第二話 懐疑と襲撃

 メリディフォレス砦から少し離れた北西部の森の中、ブラーシュ兵団の斥候部隊はあたりを警戒しつつ慎重に歩を進めていた。

 隊長機、副隊長機合わせて十四機、つまり一個中隊相当の斥候部隊は、普通の戦場なら多すぎるくらいだ。しかし、この旧帝国領に入ってから幾らか戦闘を経た彼らにとっては、これでも心もとないように感じていた。

「敵は一機で俺たち三機以上を相手にできる化け物だ……。全員少しでも警戒を怠るな」

 斥候部隊の隊長が各員に念を押し、見通しの悪い森の中を進んでいく。

 現在、彼らはは敵の接近を本体に知らせるため同じルートを幾つかの隊に分かれ巡回していた。もしかすると他の隊が接敵しているかもしれないという不安に駆られながらも隊員達は目の前の光景に目を凝らす。

 相手の力は自分の数倍、少しでも敵の動向を見逃せば自分の命は無い。

 本来なら死んでいてもおかしくない死の領域の中で、隊員達は血眼になって周囲を警戒する。

 斥候部隊が巡回ルートの復路につこうとしたした時だった。一人の隊員が森の奥で動く影に気が付いた。

 自分たちの機体の出す騒音で音は聞こえない。だが、確実に何かがこちらに向かってきている。

「隊長っ!」

 隊員は素早く周囲に合図を送る。

 視線の先の影は遠く、まだはっきりと姿は視認できない。だが森の木々を揺らしながら歩くその巨体はおそらく、というより確実にレヴォグラディオだろう。

「まだ距離があるな。数がわかり次第対処に当たる。全員戦闘準備!」

 隊長の指示に、各々が武器をとり、なるべく目立たぬようじっと敵の動向を観察する。

 だが暫くして彼らは、その目を疑う出来事に直面した。

「じょ、冗談、だろ……?」

 震える声が漏れる。

 彼らの視線の先には一見するだけで十を超える敵の姿があった。

「こ、こんな数、どう対処するっていうんだッ!」

 ノウストレータを相手にする人間同士の戦場ならば、数で何とかできただろう。 しかし敵は化け物じみた力を持った慈悲無き巨人だ。

 隊員たちは不安を顕わにし、一人の隊員が恐れに一歩後ずさった。

 しかし、慄く隊員たちに向け、隊長があらん限りの大声で檄を飛ばす。

「怯むなッ! ここでこの数を後ろに通すわけにはいかんッ! 何としてもここで食い止めるぞッ! 電信係は本体に緊急電信を送れ!」

 隊長の一言で隊員達は再び武器を構えなおし、向かってくる武骨な巨人たちに向き直る。

 暫くして、二つの勢力が激突した。

 互いの武器と武器がぶつかり合い、火花と轟音が森中に響き渡る。

 はじめは相手の勢いを殺し反撃を試みたものの、やはり一機ごとの力の差が如実に表れ、一機、また一機と斥候部隊は数を減らしていく。

「こ、この化け物がぁぁぁぁッ!」

 叫び声を残し八機目が土埃をあげ地に倒れた。

 戦況は絶望的。援軍が付くまでにはまだいくらか時間がかかるだろう。

 隊長は覚悟を決め、目の前の巨人たちに向き直る。

「たとえ刺し違えてても貴様らをここで食い止めるッ!」

 その後暫く、森には鉄と鉄のぶつかり合う鈍い破砕音が続響いた。



      ◇


 エルナたちが移動した先は、先ほどアルベルト(バート)が目覚めた部屋よりもやや広い部屋だった。

 そこはメリディフォレス砦の中の広場に建てられた仮設の建物で、外から見ると鉄板で覆われた箱の様な形をしている。折りたたんでノウストレータに積むことで容易に運ぶことができ、遠征の際には必ずと言っていいほど使われている便利品だ。

