第4話 スキル発動
「…………」
「…………」
リ・バースで使っていた『体力回復剤(小)』だ。
淡い燐光と共に、それが目の前に出てきた。
突然。
「こ、これ……は、どうなってる?」
ミーミルは地面に転がっている瓶を持ち上げると、傾けたり蓋を開いて匂いを嗅いだりする。
アヤメはそれならば、とステータス画面を思い浮かべる。
すると自分の左視界に『リ・バース』と全く同じデザインのステータス画面が展開した。
「ひっ、ステータス出た」
「え? うわ、ほんとだ」
レベル表記やパラメーター。
職業表記も『大学生』ではなく、バードの三次職『レボリューショナリー』になっている。
全てが育てていたアヤメのパラメーターと同じだった。
「もしかしてスキルも使える? 何か一曲歌ってみてよ」
「ええ……」
「だってこっちは攻撃スキルばっかりだからなー。バフスキル使ってみ?」
「う、うむーう」
しぶしぶアヤメは歌の一つを試してみる事にした。
アヤメの職業は歌を歌う事によって、一定時間、範囲内のプレイヤーを強化できる職だ。
スキルによって強化できるパラメーターは様々だが、今回は初歩の歌スキル『シュヴァリエの風』を使う。
消費MP48。
効果範囲1000。
効果時間は2分。
範囲内のPTメンバーの移動速度を100ポイント上昇させる。
幼精霊族エタニアのみ選択できる専用職業『バード』が使う、上位存在に働きかける事により、世の理を書き換える魔ノ歌。
さっきまでの流れならば、頭の中でスキル使用する意思を見せれば発動するはず。
だが、ちゃんと発動させたという事を、ミーミルにも分かるようにしなければ。
アヤメはすうっ、と深呼吸すると『シュヴァリエの風』と叫んだ。
――はずが、アヤメの口から零れたのは言葉ではなく、正真正銘、本物の歌であった。
「miwa sokoe miwa tokohe ima tudoeyo yaaaaaaa」
未知の言語だった。
メロディも聞いた事がない。
なのに、その歌はアヤメの口から流れるように紡ぎ出された。
「な、ななな!?」
だがミーミルはそれを気にしている暇など無かった。
ミーミルの体が発光し始めたのだ。
正確には緑の薄い膜のようなものが、ミーミルの体を覆っていた。
「これ、歌のせい?」
ミーミルの問いかけに、アヤメは歌いながら首を傾げた。
返事ができないのだ。
勝手に歌が溢れ出て来る。
まるで歌に体を支配されているような感覚であった。
「バフアイコンは出てないけど、とりあえずパラメータ上がってる。効果出てるっぽい」
ミーミルは立ち上がると歩き始めた。
普通に歩いているだけのはずなのに、一歩の進み方が違う。
まるで動く歩道を歩いて進んでいるように見える。
移動速度を向上させる『シュヴァリエの風』は確かに効果を発揮していた。
「おおー、これ気持ちいいわ。広い場所で試してみたい」
ミーミルは嬉しそうに飛び跳ねる。
ジャンプ力も増幅されているらしく、月に降り立った宇宙飛行士のように、ふわり、ふわりと天井近くまでジャンプできている。
「すごいすごい! これすごいよ!」
アヤメはテンション最高のミーミルから視線を外し、テンション最低のオルデミアに目を向けてみた。
オルデミアも薄く緑に発光している。
どうやら範囲内の人間ならば誰にでも効果があるらしい。
この辺りはゲームとは少し違って――。
「キャーッ!」
微かに聞こえる絶叫。
牢獄の外から女性の悲鳴が聞こえて来た。
それを皮切りに、近くで遠くで男女混成の悲鳴が聞こえてくる。
何かが倒れる音や、ガラスや陶器の割れる音までが響き渡っている。
それらを聞きながらアヤメは「そう言えばゲームの効果範囲1000って、この世界ではどれくらいの範囲なんだろう?」と思った。
――――――――――――
『シュヴァリエの風』
スキル分類 魔ノ歌
消費MP 48
効果範囲 1000
効果時間 120
クールタイム 0
効果 範囲内のPTメンバーの移動速度を100ポイント上昇させる。
備考 緑の薄い膜が展開される。
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