第二部 四章

第32話 二種族の行く末

 ねこです。


 今日から更新再開します。

 一か月もお待たせして申し訳ありません。


 一~二週間で最後くらいまで書く予定が書いてるうちに

 分量が膨れてしまって際限なくなってしまいました。


 このままでは更新がどんどん遅れてお待たせしてしまうので

 連載を再開したいと思います。


 よろしくおねがいします。


―――――――



 ジェイドタウンに伝令が入ったのは、アヤメが行方不明になってから一時間後だった。



「――本当か」

「はい。間違いありません」


 自室で休んでいたジェイド家長男。

 第一ジェイド騎士団団長レガリア・ジェイドは少し考えてから、伝令を飛ばした。


「そのまま待機。私もすぐそちらに行く。何か状況が変わったら伝えてくれ」

「畏まりました」


 その通信を最後に、結線石は光を失った。


「……まずいな」


 さっきの通信相手はパークスの部下であった。

 レガリアがパークスの様子を見張る為に忍ばせていたスパイである。


 

 長年に渡るパークスと亜人種達との逢瀬。



 それを聡明であり、家族でもあるレガリアが知らない訳がない。


 知っていたが、放っておいた。

 それだけである。


「何故、今更こんな事に……」


 レガリアは昔を思い出す。

 

 幼い頃から父親に厳しい訓練を課せられていたパークス。


 だがパークスは優しすぎた。


 パークスに武人としての立場は圧倒的に向いていない。

 それはパークス自身も気づいていただろう。


 だが父親は息子達に武人としての在り方以外を求めていない事にも同時に気づいていた。


 

 そんな生活に、パークスは心をすり減らしていた。

 それはレガリアにも、はっきりと伝わっていた。

 

 このままではパークスが潰れてしまう。


 変えねばならない。

 だが変えるべきはパークスではない。


 変えるべきは旧態依然とした父親の方だ。

 

 レガリアは武術で功を立てるのではなく、知恵で功を上げていった。

 武術だけで名をあげる事だけが、道ではない。

 それを証明するために。

 

 だがマキシウスは、レガリアをあっさり切り捨てた。


 レガリアは虚弱では無かったが、体格には恵まれていない。

 武功をあげられないレガリアより、ジオやパークスに一層に期待をするようになってしまったのである。


 そしてパークスはより、厳しい環境に置かれることになった。

 

 若かったレガリアは自分の愚かさを悔いた。

 父親の武功に対する執着を甘く見ていたのだ。

 思慮が足りなかった。




 そんな時に、見たのである。

 パークスが夜中にこっそり、屋敷を抜け出していく姿を。

 

 パークスが夜中に抜け出していく理由を掴むのに、そう時間はかからなかった。


 最初は、とんでもない事を弟がしでかしたと思っていた。

 犯罪者の一族とジェイド家の三男が繋がりを持つなど、大問題である。

 世間に発覚すれば、家の取り潰しも十分にあり得る事だった。

 

 まずは監視をつけ、状況を把握してからパークスを止める。

 そう思っていた。

 

 だが亜人種達と会い始めてから、パークスの様子が変わってきたのだ。

 

 ずっと沈みがちだったパークスが、訓練を終われば明るい表情を見せるようになり。

 余り積極的で無かった勉学にも励むようになった。

 監視からも、亜人種との交流を楽しみにしていると報告があった。

 

 もちろんラライヤ調査隊の件があったので、警戒はしていたのだ。

 何かの弾みに背を刺されるかもしれない。

 そういう種族であると思っていた。


 商隊が襲われたり、民間人が亜人種に襲われる事件も実際に起こっている。

 信用はできなかった。

 

 だが、パークスと亜人種との交流は、何年も平和に続いた。

 その中で、レガリアは当然の事に気づいたのだ。


 

 亜人種にも良い者と、悪い者がいる。



 人間でも同じ事だ。

 種族という大きすぎる単位で、全てを一括りにした自分たちが間違っていた。


 そう気づかされた。



 

 なのに、何故、今更こんな事が起きてしまったのか――。



 

「私が甘かったのか……」


 レガリアは別の結線石を握ると相手が出るのを待つ。


「どうした、兄上」


 連絡先はジオだった。


「ジオ、まずい事になった。すぐに部屋に来てくれ」

「……了解した」


 

