雨の日と君の声
人生
1
朝から雨が降っていた。
窓を叩く雨粒、その向こうの空はどんよりと曇っている。
明かりをつけても部屋はどこか暗く、僕が何もしなくても騒々しい。
……憂鬱だった。
これだから梅雨は嫌いなのだ。
土日も雨で外に出られず、それは週の明けた月曜も変わらない。
ただえさえ休み明けで気怠く、学校もあるというのに、どうして朝からこんなにも沈んだ気分にならなければならないのだろう。
まったく……哀しい恋の歌でも歌いたくなる。知らないけど。
ベッドの上でため息をこぼす僕を急き立てるように、雨脚は強くなる一方だ。うんざりしてても始まらない。仕度をしなければ。
制服に着替えて部屋を出る。
母と二人暮らしのアパート。リビングの電気は消えているが、一応夜ではないので外の光が入って視界には困らない。まるで深海にでもいるように、暗い青に染められている。憂鬱の色だ。
母は昨日遅くに帰ってきたようなのでまだ寝ているだろう。今日も仕事だ。普段なら起こさないよう静かに行動するが、雨がうるさい、多少騒がしくしても大丈夫だろう。
簡単な朝食を食べながら、寂しさを噛みしめる。
別に今に始まったことではないが、雨の日は特に孤独に襲われる。
昔から雨は嫌いだった。
冷えた空気が身に沁みるようで。
まるで世界から隔絶され、この世にただ一人残されたように感じるから。
きっと助けを求める声も、雨音がかき消してしまう。
……いかんいかん。
天気のせいで考えることまで暗くなっている。
ここは意識して何か面白い、明るいことを考えなければ。
たとえば……。
「このまま環境問題が悪化したら、酸の雨が降るんだろうな……」
……絶望的だった。
安物のビニール傘を差して、雨天の中を歩く。
雨合羽をまとってはしゃぐ小学生が羨ましい。
制服の僕もそうだが、背広姿の大人たちはもっとこの雨が鬱陶しいことだろう。
いつもと違う天気を喜べなくなった、荒んだ心。
……あぁ、憂鬱だ。
学校へと続く長い坂道が見えてくると、そこかしこに傘を差した学生たちの姿が見えるようになる。といっても、傘に隠れて誰が誰だか分からないが。
彼らを分ける唯一の個性は傘の種類。色とりどりさまざまな傘が雨天に花開いている。それが坂道に入ると歩道に密集して、ぶつからない程度の距離を開く。
傘の中だけが僕たちのパーソナルスペースだ。雨に隔てられ、一人ぼっち。
風が吹いていると横殴りの雨が傘の中まで入ってくるが、風が止んだら止んだで肌にしっとりと汗が滲む。じめじめと湿った空気が登校をいつも以上の苦行に変えた。
制服が肌に張り付いて気持ち悪い。家に帰って熱いシャワーを浴びたらどれだけすっきりするだろう。
いっそこの雨の中に飛び出してしまおうか。
制服を着ているからそれもままならない。
……もううんざりだ。
気付けばため息をついている。
一度沈んだテンションはなかなか上がらないようだった。
行く手を遮るようなたくさんの傘を見ていると、ふと、傘を使った映像を思い出した。傘を閉じたり開いたりする地上の人々を上空から撮影した映像だ。
ただ、上空から見下ろしたこの坂道は統一感なく雑然としていて、面白みの欠片もないだろうけれど。
誰かが突然傘を放り投げて、ミュージカルよろしく踊りながら歌でも歌わないものだろうか。そうしたら雲が晴れて虹とか出そうなのに。
『So! アメイジング!』
……雨だけに。
我ながらクソつまらなくて死にたくなる。
……憂鬱だ。
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