CHAPTER―3
それからクリスたちは盗賊の生き残りがいないか確認を行いながらアーマーの残骸を集めた、ボーエンとチェンは盗賊の生き残りを殺すか殺さないか言い争っていたがクリス達は息がある者を見つけると止めを刺していった。
アーマーの残骸は両足と両腕は見つかったが胴体と頭部は見つから無かった、残骸を見た限りではどのようにして動いているのかクリスにはわからなかった。
太陽が傾き始めたころクリスたちは崖の下で対戦車用グレネードで開いた穴を少し掘り、塹壕を作り中で休んでいた、ユルバンの死体は腐敗してきたのか臭いを発し始めたために離れた木の下に草をかぶせて隠していた。
交代で見張りを行い今はワルテが見張っていてマイクとオースティンとクリスとボーエンとチェンも休んでいた。
ボーエンとチェンもまだここにいるのは手違いであり応援部隊が着くころまでに隙を見て二人を殺さなければならない、クリスとしてはチェンは殺しても特に何も思わないが命を助けて貰ったボーエンを殺すのは抵抗があるがしかたない。
今回の任務で一番危険度が高いところは過ぎ去ったが最後まで気を抜かないようにしなければならない。
ボーエンとチェンは互いにしゃべることも無くただ黙って座り塹壕に五人が押し込まれる様に入っているので体がぶつかり誰かが不振な行動をすればすぐにわかるが今のところそのような様子は無い。
クリスは深呼吸をすると長距離通信機が鳴り出した。
「スターナイトスリー応答せよ、スターナイトスリー、こちらスターライト」
時計を見ると先ほど連絡してから二時間しかたっていない、まだ応援部隊が到着する時間ではなかった。
悪い予感を感じ咳払いをしてから通話ボタンを押した。
「こちらスターナイトスリー、スターライトどうした?」
「すまないなスターナイトスリー、後一時間半でそちらに到着予定だ、だが、その前に頼みたいことがある」
視線を感じ隣を見るとマイクとオースティンが見ていた、ゴーグルで目の周辺しか見えないが何かを期待しているように見える。
「頼みとは何だ?我々が行えるようなことはもう何も無いと思うが?」
怒り気味に言う。
「そう怒らないでくれ、私も君と同じ気持ちだが君たちにしかできないことなんだ」
隣にいたマイクが肩を叩いて尋ねてきた。
「どうしたんです?」
「追加の任務を頼まれているんだ」
「内容は?」
マイクに言われ通信機に向かって言った。
「頼みの内容は?」
「すまないな、内容はそのロボットが出てきた扉が開いたままになっていると言っていたがそれを簡単に調べてもらいたい」
クリスは塹壕から頭を出して崖を見た、崖にはロボットが出てきた扉がポッカリと開いていた。
「どうしてだ?」
「それはロボットが本当に一体しかいないのか確かめてもらいたい、もし他にロボットがいるならば応援部隊のヘリの危険を避けるために別の場所に部隊を降ろして徒歩でそこに移動してもらわなければならないが直接そこに着陸できる方がいいだろ?そのために簡単に調べてもらいたい」
あの中に入れということか・・・・。
「はっきり言って入りたくないな、あんなのがもう一体出てきたらここにいるのはみんな死ぬぞ」
「だが応援部隊が到着した時にロボットが出現すれば被害が甚大になってしまう、それに君たちに戦えといっているわけではないんだ、ただ様子を見てきてほしいんだ」
クリスが黙っているとこちらを見ていたオースティンが肩を叩いてきた。
「なんていっているんです?」
「あの中の様子を見て来いだと」
クリスが指を刺して示すとオースティンが毒づいた。
「本当かよ、命がいくつあっても足りないぜ、まったく」
オースティンの言う通りだ、潜水艦の奴らはロボットを見て攻撃されて無いから言えるんだ、実際に銃弾の雨の中を歩く姿を見れば様子を見てくるだけでいいとは言えないだろう、だが言い争っていても始まらない。
「様子を見てくればいいんだな?、だが、少しでも危険を感じればすぐに退避するぞ、それでいいな?」
「・・・・わかった、それでいいだろう」
しぶしぶ納得したようだ。
「了解した、これから中に入る」
返事を待たずに通信機をポケットに入れて言う。
「ワルテ、戻って来い」
「わかりました、すぐに戻ります」
ワルテが塹壕に滑り込んでくるとクリスは三人を見た。
「これから応援部隊の安全確保のためにあのロボットが出てきた中に入り偵察を行うが、危険があればすぐにここに戻り潜水艦に連絡する」
ワルテが崖を見ながら声を落として言う。
「あまり気が進みませんね、あの中でロボットが出てきたら逃げる間もなく蜂の巣にされる気がしますよ」
「確かに・・・」
オースティンも同じように思ったのか呟いた、マイクはどう思っているのかと思いマイクを見たが何か考えているようでマスクに手を当てて地面を見ている、クリスはワルテとオースティンを納得させるために言った。
「応援部隊が着いたときにロボットがあの中から出てきてみろ、応援部隊に被害が出ると我々の救助が困難になる、それに我々がロボットに撃ち殺される可能性も十分にあるんだ、なら仲間のために危険を犯して偵察をしたほうがいいだろ?」
ワルテとオースティンもしぶしぶといった感じではあるが頷いたが、マイクがクリスを見た。
「こいつらはどうするんです?ここに置いときますか?」
