第2話 昔話その壱
生まれたのは長崎。みんなにはそう言っていた。でも本当はどこで生まれたのかなんて分かってはいない。生まれてすぐに両親は離婚してしまった。親の顔なんて見たことない。見たことがない、そういうことにしたい。
姉がふたり。年は離れてはいるけど大切な家族。そして母方の祖母が一人。父方の家族は名前すらも知らない。でも、みんなの家族との思い出っていうのは他の人に比べたら僕の場合ちょっとばかし歪んでいる。
生まれて半年、その齢にて僕は親元、というよりは家族から離れた。離された。以降、18年間僕はずっと児童養護施設にて育てられた。まずはそのときと両親のお話。
僕がいたのは比較的良い環境だったと言える。よくニュースなんかで養護施設職員による暴力事件、猥褻事件、そんなものは僕の知る限りはなかった。でも、養護施設内では無かったものの、養護施設外では酷かった。
「親無し」「貧乏」「乞食」とても小学生が発言するとは思えない言葉が幼少期の僕を蝕んだ。子どもの心というのは時に残酷なものだなと今思い返すと心が痛む。良悪の判断がつけられないゆえにナイフ以上の切れ味のある言葉で物事を示唆する。そんな言葉が飛び交う学校生活、楽しいわけが無い。「学校は楽しいですか?」その問いかけに対して、楽しいですと答えられていたら、きっと今の僕はこんなにも歪むことはなかっただろう。何よりも当時から「ほんとうのこと」を言うのが酷く億劫だった僕にとって数ある質問に対して本当のことを言ったことの回数より嘘を重ねた回数の方が多い記憶がある。
いわゆる僕は「虚言癖」なのである。どうか覚えておいてもらいたいのは、嘘を吐きたくて吐いてるというわけではないのだ。自然と出てしまう。人間が定期的に空気を吸うように、心臓が決まって脈を打つように。あくまでも自然に僕は嘘をついてしまう。それがどれだけ悪いことか分かっているのにやめることが出来ない。
親がいないと記述していたが、厳密には両親はいる。だが両親二人とも親権を持たず父親には会ったことが無い。一度だけ母には会ったことがあるが、僕自身母と認めたくなかったし、母自身も僕を子としては見ていなかった。事実上13年ぶりの再会となるとき、僕は愕然とした。体は大きく肥大しており、目はギョロリとしており、足は体を支えきれずむくみあがっていた。これが僕の母親なのか。大人になった今でも信じられない。だが当時の僕はそれでも物心ついて初めて会う母親に何とか自分を褒めてもらいたかった。凄いね、その一言をもらいたかった。学業的に秀でるものは無かったが部活動だけは一生懸命していた僕はその旨を精一杯話した。すると母はただ
「ふーん」
ただそれだけだった。
それ以来母には会っていない。今は何をしているのか検討もつかないが生きていることだけは願っていたい。腐っても親。自分を生んでくれたことだけは感謝している。
周りが言うのは、やれ親に感謝しろだの、やれ両親を安心させろだの、そんなことをする余裕も相手もいない僕は、20を過ぎた今でも自分のことだけでいっぱいいっぱなのだ。そんな僕にこれから何が出来ようか。
今はただ、偽った仮面で過ごすしか出来ない。
きっと明日も「ほんとうのかめん」は出てこない。
明日もどうにか生き延びよう。
すくたそ。。
ほんとうのかめん すくたそ @sukutan
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