第19話みんなの願い
たくさんの願いを背負って、俺はまた走り始める。
深い、暗闇の中に、俺はいた。
バクラを追い払って5分もしないうちに、森で倒れてしまったから、俺の現在地がわからない。
誰かが助けてくれたのだろうか。
それともまだ誰にも見つけてもらっていないのか。
俺は、何をすればよいのだろう。
思考が働いてるから、死んだわけではないと思うが、どうすれば戻れるのだろう。
あのとき。俺が倒れたときに最後に見たのは、割れたペンダントと一通の手紙だった。今までずっとそんなものが入っていたなんて知らなかったし、取り出し方もわからなかったから、あれはきっとカイナにいちゃんからの手紙だ。あれは絶対読まなければ。
『ファミ。みんなお前を、待ってるぞ』
そんなカイナにいちゃんの言葉が、幻聴かもしれないけど確かに届いた。その声に導かれるかのように、現実へと近づいてゆく。
「……ん……」
まぶたをそっと持ち上げ、何度かまばたきをする。
周りを見ると自分の部屋だった。
「(何で自分の部屋に……)」
枕元の小さい物置テーブルに、あの手紙が置いてあった。それと、砕けたペンダントのかけら。
かけらたちを、魔力で元の形にして、氷の膜で覆う。絶対に溶けることが無い、永久氷塊で。そしてその新たなペンダントを、また戻してから、今度は手紙を開封する。
書いたのはやっぱりカイナにいちゃんで、内容はこんな感じだった。
『ファミへ
お前がこの手紙を読んでいるということは、ペンダントが割れたということだよな?
あのペンダントが割れたということは、俺の加護はもう必要なくなったということだ。そういう仕組みにしたからな。
これを読んでいるお前は、一体いくつになってるんだろうな。まだ小学生か? それとももう中学生? どちらにせよ、そこに俺がいないんだと思うと少し寂しいや。
ファミ。やっぱお前に継いでもらってよかったよ。別に、星力持ちだから、とかそんなんじゃない。お前ならできると思ってた。
十分強くなったよ、ファミ。ヒーローじゃなくても。
これから、まだヒーローを続けるかどうかはお前自身で判断しろ。
でも、いつでも支えてくれる誰かがいて、助けを求めてる誰かがいるということを、絶対に、忘れるなよ。
カイナ 』
実にカイナにいちゃんらしい手紙だった。
最後のとこ、絶対ヒーロー続けろよ、と言っているようなものじゃないか。
「もちろん、カイナにいちゃんが望むなら……、続けるよ、絶対」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
こんこんとノックの音が部屋に響いた。
「今日もいい天気だよ、一体いつまで眠ってるのよ。そろそろ怒るよ」
ナタリが入ってきてカーテンと窓を開けた。ぴゅっと朝の涼しい風が部屋に舞い込んで来る。どうやらナタリは俺が座っていることに気づいていないらしい。
「……ねえ。起きてるけど……」
「ふみゃっ!?」
ばっとナタリが振り向く。本当に気づいてなかったんだ。
「よかったぁ……。じゃなくて、どんだけ心配させる気よ!?」
「……すみません。ところで、どのくらい眠ってた?」
俺が聞いてみると、ナタリはうーんとうなってから、
「ええっと、病院で2週間くらい……いや3週間かな……で、家で1週間くらいかな……。少なくとも、1ヵ月近くよ」
うっわ、そんなにか。……ってことは……
「夏休みの宿題、やってないっ!」
やばいすごくやばいとてもやばい非常にやばい! 1ヵ月って、もう夏休み全然残ってないじゃん!
そんな本業がピンチな俺は、病み上がりなのにもかかわらず、今夜も、あのマントと仮面をつける。
任務、開始!
(ファミネコヒーロー 完)
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