ボーエンとチェンを指差した、クリスは忘れていたわけではない。
「そいつらも連れて行く」
すると話が聞こえたのかチェンが身を乗り出して言った。
「お前らもしかしてあの中に入るのに俺を連れて行くといったのか?」
「あぁ、そうだ、チェンとボーエンも連れて行く」
クリスが答えるとボーエンも身を乗り出したがチェンが続けた。
「約束を果たしたんだ、俺はここで待たせてもらう、あの中に入ったら危険な気がするからな」
言い切ると腕を組み塹壕の壁に背中を押し付けて動く気が無いことを示した、その様子を見ていたマイクが自分の銃の手入れをしながらボーエンとチェンの二人に言う。
「ここに残ってもいいが我々がいないのにお前が残っていたら我々の仲間に殺されると思うが、それでいいなら残っていろ」
言い終わると銃の手入れをやめて立ち上がりそれに続きクリスとオースティンとワルテも立ち上がった。
「仕方ない」
嫌そうにチェンが立ち上がったがボーエンは座ったままだ、それに気付いてクリスは尋ねた。
「どうした?なぜ立たない?」
「俺はこいつみたいに君たちの言うことを聞く必要はない、そうだろ?」
ボーエンがクリスを見た。
「そうだな、だが、村の仲間が全員殺されてどこに行くんだ?」
「わからない、なにも思いつかない」
ボーエンは顔を伏せ情けないため息をついた、その様子を見てクリスはわざとやさしく言った。
「なら、今はまだ我々と行動を一緒にすればいいだろ、変に一人になって他の盗賊にやられたらそれこそどうしようもないぞ?」
言われたボーエンが悩みだすとすかさずオースティンが続けた。
「悩むなら今は付いて来い、俺たちはお前が答えるのを待っている時間は無いんだ」
言いながらこちらを見て笑った、どうやらオースティンはクリスの意図が分かっているようだ。
「とりあえず君たちに付いて行くよ、結論はその後で出す」
いい終えると立ち上がった、ボーエンとチェンにクリスは注意した。
「我々の仲間に撃ち殺されたくなければ武器は持つな、それにはぐれるなよ、一人で歩いているところを我々の仲間に見つかれば殺されるからな」
クリスは言い自分のAKアサルトライフルのセーフティをはずし、ゴーグルを拭いた。
「私が先頭で、オースティン、ボーエンとチェン、ワルテ、マイクでいく」
マイクたちはうなずいた。
崖のロボットが出てきた扉の前まで来た、用心して崖に背中をつけ中の様子を一瞬見た。
中は三メートルの幅で上下左右は黒い鉄板で覆われて20メートル先で行き止まりになっている。
「見てくださいよこれ、二十センチくらいの厚さがありますよ?ミサイルでも打ち込まないと壊れそうに無いですよ」
隣にいるオースティンが扉を指差していた、確かにミサイルでなければ破壊できそうに無い厚さの扉であった、こんな重そうな扉が何で動いているの想像できない、やはりこれも大事なテクノロジーになりそうだ。
反対側の壁にいたマイクが中を見て言う。
「行き止まりみたいですね?監視カメラのようなものもありませんね」
確かに監視カメラのようなものは無いが罠があった場合遮蔽物がないのが気に入らない。
「中に入る、ゆっくり付いて来い」
クリスはAKアサルトライフルを構えゆっくりと一歩踏み出した、中に入ると外の音が遮断されたように感じ足音が響く。
警戒しながら進んでいくとすぐに行き止まりまできた。
「ここにロボットがいたんですかね?いくらなんでも殺風景過ぎません?」
後ろでワルテの声が聞こえる。
「そうだな、ここにはロボットの銃弾や燃料を補充するものがないな、何年も動いていれば必要になるはずなんだが・・・」
マイクが言いながら壁を触り始めた、するとほかの者も手当たり次第に壁を触り始めたのでクリスは壁を触りながら言った。
「変なボタンがあっても触るなよ、まず報告しろ」
すると行き止まりの壁がモーター音を響かせながら左右に開き始め、一番近くにいたクリスはAKアサルトライフルを構えながら後ろに下がった。
完全に扉が開くとそこの中も同じように周りを鉄板で囲まれた通路のようになっている。
クリスは確認のために聞いた。
「誰か何か触ったか?」
「変なのは触ってませんよ」
オースティンが返事をすると他の者もボタンのようなものは触っていないといった、もちろんボーエンとチェンもだ。
クリスはAKアサルトライフルを構えながら慎重に進むと左右に扉のようなものが見えた。
クリスは一番近くの扉に小窓が付いているのでそこから中を覗くと中に大きな椅子があり地面には無数のパイプが這っていて天井からはロボットアームが数本ぶら下がっていた。
「やばいな」
いやな予感がする。
「ロボットがいる!」
聞き覚えの無い声が聞こえ振り返ると隣の扉の小窓をボーエンが覗いていた。
それを見たワルテがボーエンを突き飛ばして変わりに中を覗いた。
「本当です!中にロボットがいます!」
クリスがワルテのところに行き小窓を覗くと中にはロボットが大きな椅子に座っていた、そのロボットには銃弾のような痕も無く見た目には新品に見えた。
「くそ、こっちにもあるぞ」
オースティンが反対側の扉を覗いて言った。
「こっちにもあります」
その隣の窓を覗いているマイクも言う。
「何だ?じゃあ元々4体あったのを一体倒しただけなのか?」