 もちろんジオもパークスが亜人種と付き合っているのを知っている。

 ジオは愚鈍ではあったが、武に関しては父親以上の才能を持っていた。

 いざという時にパークスを助ける為の武力として、ジオを仲間に引き入れていたのだ。

 

 ただならぬ兄の様子に、ジオはすぐに部屋へと駆け付けてくれた。

 

「どうした兄上」

「実は――」

 

 レガリアはジオに事の顛末を話す。

 ジオはレガリアの言葉を、最期まで黙って聞いていた。


 そして聞き終えると、いきなり壁を殴った。


 壁にひびが入るほどの一撃だった。


「だから亜人種は信用ならぬのだ!」


 ジオは烈火の如く怒り始める。


「今すぐ討伐隊を編成する! 亜人種を我が国から滅ぼしてくれる!」

「落ち着け、ジオ」


 ジオが激怒したせいで、レガリアは逆に平静を取り戻せた。


「まだ詳細は分からん。あの深い森で、アヤメ様が単に迷子になっているだけかもしれん。パークスが付き合っているネーネ族の仕業かどうかもわかっていない状況で、討伐隊を編成するのは早計過ぎるぞ」


 危うく亜人種全体に怒りをぶつける所だった。

 信じる事を辞めるには、まだ早い。


 自分が思っていた以上に動揺していた事に気づかされる。


「ではどうするのだ!」

「部隊を編成はする。ただ名目は、探索部隊だ。亜人種を倒す為に森に入る訳ではない。危険な森を探索し、アヤメ様を探す為の軍だ」


「なるほど。さすが兄上だ! それで亜人種を倒すのだな!」

「倒さない。本当に探すだけだ」


「何故だ!」

「さっきも言ったように、捜索が最優先だ。戦うならば、その後でいい」

「む、むう……」


 ジオは納得ができないような表情をしている。

 ジオはレガリアと違い、亜人種の事が嫌いだった。

 だから皇帝であるミーミル相手にも、嫌悪感を隠さない。


 嫌悪する理由も、よく分かっていた。


「だがこれを機に、パークスは亜人種との付き合いを辞めねばならん。あいつ等と付き合い始めてパークスは弱くなったのだ」


 ジオはパークスが弱くなったのは亜人種のせいだ。

 そのせいでパークスが父親に辛く当たられている。


 だから亜人種が憎いのだ。


「何度も言っただろう、ジオ。弱くなったのではない。柔軟性を身につけたのだ。むしろ強くなっている」

「剛よく柔を断つと言うではないか、兄者!」


 レガリアは頭をポリポリと掻く。


 この脳筋っぷりさえなければ、親父も安心してジオに家督を継げただろうに。


 ジオはいい子だった弟が、亜人種にたぶらかされて道を踏み外したと思っている。

 何度、言っても聞こうとしない。

 それだけパークスの事を不器用なりに心配しているのだろう。


 弟を大事に思っているのだ。


「剣には柔軟性も必要だ。硬いだけの剣は脆い」

「それはそうだが……」


 これも何度も言った例え話である。

 これでとりあえず収まるが、しばらくしたら忘れてしまう。


 困ったものだ。


「とにかくアヤメ様を捜索しに行くぞ。少数精鋭で編成して、機動性を重視する。パークスとも合流して、亜人種にも捜索を頼もう」

「亜人種に捜索を頼むのか!?」


「彼らの方が森はよく知っているだろう」

「アヤメ様を隠しているのは亜人種かもしれんのだぞ、兄上」


「断れば亜人種が犯人だ。受けても探し方が甘いなら亜人種が犯人だ」

「甘くないフリをするかもしれん!」


「その程度の演技、私が見抜けないと思うか?」

「思わん!」


 とても素直なのは、ジオのいい所だった。


 ただ、もう少し頭を使って欲しいものではあるが。

 どちらかというとパークスと合流する、という点に突っ込んで欲しかった。



 パークスと合流する――つまりパークスに全てを話すという事だ。



 今までのように亜人種との付き合いを見て見ぬ振りはできなくなる。

 人と亜人種との関係を考え直す波が、帝国に押し寄せるだろう。


 

 新たな隣人として、友好を築けるのか。

 それとも最後の一人を滅ぼすまでの、戦争となるのか。



 それがどれほど大きな波になるか、レガリアでも想像がつかなかった。

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