第13話 飲んだ後始末

※ 丁度いい文字数で切れなかったので今日は少し短めです。


―――――――――




「二人とも大丈夫?」

「……」「……」


 アヤメはパークスとアベルに声をかけるが、反応が薄い。


「ぐー」

「ミーミル様、着きましたよ」


 レガリアに背負われたミーミルは完全に寝ている。


 アヤメ達はどうにかパークスの家まで到着していた。


 動かない大人三人をどうやって子供一人と大人一人で運ぶのか。

 悩むアヤメに答えを出してくれたのは、意外にもバーのマスターであった。


「表に馬車を手配してあります。そちらへどうぞ」

 

 普通に馬車を使えばよかったのである。

 この世界にはタクシーが存在しないという先入観に囚われていた。

 タクシーの代わりを用意すればいいだけの事であった。


 しかも女性店員が店の外まで運ぶのを手伝ってくれたのである。

 あの地下への階段を手伝い無く、レガリアとアヤメだけで何度も往復するのは、相当の骨だったに違いない。


「あのマスターさん、よく気が利くね。料理も美味しかった」

「あの人は実は、昔ジェイド家の厨房で働いていた人でしてね。今は独立して食堂をしているのです。昼に行けば様々な料理を出してくれますよ。あの地下への階段から人がはみ出るくらいの行列が出来る人気店です」


「そんなに! あんまりお客さんいなかったから、知られてない店なのかなって思ってた」

「昼は看板を出していますが、夜は看板を出していませんからね。見た目は閉店していますが、知る人ぞ知る隠れ家的なバーに変わるのですよ。私やパークス、アベル殿のような面倒な地位にいる人間の為の店ですね」


「はー、なんか凄いね」


 芸能人は外食しても落ち着いて食事なんかできないのだろう……と思っていたが、きっと有名な人は誰にも邪魔されない店を知っているのだ。

 そしてそういう人の為にある店も、どこかに存在しているのだろう。


 余り普段は思わないが、そう考えるとアベルとパークスも本当はすごい人間なのかもしれない、とアヤメは思った。

 ただ家の壁を背にして、ぐったりと横たわる様子からは、とてもそう見えないが。


「ほら、立って」


 アヤメは二人の手をぐーっと引っ張って起こそうとする。


「……申し訳……ぐっ」「申し訳……ありません」


 閃皇に――しかも幼女にこう言われては立たない訳にはいかない。


 二人は気力を振り絞りどうにか立ち上がる。


 アベルはややふらつきながら立つ。


 だがパークスは壁に手をついていた。

 どうやらまだ地面が柔らかいようだ。


「とりあえずアベルとパークスは何とかなりそうですね。ミーミル様は、部屋まで私が運んでいくのでご安心下さい」

「……」


 アヤメはレガリアを疑惑の眼差しで見る。


「酒に酔った女性に手を出す程、私は下種ではありませんよ。何より皇帝に手を出せば、首が飛ぶどころでは済みませんし」

「でも自分の家に運ぶつもりだったでしょう」

「気のせいです」

「アベル、ちょっとレガリアと一緒にミーミル運んであげて」


 パークスに比べると、まだしっかりしているアベルに指示する。


「分かりました……レガリア様、ミーミル様を降ろして下さい。二人で肩を支えて連れていきましょう」

「そうか……そうだな……」


 レガリアはとても名残惜しそうにしながら、ミーミルを背中から降ろす。


「胸の感触を味わえるのもここまでか」

「何て?」

「何でもありませんよアヤメ様。さあ、アベル殿、二人で肩を持つぞ」

「分かりました……」


 ミーミルはアベルとレガリアに連れられ、家の中へと入って行く。

 物凄く不安なので、後でちゃんと様子を見に行こう。

 アヤメはその後姿を見送ると、パークスに話しかける。


「歩ける?」

「何か支えがあれば……申し訳……申し訳ありま……うっ」

「んー、じゃあ私が手を持てば行けそう?」


 アヤメはパークスの手を取る。

 身長は足りないがパワーだけならあるので、体重をかけられた所でビクともしない。

 杖の代わりくらいにはなるはずだ。


「そんな恐れ多い」

「お金ない時に終電逃して、一駅ミーミル背負って歩いたのに比べたら全然余裕だから」


「シュ……シュウ、デン?」

「あー、ええと。昔は馬車の事をそういう風に呼ぶこともあったような無かったような」


 アヤメは適当に誤魔化す。


「なるほど……凄いですね」


 恐らく何も分かっていないだろうが、パークスは納得したように頷いていた。

 酔っ払いは、こういう所だけは扱いやすくていい。


「さ、歩くよー」

「は――はい」


 パークスはアヤメを支えに、どうにかこうにか家へと歩き始めた。

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