チェンが嘆くように言った、だがどれも長い間動いていないようで表面に埃が積もっているように見える。
「起動していないようだな」
クリスは言いながらロボットを確認した小窓をすべて覗いた。
「これなら応援部隊が来ても安全そうですね?」
オースティンが安心して言うがマイクが少し笑いながら答えた。
「オースティン、そんなに奥に行きたくないのか?」
すると嫌そうに答えた。
「あまり行きたくありませんね、命がいくつあっても足りなさそうですよ」
クリスは奥に続く道を見た。
「念のためにマスクの無線通信を切ってくれ、何かの機械に反応されたくない」
いいながら左手のタッチパッドで無線を切った。
他のものもわかりましたという声が聞こえた。
ライトをつけて廊下の奥を照らすと直進と左右に道が分かれているところがある。
「先に進むぞ、注意を怠るな」
クリスが自分に言い聞かせるように言いゆっくりと進んだ、左右の分かれ道があるが今はとりあえずまっすぐ進んだ。
すると開けた場所に出た、どうやら部屋に入ったようだ、ライトで壁を照らし明かりをつけるスイッチを探した。
「これがスイッチじゃない?」
チェンがそういって壁に取り付けられている四角形のボタンのようなものを押そうとした。
「待て!、勝手な行動はするな!」
クリスは怒鳴ったがチェンはスイッチを押した。
すると天井の明かりがつき暗いところを歩いていたために目が慣れておらずまぶしくて思わず目を閉じてしまった。
目が慣れてくると中の光景がはっきり見えてきた、どうやらなにか機械を作る部屋らしく作業台や見たことの無い機械などが並んでいた。
「すごい・・・・」
マイクは初めて遊園地に来た子供のように周りをものめずらしそうに見渡していて、ほかの者も同様であった、クリスも同じだ。
作業台に近づき置いてあった埃の積もったハンマーを手に取った。
だが、手に取ったハンマーの柄は劣化していたのか握った瞬間にばらばらに崩れてしまった。
「どうやら余り手を触れない方がいいみたいですね?」
今のを見ていたワルテが言った。
「そのようだな、みんなも勝手に触れるなよ、貴重な資料だ」
手に残ったカスを両手で払いながら言う。
「どうやら我々は裏口から入ったみたいですね」
オースティンが入ってきた時と反対に扉があり小窓から覗いていた。
「こっちにも廊下が奥まで続いています」
まだ奥まで続いているようだが、ヘリが到着しても問題はなさそうだ。
「今のところ危険は無いみたいだが施設は稼動してるようだな」
クリスは長距離通信機を取り出して連絡した。
「こちらスターナイトスリー、スターライト応答せよ」
少し待ったが返事が無い。
「スターライト、応答せよ、こちらスターナイトスリー、スターライト応答せよ」
やはり返事は来ない。
「ここじゃ、通信できないんじゃないですか?」
ボーエンが言うとワルテが答える。
「お前は知らなくて当然だが、それは小型だが長距離通信を行うため出力は高いんだ、ただの地下なら通信可能なはずなんだ、通信妨害でもされてるのか?」
「そうかもしれないな、この施設はまだ電気が来ているからジャマーが働いているのかもしれない、すまないがマイク、外に出て施設には侵入したが施設はまだ稼動している状況だ、念のため応援部隊は離れた所に着陸するように言ってくれ」
クリスは通信機をマイクに投げ、受け取ったマイクはすばやく胸ポケットに入れた。
「わかりました、連絡したら戻ってきます」
「いや、そのまま外で応援部隊に合流してここまで案内してきてくれ」
マイクは頷くと入ってきた道を戻って行く、オースティンがクリスを見た。
「これから我々はどうするんです?」
「地下の施設で電気がきてるんだ、施設内での安全を確保するため電気系統を制御している部屋を探して安全を確保する」
「わかりました、了解です」
クリスが言うとオースティンも納得したようであった、クリスはすばやくボーエンとチェンを見た、もう少し先に行ってからのほうが逃げられなくていいだろう。
オースティンが覗いていた奥に続く扉を開いてゆっくりと歩いて行く、やはり先ほどと同じような壁の作りをしていた、いくつか部屋があったので中を確認したがどの部屋も埃をかぶったテーブルと壁際に配線のようなものが張り付いていた。
さらに進むと下に続く階段がありクリスは迷わず階段一番下まで進もうとすると三フロアー過ぎた時に声が聞こえた。
「途中で三フロアーありましたけどどうして一番下まで行くのですか?」
後ろにいたオースティンが尋ねてきた。
「この施設はロボットで防衛して戦争で発見されないように作られていると考えれば、電源は攻撃を受けた時に一番安全なところに作るだろ、私なら一番深い下にするんじゃないかと思ったんだが、どう思う?」
クリスがオースティンに振り返りながら聞いた。
「確かにその可能性が高いと思いますよ」
「それとだな・・・・・」
クリスはオースティンの耳元に顔を近づけ小さい声で言った。
「ここはボーエンとチェンを先頭に行かせてくれ、始末は私がする」
「OKです」
最後の階段を下り地面に足をつけると今までとなにかが違う雰囲気を感じた、明りがついていないのでライトで照らして先を見ていると後ろにいたオースティンが隣に降りてライトで周りを照らした、オースティンも何か感じたらしく呟いた。
