ってもらおうかしら、まだ腕を下げてはだめよ」

「俺はユノだ、俺の職業なんてないが目的はあいつ等がこの地域の人じゃないことを偶然知ったので、あいつを捕まえようとしたら逆に捕まってしまったのさ」

小人はわざとらしく手のひらを顎に当てて考える振りをして尋ねてきた。

「あなたの名前はチェンじゃないの?誰かがそう呼んでたのを聞いたんだけど?」

「よく聞いてたな、確かに俺はチェンと名乗っていたがそれはうそだ、あいつ等に本名を教えて後であいつ等の仲間に付きまとわれても困るからな」

「じゃあ、私に教えてくれたユノって名前は本当なの?」

ユノは頭を小さく振りながら笑った。

「まぁいいわ、私はユノと呼ぶけど、あなた働いていないなら何をして生活をしているの?」

「必要になれば強盗とか物を盗んで金を稼ぐだけさ」

「強盗?」

小人が大きく溜息をついてテーブルの上を右や左に行ったりきたりしながらなにかを考え始めた、ユノは小人の動きを目で追うと時折実体の無い小人の目がそこにあるかのようにこちらを見るので不思議だ。

「強盗ね・・・・、つまりチンピラって事?」

小人が立ち止まりユノを見た、ユノは周りを見てカメラが無いか探したがが隠しているのか見つけることができないので小人を見て答えた。

「チンピラって何だ?意味がわからん」

ユノは肩をすぼめた。

「チンピラは通じなくなったのね・・・・、まあいいわ、あなたあいつらの一人を捕まえてどうするの?あいつらを捕まえるとお金がもらえるとか?情報が金になるとかなの?」

小人がユノを指差していうとユノは首を横に振って答えた。

「あいつ等の持っている武器や装備は最新式に等しいから、商店に持っていけば高い値で買い取ってもらえてしばらく遊んでくらせるからな」

「じゃあ、この施設を見つけたんならあなたは大金持ちになれるわね?」

小人の蔑むような声を聞いてユノはため息をつきながら首を振った。

「武器やマスクとかの小物なら金もらってサヨナラできるが、こんな施設を見つけて買い取ってくれといわれてみろよ、お前ならどうする?」

ユノは腕が疲れてきたので上げていた腕を下ろした、小人はわけがわからないというような顔をして答えた。

「私にお金を支払う能力があれば買い取るわよ、当たり前じゃない、それが買い取る店の義務なんだから」

「お前は何も知らないんだな」

バカにしたように言うと小人はムッとした表情になって怒ったようだ。

「どういうこと?、はっきりいいなさいよ!」

ユノはいやらしく笑い左手を腰に当てた。

「言った通りさ、何も知らないからそんなことが言えるんだよ、俺がここを買い取ってもらおうと人をここに案内したらそれで俺は用無しで殺されるのが落ちだ、発見者を殺して自分のものにすれば自分が金持ちになれるんだ、誰だってそうするさ、それにここのマスクや武器を何回かに分けて買い取ってもらっても怪しまれてろくな事にならない」

