ドイツェン宮廷楽団譜 嘘つき恋人セレナーデ/永瀬さらさ
角川ビーンズ文庫
登場人物紹介/序曲 ダル・セーニョ ~その場所から~
◆登場人物紹介
ミレア・シェルツ
新米バイオリニスト。アルベルトとの婚約破棄騒動の後、本気の告白をしようとしているが……!?
アルベルト・フォン・バイエルン
楽壇を仕切る公爵家の跡取りにして、天才指揮者。
基本的に偉そうだが、実は恋愛ベタ……?
リアム・ルーテル
第三楽団の指揮者に名乗りを上げ、国外からやってきた天才指揮者。ミレアが気になっている。
マエストロ・ガーナ-
第二楽団の指揮者にして、アルベルトの師匠。楽壇の巨匠。肩書きに反して、いつも不真面目。
フェリクス・ルター
有名なバイオリニスト。アルベルトの悪友で、彼のコンサートマスター。
レベッカ
宮廷楽団の新米コントラバス奏者。楽団寮での、ミレアのルームメイト。
◆◆◆◆◆
一ヶ月前、そう注意して養母は王都を立ち去った。
しかして、
地面では、夏の終わりの
「ミレア、おりておいでって。エロジジイは私がぶちのめすから」
「だってレベッカ……っひどいこんなの! もう、外に出て歩けない……!」
美しい
「はは。でも
「出たなエロジジイ。反省してないでしょ」
「マエストロ! なんで新聞社にバラしたんですか、わ、私の好きな人の名前!」
「毎日
言い返そうと顔を出すと、レベッカやガーナーだけではなく、
ここ、宮廷楽団はドイツェン王国が
「騒ぎを起こしたくて起こしてるんじゃないのに……!」
〝バイオリンの妖精〟──それは半年前、宮廷楽団の第二楽団に入団したミレアを待っていた
それもようやく落ち着いた──と油断していたら今朝、ミレアの
音楽を愛するドイツェン王国の国民は、
だが、片想いを
(ひどすぎる。ちゃんと自分で言おうって毎日
これはもう、絶対に本人にばれた。
定期演奏会のリハーサル中に記事を見せられたミレアは
「
「もう呼びましたよ。ただアルベルトはあなたをさがしてましたけど、マエストロ」
「げーそれって
「それ以外になんの用事があると思う?」
その低い声にミレアは音を立てて固まった。
しかし
意地悪で噓つきな人だ。なのに恋をしてしまった。彼が幼いミレアにバイオリンを
「うわあ、アルベルト……その後ろの黒服さん達は何かなあ」
「バイエルン公爵家の使用人だ」
「使用人っていうより殺し屋っぽいのは気のせいかな!?」
「弟子の僕自ら引導を
「えー、僕悪くないー!」
ガーナーが
どうやってここから見つからずに逃げ出そう。そう考えた時、声がかかった。
「ミレア。おりてこい」
もう一度固まったミレアは、幹に隠れたまま、
「……し、新聞……見た?」
「……。見てない」
「噓、見たでしょ!」
アルベルトがそっぽを向いた。ばれている。絶対にばれている。追いつめられたミレアは
「わっ私の好きな人がアルベルトだなんて噓だから! ガセなんだから、信じないで!」
周囲が静まり返った。アルベルトが額に手を当てて
「……ミレア、それ逆効果……」
「好きだ好きだって言われてるようなものだね、アルベルト」
「違います! 違うから絶対、私はアルベルトなんか……っ」
「バイエルン指揮者にもついに春がきたかあ」
「むしろまだつきあってなかったのか、あの二人……」
「新しく再編する第三楽団を二人の愛の巣にするのだけはやめてくださいよー!」
「──全員、僕が宮廷楽団の理事であるバイエルン公爵の
項垂れていたアルベルトの眼光が、残暑の残る空の下で不気味に光る。
「余計な発言をした
「おっ……横暴だ! 公私混同だ!」
「散々公爵家から逃げ回ってたくせに開き直りすぎだ!」
「うるさい、こんな子供のままごとにいちいち騒ぐからだ」
「子供のままごと!?」
聞き捨てならない言葉に反応し、顔を出してしまう。だが、アルベルトが真下にきていることに気づいてすぐに引っこんだ。
「僕は何も見てないし聞いてないから、いい加減おりてこい、ミレア」
自分の気持ちをあっさり流されてしまって、ぐっと
「危ないだろう。落ちたらどうするんだ?」
でも、心配されると乙女心がぐらぐら揺れる。
「それとも僕につかまえて欲しくて待ってる?」
「ちがっ……う、わ、わわわわっ!」
「……そこで本当に落ちてくるからな、君は」
反論できなかった。ぎゅっとバイオリンを
ミレアの
「落ちてくるときくらいバイオリンを放せ」
「
アルベルトが聖夜の天使だと知ったのは
だがアルベルトの切れ長の目は、
「──へぇ、そう。ふぅん。君は相変わらずだな、聖夜の天使なんて得体の知れない人物に
「
その得体の知れない人物はあなたでしょ、という言葉を飲みこみミレアは睨む。
(いっつもこう! 私のバイオリンを聞くとヘタクソヘタクソって──聖夜の天使として舞台の後に花束とか贈ってくれるのに、なんなのこの差!)
不満顔のミレアに、アルベルトは口角を持ち上げて笑い返す。
「じゃあ、この間の演奏会で
「う。──あ、あれは、そう! 新しい
「新しい解釈か。ならどうして十七小節目のスラーをスタッカートにしたのか、第二楽章はじめのピアニシモをフォルテシモにしたのか、その他もろもろきっちり説明してもらう」
「いちいち覚えてるの!?
「指揮者の僕にとっては
「ドイツェン王国の
まっすぐな
(うわあ、
髪の色も
「君がミレア・シェルツかな? バイエルン指揮者とは
「えっ? あ」
そこでまだアルベルトに抱き上げられたままだったことに気づいた。赤くなると同時に、アルベルトが地面に下ろしてくれる。それを見て、また見知らぬ男性が笑う。
「でもさっき見たこの記事では
「いやー!!」
見覚えのある新聞めがけて
「ああ、うん。分かったよ」
「な、何が!? 何がですか!?」
「──マエストロ。あなたまでくだらない記事に振り回されないでください」
(マエストロ……ってことは、指揮者?)
ミレアからアルベルトに視線を
「俺のことはリアムでいいよ、アルベルト君。プザニスの国際コンクール以来かな。どうぞよろしく」
「こちらこそ。……ところで、宮廷楽団からの
「ああ、こっちの方が
意味ありげに見返ったリアムは、アルベルトと
「君もよろしく。アルベルト・フォン・バイエルンの
「えっ? わ、私は別に、アルベルトの妖精じゃ」
「君は俺の第三楽団に興味ある?」
初耳の情報に顔を上げた。リアムは三日月みたいな瞳で薄く笑い、ミレアの手を勝手にとって握手を終わらせる。
第三楽団の
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