「なにか感じが変わりましたね・・・」
「空気がさらに悪くなった感じだな」
「確かにそうかも知れないですけどね・・・」
オースティンは納得していない様子であった、階段の下で立っていると隣をチェンとボーエンが通っていく。
「あれを見ろよ、何かあるぜ」
チェンが走り出して廊下の片隅にしゃがみこんだ。
「勝手に動くな!」
ワルテがチェンを追って行く、追いつくとチェンはすでに何かをあさったらしく埃が舞った。
「勝手に触るんじゃない」
オースティンは近づきチェンの肩に手を置いて振り向かせるとチェンのゴーグルは埃りまみれになっていた。
「取った物を渡せ」
そういうとチェンがボールのようなものを投げつけた。
オースティンの胸にあたり思わず両手でキャッチしたが、キャッチしたものは歪な形をしていてよく見ると人間の頭蓋骨であった。
「うわっ」
声を上げ思わず手を引っ込めてしまい、頭蓋骨は地面に落ち一部がかけ破片を飛ばしながら転がった、その様子を見たチェンは声を殺して笑い方が揺れた。
ワルテはしゃがんだままのチェンのわき腹を蹴り、蹴られたチェンは横に倒れた。
「馬鹿にしやがって」
異変に気が付いたクリスが近寄ってきたてチェンのことを一瞬見たが、すぐにワルテの前にある頭部の骨を拾った。
「この場所で死体を見たのは初めてだが、白骨化しているな」
頭部の骨を見たが銃で撃たれたような穴は無かった。
頭が取れて埃をかぶった服を着た骸骨に近づき何か持っていないかひっくり返して探したが、服のポケットの中を探ろうとすると布が引きちぎれボロボロになった。
「他にも無いか調べてみろ」
クリスが言うとオースティンとワルテは廊下を進んでいき、倒れているチェンとボーエンに向かっていった。
「勝手に触るな、何かするときは許可を求めろ、わかったな」
「次はそうするよ」
チェンが埃まみれになりながら立ち上がるとズボンや上着に付いた埃を手で払った。
それよりもクリスはどうしてこの死体がここにあるのかを考えた、ここはロボットによって守られていて外よりは確実に安全であるように思えるが何か問題があったのだろうか?。
クリスはボーエンとチェンを先に行かせて廊下を進むと左右に開けられた扉があり左側の方を覗くとしゃがみこんだオースティンがいた。
「何かあったか?」
「見てくださいよ、これ」
近づいていくと部屋の端に6体の白骨化した死体が壁に寄りかかるように並んでいた、そのうちの3体は他のよりも小さく子供のようだ。
「家族だったんですかね」
「そうかもしれないな、他になにかあったか?」
「そこの机の上にファイルがありますよ、手に持つと壊れそうなんでそのままにしてありますが」
オースティンが言いながら指をさした、その先には一人用のデスクがありコンピューターが載っていてその傍らに書類のような紙が挟まったファイルがある。
近づいてファイルを見ると表紙になにかマークのようなものが書かれていた、落書きかも知れないがゴーグルのカメラ機能で撮影した。
机の引き出しを開け中身を見ると書類のようなものが入っていたが、読めない文字が書かれていて内容はわからない。
さらになにか無いか引き出しを開けて探した。
「クリス、こっちに来てください」
ワルテの声が聞こえ廊下に行くとワルテがいた。
「あれを見てください」
指を指す方向を見ると監視カメラが設置されている扉があった、ライトで照らすとわかりにくいが監視カメラは作動しているのか赤いランプが小さく光っているのが見える。
「あの奥になにかありそうですね」
「そうだな」
クリスはそこには行かず簡単に回りの部屋を覗いて行った、どの部屋もオースティンがいた部屋と似たような作りだった。
クリスが階段の近くに戻ってくるとオースティンとワルテが話していて、それを黙ってボーエンとチェンが見ていた。
オースティンがクリスを見た。
「クリス、ちょっとこちらに来てください」
オースティンはボーエンとチェンを見てこちらを見ているのを確認するとワルテにいった。
「ワルテなにかボーエンとチェンに話しかけて気をそらしてくれ」
「はい」
オースティンはワルテが二人に話しかけるのを確認した。
「一体どうしたんだ?」
あまりに大げさなので思わず笑いながら尋ねるとオースティンはムッとしたような声で言った。
「笑い事ではないですよ、なにかここに来てへんな感じだと思ったんですけどその原因がわかったんですよ」
「空気が循環してなくて悪いって事じゃないのか?」
クリスも違和感を感じたが、長年空気が留まっているためカビや埃のせいだと思った。
「違います、ここを見てくださいよ、鉄板に囲まれて似たような部屋がたくさんある通路、どこかで見たと思いません?」
言われて通路をライトで照らしながらもう一度見てみた、言われるとどこかで見たような気がしてくる。
考え込んだクリスにオースティンがせかすように言う。
「南極基地ですよ、南極基地、ここの様子を見てくださいよ、まるで南極基地の居住区そっくりじゃないですか?」
オースティンはライトで廊下の全体が見えるように照らした。