「ユノが言う通りにならないかも知れないじゃない」

「外に出てみれば考えが変わるさ、俺のことはもういいだろ?いい加減姿を見せろよ」

ユノがいいながら小人を見ると小人が今度は馬鹿にしたような笑い顔をしてユノを見た。

「あなたは外のことは何でも知っているかもしれないけど、私にしてみればあなたなんて知ったかぶりしてる子供と同じよ」

小人が得意げに指を鳴らすとテーブルの前の壁が光りユノは目を庇った。

目を開けると小人の顔が壁いっぱいに小人の顔があり驚いてテーブルの上を見ると小人がユノを見て得意げな表情をして笑っている。

「だからあなたは私にしてみれば子供なのよ」

壁の顔と一緒に小人の口が動いたと思うと小人は一瞬で消え、壁の顔だけだったものが何人もの小人になり壁の中を歩き回りながらユノを見るので思わず後ずさりした。

「結構ビビリなのね」

「・・・慎重なだけさ、それよりもお前何人兄弟なんだ?六人か?」

後ずさりをやめて立ち止まった、壁の小人たちがユノの近くで一人にまとまり笑いながらいたずらっぽく聞いてきた。

「私がなんだかわかる?」

言い終わると小人の体が段々大きくなりユノと同じ身長の女性になった。

目の前で起きていることが信じられずユノは投げやりに答えた。

「わからない、化け物か?」

「化け物?まぁ、私のことがなにかわかる人なんてほとんどいるはず無いから気にしなくてもいいわ、私は貴方が想像できないような科学で成り立っている人間なんだからしかたないわよ」

「わかったから姿を見せろよ」

「だから目の前にいるじゃない、これが私の姿なのよ」

ユノの目の前の壁の人が自分の顔を指差した、こいつか俺の頭がおかしくなっているんじゃないかと思えてきた。

「それがお前の姿なのか?だって人間てのは俺みたいに手や足がつまめる人間のことを言うんだ、お前みたいに壁に映っているのは人間とは言わないんだよ」

その言葉を聞くと怒ったように睨みながら言ってきた。

「私にだって事情があるのよ、だからぁ」

いい終わる前に大きな音とともに地面が揺れユノは転びそうになり近くの壁に手をついた。

「地震か?」

思わず呟いた、明りが消え周りが一気に暗くなり壁に映っていた人の姿も消えていた。

「やっぱり人間じゃないだろ・・・・」

手探りで壁づたいに廊下に出ようとすると天井のライトが点いた。

「やばいわね・・・」

女の声がしたので先ほどの壁を見ると先ほどの女性が現れたので近づきながら尋ねた。

「地震なのか?」

「違うわ、これよ」

そういうと女の隣に四角い画面が現れ森が映し出された、画面が森の上に注目されるとすぐに空を飛ぶ大きな金属の塊が映し出された。

「あいつ等の仲間か?」

「そのようね、あっ」

女がいうと金属の塊の一部を拡大するとそこにはなにかのマークが書かれている。

「オスプレイに書かれているのはアメリカの部隊のマークね、あなたをここに連れてきた人たちの通信を傍受していたけどまさかアメリカ軍が残っていたなんて・・・」

「アメリカ?オスプレイ?何なんだそれ?」

「昔の国よ、今もあるのか知らないけど、それにあの飛んでいるのがオスプレイよ」

ユノはオスプレイと言われた物が映し出されている画像を見ていると胴体のサイドが開き中からロープが垂らされると見たことの無い装備の兵士達が地上に降り始めた。

「お前の望みか希望がなんだかわからないがそのアメリカの奴らの方が叶えてくれるんじゃないか?俺が見たことも無い武器や技術を持っているぞ?」

ユノが話すと女はすぐに顔を振った。

「あなたは知らないかもしれないけどあいつらは日本を裏切って戦場にしたやつらなのよ、信用できるわけ無いじゃない、それに私の望みは元の体を探し出して人間に戻ることなの、あいつ等に連れて行かれたら何されるかわからないわ」

ユノはわけがわからないので黙っていると女は続けた。

「時間を稼ぐために彼らに働いてもらいましょう、それユノにもやってもらうことがあるわ、そこの椅子に座っている久米大佐の左腕の手首についている機械を自分の手首につけて頂戴」

ユノは椅子に座っている白骨化した死体を見ると左手首の骨に何かの装置があり埃や死体のごみで真っ白になっているのが見えた、あまり触りたくないが仕方ない、息を止めて死体のゴミを吸い込まないようにして左手首の機械を掴んで持ち上げると一緒に装置がついている骨もベルトに引っかかり持ち上がり左右に振って落とそうとするとユノの腕が椅子に当たり白骨化した死体から頭蓋骨が落ち音を立てて転がった。