 広場はかなりの広さがあり、そこではたくさんの人やノウストレータが物資の運搬や破損個所の修理などで慌ただしく歩き回っている。

 その中央に佇む仮の建物の中、地図の敷かれた大きな机を挟みバートとエルナは向かい合っていた。

 部屋にはこの二人以外に、数人の男女の姿があった。

 一人は短く刈った赤紙に高身長で厳つい体躯の男。この兵団の副団長、ダリウス・アーレンスだ。二人目は先ほどバートが目覚めたときに傍にいた肩にかかる栗色の髪を揺らす、柔らかい面持ちの少女。

「あ、お前さっきの……」

「ユッタ・ヴァルツェルと言います」

 早速声をかけた主人公に対し、ユッタと名乗った少女は優しく微笑んだ。

「俺はダリウス・アーレンス。この兵団の副団長だ」

 ユッタの隣に立つダリウスが笑顔で片手をあげた。

 そして部屋の中にいるもう一人の男、短い金髪の青年がダリウスの視線に気づきおもむろに口を開いた。

「……ジャック・カルヴェスだ」

 比較的友好的だった最初の二人とは違い、青年は目も合わせずぶっきらぼうに名乗った。

 バートは向けられた態度に首を捻りつつも、エルナに向き直る。

 三人が名乗り終わるのを確認してエルナもそれに続いた。

「さっきも名乗った、私がこのブラーシュ兵団の団長、エルナ・ブラーシュだ」

 しかし、名前は先ほど聞いたものと同じだがバートは眉を顰める。

(兵団? 聞いたことが無い集団だ……。それにこのエルナって子、これで集団の長ってのは若過ぎやしないか……?)

 バートの疑問は尤もなものだった。エルナは年齢的にはまだ十八歳の少女であり、口調こそ大人びているもののその整った顔立ちにはまだ幼さが残っている。しかし、ノウストレータの兵団を率いるブラーシュ家のもとに一人娘として生まれた彼女は、幼い頃から厳しい訓練を受け、人並み以上の知識と実力を持ちその場に立っているのだ。周囲の人間もその功績を認め、彼女は団員からは多くの信頼を集めている。

 だが、そんなことは露も知らないバートは不思議そうな顔をしていたが、暫くして別の問題に思考を巡らせる。

(ここにいる奴らが胸につけてるエンブレムは俺たちの国のだ。ってことは俺たちの失敗の後人類は自力で危機を脱したのか……?)

 なにやら考え込んでいるバートに、エルナは仕切りなおすように咳ばらいをした。

「ではまずアメルハウザー、貴様について聞こう」

「あぁ、俺も気になることがてんこ盛りだ。いろいろ教えてほしい」

 仮にも兵団の団長という地位にいる彼女は、やけに軽々しいバートの態度に少し怪訝そうな表情を見せたが質問を続けた。

「名前はアルベルト・アメルハウザー。違いないな?」

「あぁ、嘘ついても仕方ないからな」

 バートの答えをエルナの隣に座ったユッタが紙面に書き記していく。

「私たちは遠征の途中、お貴様を発見した。その時貴様は見たことのない機体に乗っていた。機体には我が国の紋章が彫られているが、あのような機体が製造された記録は我が国にはない。一体あれは何だ?」

 エルナの質問に、バートは若干緊張の色を見せた。

「……マグナモール、俺がガスタンから引き継いだだ」

 バートの答えに機体名はやはり国の製造リストに無い機体名だった。

(やはりリストには無い。怪しいな……。それにガスタン? 引き継いだ? なんのことだ?)

 湧いた疑問と懐疑の念を押しのけ、エルナは質問を続ける。

「ところで、そのマグナモールといったか、その機体……、長くあそこにあるようだが貴様はあそこで何をしていた?」

「何をしていた、と聞かれたら戦ってたんだが……。おかしいな、軍に俺たちのことは伝えられてなかったのか……?」

 青年は首を傾げつつ、後半は小声でぼそぼそと呟いた。

「戦っていた……? 一体何と?」

「何って、暴走したレヴォグラディオ。それ以外ないだろ?」

 確かに、この地において戦うべき相手はそれ以外には存在しない。だがその一言でエルナの胸の中は激しい違和感で満たされた。

 レヴォグラディオが暴走し、旧帝国領が失われて千年、人類が再びこの地に踏み入ったのはここ百年ほどの話だ。だが発見された機体は傷みこそ少ないものの、もう何百年もそこにあった様に佇んでいた。