その言葉を聞くと背筋に悪寒が走った、オースティンの言う通りだ、何でいままで気が付かなかったのだろう、自分で言っていたじゃないか南極基地と同じようにと、ここが居住区であるというならすごい発見だが、どうして人が死んでいるんだ?。
「あの先が余計気になるな」
クリスは監視カメラが起動している方を見た、オースティンもそちらを見た。
「もしかしてあの中で生活をしている人間がいるかもしれませんよ」
廊下にある部屋をただ調べるよりもだんだんとあの扉を開けたい気持ちが高まってくる。
振り返りボーエンとチェンを見た。
「あいつらに行ってもらう、そのために連れてきたんだからな」
クリスはAKアサルトライフルを構えた。
「犠牲になっても問題ないですからね」
オースティンがワルテに近づいて耳打ちをするとワルテとオースティンはAKアサルトライフルをチェンとボーエンに向けて構えオースティンが言う声が聞こえた。
「お前ら身に着けているマスクとゴーグルを地面に捨てろ」
オースティンが命令するとボーエンが苛立つようにいった。
「何を言っているんだ?お前たちが付いてきたほうがいいといったから付いてきているだけで、お前らの言うことを聞く必要はないぞ!」
ボーエンがオースティンを突き飛ばそうとしたが、オースティンが突き飛ばされる前に隣のワルテがすばやく動きボーエンの腹を銃床で横殴りにし、体を降りたたたむように床に倒れた。
隣にいたチェンはおとなしくゴーグルとマスクを取った、チェンの顔は蒸れていたのか顔が汗で光っていて取ったものをワルテが受け取った。
オースティンは倒れたボーエンのゴーグルとマスクをむしり取ると、ボーエンの顔は殴られたときに口から出たよだれで濡れて光りマスクに糸を引いていた。
オースティンはそれらを地面に投げ捨てて踏みつけゴーグルはレンズ部分が壊れ、マスクはフィルター部分が変形して使えなくなった。
それを見たワルテも持っていたゴーグルとマスクを投げ捨ててから踏みつけて壊した。
「毒ガスのようなものは無いみたいだな」
クリスが言いながら近寄ると、倒れたままのボーエンを無理やり立たせた。
「君が悪いんだ、私は君を逃がしたのに付いてくるから・・・・」
「くそ野郎!」
隣にいたチェンが呟くとクリスは迷わずチェンの顔を殴った、グローブをつけているので全然痛くなかったが殴られたほうはたまったものではないだろう。
チェンの顔を見るとクリスを見て笑った。
「くそ野郎が!」
今度はオースティンが殴り鈍い音が響いてよろめいた。
「おとなしく言うことを聞いてもらう、二人いるんだから一人死んでも別にかまわないんだぞ!」
「そんな事いってどうせ両方殺すんだろ?」
ボーエンが睨みながらクリスに言った、するとクリスはAKアサルトライフルではなく腰のガバメント拳銃を抜き安全装置をはずしてボーエンに向けた。
「そんなに死に急ぐなら今殺すぞ?」
クリスは笑ったがマスクを付けているためボーエンは気が付かなかった。
クリスの言葉にボーエンは黙ってしまった。
「おとなしく言うことを聞いてもいいが、俺たちに何ができると思っているんだ?何もできないぞ?」
チェンが殴られた顔をさすりながら言う。
「黙って言うことを聞け、まずはあの監視カメラが付いている扉まで歩いて行くんだ、わき道に逃げようとしたら迷わず撃つからな」
クリスが命令し拳銃の銃口を振るとオースティンとワルテがボーエンとチェンの肩を押すと黙って歩き始め、二人の後を少し間を空けて続いた。
クリスは前を歩くボーエンとチェンをライトで照らし視界の片隅に置きながら監視カメラを見た、気のせいか先ほどより少し向きが変わった気がしたので足を止め後ろから来るオースティンとワルテに進まないように合図を送って足を止めた。
前の二人はどんどん進んで行き監視カメラのある扉の前で立ち止まった。
三十秒くらいたとうとした時チェンが振り返った。
「おい、どうすればいいんだ?何も起こらないぞ?」
隣にいるボーエンも振り返りクリス達との距離を見て言った。
「そんなに離れているのかよ」
オースティンが大声で言った。
「ドアを開けてみろ!」
ボーエンは扉を見て取っ手を探したが無く、扉を押したり引いたり横に引いて開けようとしたが手がすべるだけでびくともしなかった。
するとチェンが扉を叩いた。
「誰かいますか?もしもし、誰かいますか?」
言いながらさらに強く叩き始めた。
「勝手な行動をするな!」
オースティンが叫ぶとチェンが睨みながら振り返った。
「じゃあどうするんだ?何も反応しないぞ」
「なにかスイッチが無いか探してみろ」
ボーエンとチェンはスイッチを探して周りを見たが明かりが無いためによく見えない、するとボーエンがこちらに向かって言った。
「暗くてよく見えない、ライトを貸してくれ」
クリスはワルテを見た。
「ライトを貸してやれ」
ワルテがAKアサルトライフルの銃身についているライトを取り外してボーエンに向けて投げた。
ライトは光りが点いている為に光が弧を描いて足元に転がって行くのが見え、ボーエンは拾うと扉を照らした。
扉にスイッチは無く先ほど触った所の埃が手の形に取れていた、監視カメラをライトで照らしてレンズの奥に動きがあるかを見ていた。
だがまったく動きは無いようで埃がカメラの上に積もっているのが見えた、しかしカメラは廊下の歩く人を撮るため少し下向きになっているためレンズには埃は積もっていなかった。
