第2話ゆとり?「可愛い後輩」なんですよ

仕事上、後輩の面倒を見ることが多い。

先月にも新人が来て、仕事を教えた。

そりゃ、最初ですから。出来ないのは当然だし理解できないのは当たり前で。最初っから連立方程式やらができる人間がいないのと同じで。まずは算数から初めて、数学になって。段階は大事だ。


僕が最初に指導をした後輩の話をしたい。

指導とは、言わば僕の弟子である。見習いと言うべきでしょうか?

彼はとても頭が良かった。けれど卑屈でプライドも高かった。言わば年配連中からしたら【ゆとり】と括られてしまうような子だった。

当時の僕も、まだまだ若輩で指導が出来るような立場でもなかった。

けれど、僕が指導員になった。理由は簡単。みんなが投げ出したのだ。

彼だって、それに気づいたのだろう。他の同期達と待遇が違う。それに僕が指導員だ。うん。最初はね、まぁ言う事聞いてくれなかったなぁ。


結果論だが、今では。

僕の転勤が決まった時、1番「嘘でしょ?」を繰り返していたのは彼だったかもしれない。送別会で泣きじゃくる彼をなぜか送り出される側の僕が介抱したのは懐かしい話。


僕は何をしたか。

彼だって人間で、僕だって人間だ。

言葉にしなきゃ分かんないことだって沢山あるが、みんながみんな口達者な訳では無い。

僕は、当時のその職場で1番の彼の理解者であろうとした。分からないなら聞けばいい。威圧感なんてクソ喰らえだ。

とにかく沢山話した。仕事の話はもちろん、休憩時間には大学時代の話や休日の話。好きな服のブランドなんかも話したっけ。

後輩は、先輩の背中を見ているもので。

僕は後輩には甘かった。メモを取らせて、なぜか僕がそのメモ帳のページを覚えてて。「それ、こないだ何ページに書いてただろ。開けてみ?」なんて会話は日常茶飯事だった。甘すぎないか?なんて周りからよく言われたものだ。


ただ、僕は上には強かった。

僕の弟子を愚弄する上司には徹底的に噛み付いた。そうありたかったんだ。

まずは、自分から歩み寄る事。そして、相手を知る。なんなら、異性だろうが同性だろうが御構い無しで「そいつを好きになる」。あっちが壁を作るなら、こっちまで作っちゃいけない。Noborder。国境なんて本当は無くったっていい。だってみんな同じ人間なんだ。

僕は、過去の経験からどうしても好きなものを侮辱されるのが嫌いで。それが可愛い後輩ならば。見境なしだった。若気の至りかもしれない。


僕が上司に向かって後輩をかばう姿を、彼は何度か見ていた。理由は様々で。彼のミスを僕が怒られる事だってしばしばあったわけだ。

席に戻り、隣で萎縮して謝ってくる彼に僕はいつも言った。

「僕にそんなに謝るな。『逆に自分が先輩になった時、そいつの1番の味方で居てやれよ。そうやって、恩を繋げていけ』」

それを教えてくれたのは、僕を教えた先輩だった。

状況は違うが、それは飲み会の席だった。

新入社員で入った当初、その先輩は凄く仕事に真面目で怖かった。けれど、いざという時には助けてくれ、迷った時には「責任は自分が取る。思うようにやれ」とニヒルな笑いを浮かべたものだ。

一年目、飲みに行くと先輩はいつも勘定を奢ってくれた。色々な理由を付けて出してくれたが、ある時先輩は言った。「俺には払わなくていい。その分は、将来お前が先輩になった時後輩に出してやれ」と。

そして、僕にも後輩が出来た時。後輩を連れた飲み会があった。その場にはその先輩もいて。飲み会の終わり時分、先輩がこっそり僕に耳打ちしてきた。「半分出せ」と。その時、初めて先輩の隣に立てたような気がして。やっと自分も『先輩』になれたような気がした。


僕が先輩になっても、先輩は先輩で。いつまでたってもあの勘定は相殺出来ずにいて。

僕の中で、その『勘定』がいつの間にか『恩』になっていた。


僕の後輩が先輩になって…っと色々繰り返してどれだけの時間が経とうとも、自分にとっての『先輩』は変わらなくて。いつの間にか自分自身にも後輩がたくさんになっていた。あいつらにとっても僕は『先輩』で。なんなら今でも、やっぱりカッコいい先輩でい続けたいし、いつまでもあいつらの頼れる先輩でい続けたいなって。いまでも1番の味方でいてやりたいなって、思うのです。

自分が教えた後輩はみんな可愛いもので!

きっと自分が親になることがあれば。きっと溺愛するんではなかろうかと今から不安になる。まぁ、予定は未定だ。安心したまえ読者諸君。


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岩本ヒロキの備忘録 岩本ヒロキ @hiroki_s95

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