 しかし、違和感の正体に思考を巡らせるエルナの耳に、さらにそれらに拍車をかける言葉が舞い込んできた。

「俺たちはあいつらの暴走後、帝国以北が滅びる中でその侵攻を止めるために作戦行動をとった、けどそれは失敗したはず……。マグナモールは残ってるみたいだし、俺の母国は滅びてない。ってことは誰かが作戦を成功させたのか? それにあの鼓動の聞こえない機体は、もしやロリサイコの新兵器……」

「ちょ、ちょっと待て。作戦? 失敗? 一体なんの話だ? 我々人類がこの地に再び踏み入ったのはここ百年の話だぞ⁉」

 彼女の言う通り、人類がブラーシュ兵団のような調査隊をこの地に送り込んだのは最近の話だ。それ以前、この地に踏み入ったものは例外なく帰っておらず、ノウストレータを使た大規模な作戦行動など行われていない。

 彼女はだんだんと違和感に察しがついてきた。

(彼の話は、時間軸が我々とはずれている……?)

 だが、その推測を信じ切れず、エルナは言葉を続ける。

「レヴォグラディオが暴走し帝国以北を滅ぼしたのは……」


「千年以上も、前の話だぞ……?」


 エルナの口から飛び出た耳を疑うような言葉に、バートはその言葉に暫く呆けていた。

「嘘、だろ……」

 エルナの言葉に、額や背中に冷たい汗が浮き出す。

「ま、待ってくれ、い、今は帝国歴で何年だ……?」

 未だ冷静さを取り戻せないまま、バートは恐る恐るエルナに尋ねる。

「二二〇七年だが」

 帰ってきた答えに嫌な予感が的中し、バートは額を押さえる。

「そ、そんな……馬鹿な……」

(いや、でも確かに俺の記憶はこの砦の前で力尽きた一一五三年で途切れてる。それに、ならそれくらいの時間は生きられる……。ってことは……)

「ほんとに俺は千年も眠りこけてたってのか……?」

 困惑の表情を隠さないバートに、一転してエルナは懐疑的な目線を向ける。

「今までの反応からすると、貴様はレヴォグラディオが暴走した当時、つまり千年も前からこの地で昏倒していた、ということになるが」

 人間の寿命は平均して七十歳くらいだ。普通の人間ならば千年生きて眠り続けることなど不可能である。

 目の前の青年に納得できないエルナには、怒りに似た焦りの感情が湧き出していた。

 しかし、そんなエルナを差し置いて、バートは首を傾げつつもそれを肯定してしまう。

「そういうことに……なるな……」

 その答えに、遂にエルナは声を荒げた。

「そんな馬鹿な話があるわけないだろうッ! 人間が千年も生きられるものかッ! お前といい、あの機体といい怪しすぎる、一体何を隠しているッ!」

 エルナは突如椅子を蹴倒し立ち上がった。

 普段の彼女なら、このような感情を顕わにするようなことは決してしない。だが、今の彼女はそんな精神すらも揺るがすほどに混乱していた。

 目の前の青年の言っていることは一言で言っておかしい。普通の人間が千年も生きていられるわけがない。

 青年が嘘をついていると決めつければ簡単だが、彼女にはそれができなかった。 見つかった時の青年の服装や機体の状態は、千年前のものであると言えなくもなく、完全に否定しきれなかったからだ。