ボーエンがライトで廊下の壁を照らすと左側の壁に出っ張りがあるのが見えたが、埃でなにかよくわからない。
「なんかあるぞ」
ボーエンも気が付いたようで言われたチェンが埃を払うために出っ張りをなぞるように触った、埃が取れるとそこにはなにか十五個くらいのボタンとボタンになにか文字のようなものが書かれていた跡が残っていた。
「どうするんだ?これ?」
チェンが大声でクリスに言った。
「何があったんだ?」
「ボタンのようなものが十個以上あるんだがどうすればいいんだ?」
クリスの問いにボーエンが答えた、クリスは隣にいたオースティンとワルテに言った。
「あの扉が開かないならばあいつらにはもう用が無いな」
「そうですね」
「俺はボーエンをやりますよ」
オースティンがボーエンを殺すと言った。
「私がチェンを始末する、ワルテはなにかあったときにすぐに対応できるようにしてくれ」
「わかりました」
クリスとオースティンがAKアサルトライフルを構えて二人に狙いを定めた。
その動きに気がついたのかチェンがボタンをでたらめに押し始めた。
「何をしてるんだ!撃たれるぞ!」
ボーエンがチェンの肩を掴みボタンを押させないようにしだが、振り返ったチェンは必死な顔で叫んだ。
「このままここで殺されるわけには行かないんだ!!」
チェンはボーエンの掴まれた手を払い更にボタンを適当に押した。
すると扉がいきなり光りボーエンとチェンは慌てて扉から逃げるように後ろに下がった。
クリスは黙って様子を見ているとオースティンが二人に叫んだ。
「どうした!?」
「わからない、こいつがデタラメにボタンを押したらこうなったんだ!!」
ボーエンがチェンを指差した、近くで見ると扉が光っているように見えたがしっかりと見ると扉の前の廊下の天井のはめ込み型ライトが点き上から照らされていた。
チェンがデタラメに押したボタンの上に赤いランプが点滅しているのを見たボーエンが言う。
「お前がボタンをむちゃくちゃに押すからヤバイそうになってきたぞ!」
ボーエンとチェンは急いでそこから離れようと逃げ出したがクリスたちのライトがまぶしくて思わず手で目をかばった。
「動くんじゃない!、その場にいろ!」
オースティンが叫び二人はその場で足を止めた。
ボタンの上の赤いランプが点滅が止まり緑色のランプが点灯するとなにか機械が動く音が聞こえ、ボーエンとチェンは周りを見回しその様子をクリスたちは離れたところで見ていた。
「おい、扉が開いていくぞ!」
ボーエンが持っているライトで監視カメラのついている扉を照らすと真ん中から左右に開いていくのが見え、中からもれてくる空気で埃が舞い上がり二人は目をつぶり口に袖口を押し付けて埃を吸い込まないようにした。
クリスは二人が埃に飲み込まれるのを見て扉の中に逃げ込むのではないかと思い近づいくがすぐに埃が目か口か鼻に入った二人が咳き込む声が聞こえた。
二人とも目をこすって埃まみれになっていた、だがクリスは二人よりも扉の奥の光景に目を奪われた。
「どうなっているんだ?これは?」
ワルテも目を奪われているようでいいながらボーエンとチェンを追い越して部屋の中に入って行く、テニスコートより大きな屋に大きなロッカーが大量に並んでいるのが見えた。
「おい、止まっていないで進むんだ」
クリスは開いた扉に向かい立ち尽くしているボーエンの背中をAKアサルトライフルの銃口で突いた、ボーエンはクリスを見て何か言いたそうにクリスを見たが黙って前を見て歩き出した。
「お前もだ」
オースティンがチェンの足を蹴り進ませた。
クリスは持っているライトで二人の背中を照らしているがボーエンのライトで照らされる部屋の中の様子に目を奪われた。
ロッカーは奥に向かって大量に並んでおり五十メートルくらい続いているように見え、部屋の中に入ったボーエンが周りを照らすと奥だけでなく左右にもロッカーが並んでいるのが見えた、ワルテは周りを見渡しながらどんどん奥に進んでいく。
「勝手に動くんじゃない」
クリスがワルテを注意したが興奮していて聞こえていないのか脳に声が届いていないらしくロッカーの間を進んで行くといきなりロッカーに寄りかかった。
オースティンがその様子を見て大声で怒鳴った。
「ワルテ!、勝手な行動をするな!!」
「静かにしてください!!」
ワルテが怒鳴り返したためオースティンとクリスは固まってしまい、ボーエンとチェンはいきなりだったので驚いた。
ワルテは我々を気にも留めずにロッカーに寄りかかったままであった、クリスはどうするか悩んでオースティンを見たが、オースティンも対応を決めかねていた。
するとワルテが寄りかかるのをやめてクリスたちに叫んだ。
「この中なにか動いてますよ!、耳を当ててみてください!」
ロッカーを指差した、するとボーエンやチェン、クリスやオースティンも近くのロッカーに耳をつけ中の音を聞こうとした。
クリスとオースティンはマスクとゴーグルをつけているために中の音が聞こえにくかったが周りが静かなため中で機械が動いているかすかな作動音が聞こえた。
「本当だ、何か動いているな」
クリスが呟きオースティンを見ると中の音はまだ聞こえていないようであったが、ボーエンとチェンの二人のどちらかが「聞こえた」と言った。