「傷つけないでよ、もうっ」

ユノは黙って機械を持ち上げて空中で左右に振って積っていたごみや埃を落とした。

「取ったぞ、どうする?」

「それを腕につけて」

思わず嫌な顔をした、あまり気は進まないが腕につけ金属製のベルトで腕にとめて表面のパネルのような部分を叩いてみると青白い光を放ちユノは驚き急いでベルトを外そうとした。

「大丈夫よ、慌てないで、それにヘルメットがそこに入っているわ」

「そこってどこだ?壁じゃないか?」

ユノが壁を見ると切れ目が入りロッカーのようになっていたが取っ手が無く開けることができない。

「どこを開ければいいんだ?」

尋ねると手前から三つ目のロッカーが勝手に開いた。

「私がロックしていたんだった、ごめんなさいね、中にヘルメットが入っているわ、それはまだ使えるかしら?見て頂戴」

ユノが中を見ると昆虫のように黒光りをして目の部分が黒色で中が見えないヘルメットが入っていた、手に取って見回してみると中は劣化も腐ってもいないようでかぶっても問題なさそうだ。

「マスクとしての機能は大丈夫なのか?」

「元々、戦争時の考えられる最悪の状況を耐えれるように製作されたから大丈夫よ、それに・・・・」

「それに?」

「私の時代の物が今の時代の技術よりも進んでいるんだから、そのヘルメットで防げないならあなたたちの付けていたマスクでも防げないわよ」

「そうなのか?」

ユノはこの女が言っていることが正しいかはわからないのでヘルメットを脇に抱えて机に歩いて行くと腕の装置が先ほどとは違う緑色に光っていた。

「これをつけて逃げればいいのか?」

「あなた馬鹿なの?私を連れて逃げてほしいの!」

「連れて逃げるって重いものは無理だぞ、武器だって持ってるし外には俺を殺そうとしてくる奴等がいるんだ、機械なんか持つ余裕無いぞ?」

「レディに重いなんて失礼な!」

壁に映し出されている女の表情が怒ったように眉間に皺がよったがユノは無視して続けた。

「お前が機械なら、ロボットにでも乗って逃げればいいんじゃないか?あれなら強いし俺みたいに銃で撃たれても簡単には死なないだろうし」

それに俺が命を張ってこの機械を運ぶ必要は無いしな、という言葉は口に出さなかった。

「それが無理なの、今の私は特別なコアで出来ていてそれは普通の兵器には入らないの・・・・、だけど久米大佐が持っていた機械は私のコアを入れることが出来てあなたが取り出したヘルメットを使えば私の能力を使うことができるの」

ユノは腕につけた機械を見てどこか開くかと爪を立ててみたが爪が引っかかるところは無く緑色に光ったままでどうすればいいかわからない。

「どうすればいいんだ?、開くようなところは無いぞ」

「待って、私の言う通りにして、まず緑色に光っているところを押して」

言われた通りユノが押すと上面が光りアルファベットと数字が映し出された。

「私の言う通りに打って、J・D・M・T・D・K・0・3・0」

言われた通りのアルファベットと数字を打ち込んだ、すると緑色の光が無くなりパネル部分が上に開き、四角形の穴が開いている場所が現れた。

「開いたぞ」

「ならテーブルの上を見て」

壁にいた女はまた小人になりテーブルの上に移動し中央まで歩くと立ち止まった。

「これを入れて」

いって机の中心を指差すと指差した場所に穴が開き、透明なクリスタルのキューブが浮かび上がってきた、小人が近づいて浮かんでいるキューブを指先に持ち息を吹きかけるとキューブは勢いを増して回転した。