 それでも現状を信じられない彼女は言葉を続ける。

 そんな罵声に似た嵐の中、バートはふと、胸に引っかかる何かを感じた。

 精神を集中させ、何かの正体を探る。

 そして、もう一度胸にそれが響いたとき、その正体に行き着いた。

「北西方面から二十、いや、三十四機来る」

 バートはそれまでとは違った真剣な声音でエルナの言葉を遮った。

 突然の言葉に、エルナは眉を顰める。

「な、なにを言ってるんだ貴様は?」

「だから、北西の方角から敵が来るって言ってんだッ!」

 バートの訴えにエルナや静かに部屋に佇んでいたほかの人物も首を傾げる。

「ダリウス、斥候からなにかそれらしき電信は……?」

「いや、今のところは」

 ダリウスの答えを聞いたエルナはより険しい目つきでバートを睨んだ。

 そして、再び口を開こうとした、その時だった。

「団長、緊急の電信ですッ!」

 鉄製のドアを勢いよく開け、一人の男が慌てた様子で入ってきた。

 男は、息吐く暇もなく次の言葉を続ける。

「見張りに出ていた斥候より、北西方面より多数の敵機の襲撃を受け戦闘中、援軍求むとのことですッ!」

 エルナは目を見開くとバートの顔を見る。しかし、間髪入れずに次の指示を出した。

「これより斥候部隊の救援に向かうッ! カルヴェス中隊、アデール中隊、バルト中隊は私とともに出るぞッ! バルツェル中隊、エルメス中隊、ジーベル中隊はここで待機ッ、砦を守れッ! シュタルク中隊は引き続き周囲を巡回、警戒を怠るなッ!」

 伝令を受けると、男は再び駆け出して行った。

 男に続きジャック、ダリウスも次々と出ていく。

 そして同様に出ていこうとしたエルナの腕を、バートが掴んだ。

「待て、俺も行く」

「ダメだ」

 バートに即答し、エルナは自身の腕を掴む手を振り払う。

「なんで?」

「素性も知れない輩をここから出すわけにはいかん」

 エルナは確固たる意志の宿った瞳でバートを睨みつける。

「そんなこと言ってる場合かよ⁉」

「安心しろ、直ぐに事を済ませて戻ってくる」

 バートの講義を遮るように一言残すとエルナは部屋を出てく。

 バートもそれを追って外に出たが、すぐに数人の男に取り押さえられた。

「おい、なにすんだッ。離せッ!」

 抵抗も虚しく、バートは再び部屋へと押し込められる。

「ユッタ。こいつの見張りを頼んだ」

「は、はい……」

 ユッタに一言残すと、彼女は自分の機体へと駆けていった。

「これより我々は斥候部隊の救援に向かうッ! 総員、私に続けぇッ!」

 エルナの一喝に、応、と勇ましく叫び、三個中隊、総勢約四十機の鋼鉄の巨人たちが、エルナを先頭に開いた門から勢いよく駆け出して行った。

 その頭上、さっきまで青々としていた空は、いつの間にか昏い灰色の雲に覆われていた。


      ◇


 救援に向かったエルナ達一行は、暫くしてこちらに向かってくる影を捕捉していた。

 しかし、その中に一見して自軍の機影はなく、重い足取りの武骨な巨人が隊列など意識せず進行してくるだけだった。

「ちッ、全滅か……!」

 その光景を目にダリウスが舌を打つ。

 エルナも激情が込み上げてきたがそれを押さえつけ、至って冷静に指示を飛ばす。

「総員戦闘準備、隊列を組めッ! まずは敵の戦力を知るのが最優先だッ!」

(さて……、斥候からの報告では十以上とあったが、もし十機だったとしても今の戦力ではギリギリといったところだ……せめて斥候部隊が少しでも削ってくれていれば……)