「クリス、これはサーバーじゃないですか?この数は南極基地でも見たこと無いですよ」
オースティンが言うとワルテが近寄ってきてクリスを見て興奮しながら早口で言う。
「俺はスーパーコンピューターかなにかじゃないかと思うんですが・・、とにかく貴重なもので大発見ですよ」
「わかった、とりあえず落ち着け」
クリスはワルテを落ち着かせながら部屋全体をライトで照らして見渡した。
南極基地のサーバーには基地に閉じこもるまでのアメリカの大事な情報データが収められていた。クリスは専門家ではないので答えは出せないが重大な発見であるということは理解していている。
「あそこに扉があるぞ」
ボーエンがライトで照らしている先を見ると奥のほうに扉が見え、その扉には監視カメラのようなものはついていなかった。
「おい、あの扉を開けてこい」
オースティンがボーエンとチェンの二人に命令すると二人は黙って扉に歩いていきクリスたちはその後ろについて歩いた。
扉の前に行くとボーエンがライトでスイッチを探したがそれらしいものは見当たらず、チェンが扉を開けようと近づくと扉が自動的に左右に開いた。
扉が開こうとする時にチェンは後ろに下がりワルテの銃口に背中をぶつけた。
「お前、臆病だな」
ワルテはいいながらぶつかられたAKアサルトライフルの銃口でチェンの背中を突いて笑った。
ボーエンが廊下に一歩踏み出すと廊下の天井のライトが一斉に点灯し一気に明るくなった。
廊下の先が三又に分かれているのが見えワルテとボーエンとチェンはその手前まで歩いて行き立ち止まった。
オースティンが他のものには聞こえないようにクリスに顔を寄せて小声で言った。
「クリス、もう二人は要らないんじゃないですか?」
「あぁ、そうだな、これ以上進む必要は無い、だがここで殺すわけにも行かなくなった、外まで連れて行く必要があるな」
このすばらしい施設を二人の血で汚すわけにはいかない。
「ワルテ、これ以上進む必要は無い、止まるんだ」
クリスが言うとワルテが足を止めて振り返った。
するとワルテの背後にいたチェンが振り返るのが見えAKアサルトライフルで狙いをつけようとしたがチェンの動きが早かった。
チェンはすばやくワルテの腰のホルスターからガバメント拳銃を抜きワルテの腰に突きつけ叫んだ。
「動くんじゃない!、こいつがどうなってもいいのか!?」
クリスとオースティンはワルテを盾にされているので動けない。
「ワルテを盾にしてもここから無事に出ることはできないぞ!!」
クリスが怒鳴るとオースティンが続けた。
「今なら無かったことにしてやるしお前を助けるように動いてやる、だから銃を捨ててワルテを放すんだ!」
オースティンはクリスを見た、もちろん開放したらその瞬間に捕まえるか撃ち殺すことを確認した。
「お前らなんて信用していないんだから言うことなんか聞けるわけ無いだろ」
チェンは言いながら笑った。
チェンより後ろにいるボーエンは突然のことでどうすればいいのかわからないらしくチェンとクリスたちを交互に見ているとチェンが言った。
「おい、ボーエンだったな、あいつらのところに移動しろ、変な気を起こすなよ、こいつを助けたってあいつらはお前を殺すぜ」
「そんなことはしない、助けてくれ」
ワルテがボーエンに向かって手を伸ばすとボーエンは困ったような顔をした、チェンはワルテにガバメント拳銃を突きつけたまま引きずって後ろに下がった。
すると突然背後からボーエンがチェンに飛び掛りガバメント拳銃を奪い取ろうと掴みかかった。
ワルテは自由になりすばやく動きチェンとボーエンが掴み合っているがワルテはチェンに狙いを定め思いっきり蹴飛ばすと、チェンは突き飛ばされ廊下にガバメント拳銃を落とし倒れた。
クリスとオースティンはワルテがジャマになってチェンを撃つことはできないので急いでワルテに近づくとワルテがチェンを見下ろしながら怒りで顔を真っ赤にして言う。
「よくもやってくれたな」
ワルテがAKアサルトライフルを肩で構えてチェンに狙いを定めて近づいた。
「待って!!」
聞いたことの無い女性の声が廊下に響いた、クリスとオースティンはAKアサルトライフルを肩に構え周りを見渡した。
「誰の声だ?」
ワルテが一瞬クリスたちを見るために後ろを振り返った瞬間にチェンが立ち上がろうとした。
それに気がついたクリスが叫んだ。
「ワルテ、前だ!」
クリスが叫ぶと同時にオースティンが走り出した、ワルテがチェンを見るとチェンは落としたかガバメント拳銃を掴み立ち上がりガバメント拳銃を右手に持って狙いをつけているのが見えた。
ワルテはAKアサルトライフルの引き金を引いた。
だが、チェンはすばやく横に飛び銃弾を避け発砲音が廊下に響き頭を揺さぶるように響いたがさらに発砲音が響くとワルテが仰向けに倒れた。
「ワルテ!」
オースティンが叫びAKアサルトライフルを撃つとチェンはボーエンの後ろに隠れボーエンが銃弾を浴び小刻みに震えた、後ろ隠れたチェンに血がかかるのと同時に力を失ったボーエンの体がチェンに覆いかぶさるように後ろに倒れた。
クリスはチェンに狙いをつけ引き金を引こうとしたが、発砲音とともに近くの壁で火花が飛び思わずクリスとオースティンは身をかがめサーバーのようなものがおいてある部屋まで下がった。