「きれいでしょ、これが私のコアよ、このコアをその腕の装置に入れて」

「もし、俺が入れないで踏みつけて壊したらどうなる?」

ユノは意地悪そうに笑いながら聞くと部屋の扉が閉まりロックがかかる音が聞こえた。

「あなたはそこから出られなくなって死ぬだけよ、わかったら変な事しないでキューブを掴んで腕の機械に入れて、わかった?」

言うことを聞くしかなさそうなのでユノが大人しくうなずくと女の小人は砂時計を逆さにしたときのように砂状になりキューブに吸い込まれていった、テーブルの端にヘルメットを置きテーブルの上に浮かんでいるキューブに手を伸ばし掴むと何か起きないかと周りを伺った。

何も起きないのでキューブを取るとテーブルの穴が閉じたがそれ以外に変化が無く耳をすませてみたが変な音もしてない。

手に持ったキューブを目の前に持ち左目をつぶって中を覗くと、キューブの中では小さな光が川の水面のように輝いているのが見えた。

突然床が揺れ大きな音が鳴り、手に持っていたキューブが手から滑り落ちた。

「やべ」

聞こえているのかいないのかわからないがユノは呟きながら落ちたキューブを埃の積もった床から持ち上げてキューブに息を吹きかけ付いた埃を払い傷が付いていないか調べたが見た目には傷が無いので腕の機械の四角の穴の中に窮屈だが押し込んで上の蓋を閉じた。

するとアルファベットを打ち込んだところから青色の光の波紋が広がって、何か文章が表れた。

どうするか迷っていると機械から声が聞こえた。

「私の声が聞こえる」

「聞こえるさ」

「次にヘルメットをかぶってみて頂戴」

テーブルに置いたヘルメットを両手に持ちかぶった、外から見たときはレンズが黒くて中が見えなかったが中から外は透明のガラス越しに見ているようにすっきりと見えた。

ヘルメットの内側のスピーカーから女の大きな声が聞こえてきた。

「ちゃんとヘルメットのスピーカーは使えるみたいね・・・・・、他の機能もチェックしたけど問題ないわ、ヘルメットのカメラもちゃんと機能しるわ」

「カメラ?ドコについてるんだ?」

ユノはヘルメットを脱ごうとすると女が言った。

「そのヘルメットのレンズがカメラの機能もあってあなたの見ている視界が私にも見えてるのよ、だからヘルメットを脱いでカメラを探しても余り意味が無いわよ」

何かまだ隠していそうだがここで言い合う暇は無い。

「わかったよ、ならここから早く出してくれ、さっきも地震みたいに建物が揺れたぞ」

「OK」

言うと先ほど閉まった扉が開いた、それとユノは気になっていたことがあったので言った。

「一つ聞いていいか?」

「何?」

「お前の名前はなんていうんだ?」

「まだ言っていなかったっけ?私の名前は・・・・」

黙っているのでユノも黙っているとそのまま十秒が過ぎた。

「どうしたんだ?」

「私の名前は・・・・」

「もしかして、忘れたのか?」

「そんなはず無いわ、自分の名前を忘れる人がどこにいるのよ?」

俺はお前を人間だとは思ってないけどなというのをこらえてユノは言った。

「とりあえずなんて呼べばいいんだ?」

「わからないわ、どうして思い出せないんだろう?、あなた何かした?」

コアのキューブを落としてしまった事を思い出したが黙っいたほうがよさそうだ。

「なにもしてないさ、それにそのうち思い出すかもしれないから今はとりあえず呼ぶ名を教えてくれ」

「わかったわ、そうね・・・・」

そのとき爆音とともに大きく建物が揺れた、だがまだ何て呼ばれたいか迷っているらしく悩んでいる呻り声が耳のそばから聞こえてきてユノは思わず怒鳴った。

「もういいだろ!、お前が決められないなら俺が決めるぞ!」

「嫌よ、野蛮人に決められるなんて、私が自分で決めるわ、えーっと・・・・、アリス、アリスって呼んで」

「わかった、アリスでいいんだな、出口に案内してくれ、アリス」

「もちろんよ、でもその前にやることがあるわ」

アリスの返事が聞こえるのを待たずにユノは走り出した。

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