 しかし、そんなエルナの願いとは裏腹に、彼らの目の前には非常な現実が突き付けられた。

「なッ……⁉」

 彼らはその光景に目を見開いた。

「数が、多すぎるッ……!」

 彼らの視界の先には、三十を超える敵影があった。

 彼らがこの領域に入ってから、多くても一度に相手にしたのは五機、六機といったとこらだった。そのため、二個中隊もあれば大抵の場合は対処できていた。

 しかし、目の前の敵は今までにない数で押し寄せてきている。

 一瞬、エルナは先ほどのバートの言葉を思い出したが直ぐにそれを振り払った。

「この数を相手にするのは無理だッ! 一度後退して砦に残る三個中隊と合流して迎え撃つ!」

 エルナは予想外の事態に対し、慎重な指示を下した。

 最前衛で接敵していた味方が命令に従い、敵機の攻撃を躱しながら後退を始める。

 幸いそこは森の中であったため、辺りの木々を上手く利用すれば敵を足止めすることができた。

 くらいついてくる敵機から徐々に距離を取り、一行は順調に後退していくように思われたその時だった。

 突如敵機集団の奥から一機が飛び出し、後退していた味方一機を一撃で粉砕した。

「ッ……⁉」

 飛び出してきた機体は他の機体よりも一回りほど大きく、より厳つい装甲に身を包んでいる。手にした大剣は刃こぼれしすぎて、既に鈍器と化している。

 瞬く間に一機を葬ったその機体は、次々と周りの獲物にとびかかっていく。

 その機体が通った後には、装甲がひしゃげる音とともに味方機の残骸が積み上げられていく。

「さしずめ、こいつらのリーダー、長といったところか……!」

 エルナは苦い表情で手にした剣を構えなおす。

「あの機体からできるだけ距離を取れッ! 私が前に出……⁉」

 彼女が言い終わる前に、敵機の首がエルナの方へ回り、それは恐ろしい速度で彼女めがけて駆け出した。

「しまったッ……!」

 一瞬で間合いをつめた敵が懐に飛び込んでくる。

 直後、彼女の機体が後ろへ弾かれた。

「ぐぅッ!」

 倒れる獲物に、敵機は手にした武器を容赦なく振り下ろす。

 エルナは最後を直感した。しかし次の瞬間、ダリウス機が彼女の前に割り込んだ。

 肩部から斬り込まれた刃が胸部装甲を叩き潰し、ダリウス機は力なく膝をつく。

「アーレンス!」

 エルナは素早く機体を起こし、目前の敵に斬りかかる。

 敵機は大剣を振るってダリウス機を剣から振り払うと、迫りくる刃を弾き飛ばした。

「くッ!」

 エルナは素早く予備の短剣を引き、ダリウス機を庇うように前に出る。しかし、敵機の凄まじい重みの一撃一撃に武器は瞬く間に使い物にならなくなった。

 周囲の味方機もその機体を囲み攻撃を仕掛けるが、軽く往なされた挙句、代わりに一撃を貰って倒れていく。

 そのうち追いついてきた後続の敵も加わり、戦況は最悪状態と化した。

 次々と数を減らす味方の中、エルナも最後に残った盾を破壊され追い詰められていた。

 今度こそ盾になってくれるものはいない。

 丸腰のエルナに、リーダー格の敵機が手にした凶器を振りかぶる。

「ここまでかッ……!」

 エルナが目を閉じた直後、鋼の装甲がひしゃげる嫌な金属音が戦場に響き渡った。

 装甲の破片が勢いよく周囲に散らばり、破壊された機体が吹っ飛んでいく。

 

 ただここで宙を舞ったのは、エルナの機体ではなかった。


 エルナが閉じていた目を開くと、一体の巨人の姿があった。

 浅黄色の巨大な装甲、各所にこびりついている蔓草、そして手にした巨大な槌。

 

 そこには、マグナモールが立っていた。


 大槌で勢いよく敵機を粉砕した浅黄色の巨人は、音を立ててその頭を地面に打ち付けた。

「……よお、お前等……。千年ぶりだなぁッ!」

 それを操縦する人物、アルベルト・アメルハウザーは叫ぶや否や武器を振りかぶり敵へと突っ込んでいく。

 機体は、その巨体に見合わぬ速度で地を蹴り、次々と獲物を破壊していく。さっきまでの劣勢が嘘のように覆っていき、その場に生き残っていた者たちは呆気にとられた表情でその光景を眺めていた。

「どうしてお前が、いや……」

 エルナは茫然と目の前で破壊の限りを尽くす巨人の姿を見つめる。

「何なのだ、あの機体アレは……」

 そんな疑問は誰の耳に入るでもなく、戦場に響く轟音に消えていった。

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