「何なんだ?さっきの声は!?」
オースティンが叫ぶとクリスは扉からそっと顔を出して廊下を見た。
ワルテがの胸が呼吸で上下しているのが見えるのと同時に近くの廊下で火花が散って発砲音が響いて顔を引っ込めた。
「ワルテは生きているぞ」
「本当か?」
オースティンが言いながら廊下を見るとチェンがAKアサルトライフルを撃ってきた。
「くそ、AKを取られた、あれを撃たれたら後ろのサーバーなんてすぐに壊れますよ」
クリスは胸ポケットから手榴弾を取り出した、これを使えばチェンを殺せてサーバーを守ることができるが近くにいるワルテも確実に巻き込んでしまう。
黙ってオースティンを見ると顔を立てに振った。
「あいつら手榴弾を使うつもりよ、後ろの廊下を右に曲がって!」
また女性の声が聞こえた、思わずオースティンが怒鳴った。
「誰なんだいったい!、人がいる様子なんて無いぞ!」
「落ち着け、まずはチェンをしとめるぞ」
クリスは廊下を覗きチェンがボーエンをどけて立ち上がろうとするのが見えAKアサルトライフルで撃とうとしたがチェンのAKアサルトライフルの銃口が光るのが一瞬見え自分の体中に銃弾が突き刺さるのを感じた。
全身に痛みを感じ銃弾を受けたところは燃えるように熱く感じる、恋人のフランクとすごした日々を思い出しフランクの笑顔が頭の中に何度も浮かんでくる、フランクの言う通りこの仕事をやめておけばよかったと思ったが手遅れだ、もう会えないと思うと泣き叫びたくなるが涙を流す力も無くなり何も考えられなくなった。
体が後ろに飛び床に背中を打ちつけたが痛みは無く、目の隅でオースティンがAKアサルトライフルを撃つのが見えた。
オースティンがクリスの服を掴みサーバーの部屋の中に引き込んだがクリスから流れ出た血が水溜りのように広がった。
「クリス!しっかりしろ!」
オースティンは叫んだがクリスの反応はなく死の恐怖で顔が引きつったまま固まっていた。
Akアサルトライフルを構え廊下の奥に逃げようとするチェンを狙い引き金を引いたがいきなり廊下の上から防火シャッターが下りて銃弾が通らない上にそれ以上追うことはでき無い。
倒れたまま動かないクリスの脈をみたが止まっていた。
「くそっ!!」
オースティンは呟くとワルテに駆け寄った。
ワルテとボーエンは生きていた、ワルテは左肩に銃弾を受けショックで気絶しているだけであったが、ボーエンは胸に銃弾を受けて虫の息だ。
「ワルテ!、しっかりしろ!」
ワルテを揺するとすぐに気がついたが、痛むのかすぐに左肩を抑えてうめいた。
「あいつはどうなりました?」
「クリスがやられて逃げられた」
「クリスが?」
ワルテが信じられないといった表情をするのでオースティンはクリスの死体を指差すとワルテの顔に怒りが浮かんだ。
「あの野郎!、ゆるさねぇ!、すぐに追いかけましょう」
腕を押さえながら立ち上がり廊下を見て道が一つ塞がれている壁に気がついたのでオースティンが言う。
「あいつが逃げたらシャッターが降りてきて追う事ができないんだ、一旦外に出て応援部隊に奴が逃げられないように周囲を固めてもらおう、それに・・」
オースティンはクリスの死体を見た。
「遺体も回収してもらわなければならないからな・・」
「そうですね・・・」
二人が出口に向かって歩こうとするとオースティンはなにかが足に当たり足元を見ると、足をボーエンが掴もうとしている。
「何をするんだ?」
オースティンが手を避けるように下がりながらAKアサルトライフルを向けて言うとボーエンの口が動いたが声になっていない。
「どうした?」
「なにか言いたいんじゃないんですか?」
ワルテがいい、オースティンは膝を突きボーエンの顔に耳を近づけるために手を地面につくとボーエンの血溜まりで手袋に血が染み込んで中に入ってくるのを感じて気持ち悪い。
「何が言いたいんだ?」
ボーエンの口に耳を近づけると、かすれる声で聞こえた。
「あいつは危険だ・・・・、あいつにだまされるな・・・」
「どういうことだ?」
「最初に会った場所で盗賊に襲われた時、お前たちの仲間を助けたのは俺ではなく、あいつだ・・」
オースティンはそんなことがあったか少し考えた。
「それに俺がお前たちに追いつけたのは・・・・、あいつが発信機をつけて追ってくれば盗賊を全滅させることができるかもと言ったんだ・・・、それから」
「それから何なんだ?」
「あいつは・・・・」
そこで糸が切れたように全身から力が抜け倒れた。
「何だ!、おい!」
ボーエンを必死に揺すったが何の反応も無く死んでしまったようだ、オースティンは立ち上がり手についた血を服で拭いワルテを見た。
「戻るぞ、クリスの武器を持ってくれ、あいつに使われるわけには行かない」
「わかりました」
ボーエンがクリスの死体まで行き胸で手で十字をきって祈ってから武器を回収して立ち上がった。
「・・・行くぞ」
クリスの死体を見ていたオースティンが出口に向けて走り出し、ワルテも肩の痛みをこらえて走った、するとワルテが走り息を切らせながら尋ねた。
「あいつは最後になんて言おうとしたんですかね?」
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