捜査官ハチェットの暴力的な事件簿

@tora_icet09

第1話

「それで? 報告は? どうなってる?」


 キッチン中に充満した鉄っぽい匂いに顔をしかめながらFBI捜査官ハチェットは警官に対し促した。


「……は、はい。只今」


 ハチェットが顔をしかめているのを不機嫌と勘違いしたのか、それとも現場の凄惨状況ゆえか、その警官(彼はまだ警察官になって日が浅いようだ)の返事には覇気が感じられなかった。


「ま……まだ検証中ですが被害者のクエード夫妻は朝食中に襲われ死亡したものと思われます。」


 テーブルの上には簡単な3人分の朝食がまだ並べられていた。そのような状態になる前は食欲をそそったであろうが、今となってはただ凄惨なだけだったし、ハチェットには必要でないのなら血塗れの食べ物を趣味はなかった。


「パトロール中の警官たちが……ここでの異変に気づいて駆けつけた事で犯人たちは逃走したようです」


 話す内に調子を取り戻してきたのか、警官の話し方は徐々にスムーズになってきた。と、何やら玄関の方が騒がしい。


「ん? なにやら騒がしいな。中断させてすまないが、ちょっと見てくる」


「は、はい」


 ハチェットは新人警官を残し、家の玄関の方へ向かった。


「……まったく興味本位か? 子供がこんな場所まで来るとは……。まだニュースになって無いのに何処から聞きつけた? 関係の無い者を通す事は出来ない」


「いや、だから違うんですよ……ボクは……」


 入り口の方まで行くと、10代ほどに見える若い東洋人――少女のようにも見える顔立ちの特徴から東洋人と分かる――が警官に立ち往生させられていた。


「そいつは違うぞ。通してやれ」


「ハチェット捜査官?」


「ボクはなんだよ」


 10代ほどに見える若い東洋人が首から下がった身分証を警官へ提示した。


「ん……これは……カナタ・ファルクス……FBI捜査官!?!?」



「そういうこと~~♪ それじゃあ通らせてもらうぜ」


「……信じられない。あんなに若い少女が……」


 カナタは即座に振り返り、警官の発言を訂正する。


「いいか、勘違いするなよ!! オレは成人済みの年齢だし、男だよ!!!」



 カナタを連れてダイニングルームへ戻ると、ハチェットは先程の捜査の続きをはじめる。


「ふむ――。食事の用意は3人分だが遺体は夫婦そろって2人だ。3人目は?」


「戸籍によると夫妻には1人息子が居るはずですが、現在の所、行方が分かっておりません」


「成程な。ところでこのカーペットのシミ――」


 手袋をはめるとハチェットはしゃがみこみ、カーペットをめくる。


「なんです?」


「なんです、じゃあない、よく見ろ。血のシミはカーペットをめくった裏にもあるが、これは血が裏まで染み込んで付いた跡ではない。床に付いた血が裏に付いた物だ」


「ということはこの下に何かあるって訳だ」


「そういう事だカナタ、手伝え。テーブルをどかすぞ」


 ハチェットとカナタ、そして警官。3人でテーブルをどかしカーペットを剥がすと、その下から扉が現れた。


「おそらく食料品などの保管庫だな……開けるぞ」


 扉を開けるとオイルや豆などの食品とともに全身血まみれの少年の姿が現れた。


「……!」


 あまりの事に警察官は息を飲む。


「ふむ……」


 発見された少年の状態を見て周囲がざわついたが、ハチェットはそれに構わず少年の首筋に触れた。


「気を失っているようだが、脈も安定しているし呼吸もある。救急車を呼べ、早く!!」



 その後程なくして、床下の保管庫から夫妻の1人息子であるダニー・クエード少年が救急車で運ばれた。彼は血まみれだったが幸いにも自身は傷1つない状態であった……。





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