第15話何度でも
まだ、ここで終わるわけにはいかない。やるべきことはまだたくさんあるから。
「ふ、ぐっ……」
ようやく痺れが取れてきた俺は、どうにか氷から抜け出そうと奮闘していた。
「おい」
声のするほうに顔を向ける。どうやらボスが俺に話しかけているらしい。
「な、なん、で、しょ……うか」
自分でも「ちっさ!」といえるくらいの大きさの声だった。相手には届いただろうか。
「お前、名前は?」
本名かな……、それともヒーローとして?いや、ここは。
「俺は、ファルカイル」
ちゃんと、はっきり言った。とても大切な名前だから。カイナにいちゃんと、一緒に考えた名前。
「……それ、アイツから貰ったのか」
アイツ、がカイナにいちゃんを指しているなら、ふたりは知り合いなのか。
「アイツ……カイナは、『名も無きヒーロー』だったはずだ」
やっぱり、カイナにいちゃんの知り合いなんだ。
「そう、です。彼と一緒に決めました。」
……弱い自分を偽る名前。
少しずつ体が動かせるようになってきた。
「本名を、教えてくれないか。我はジャクバルト」
「俺は……」
一瞬ためらう。言ったら、何もかもが無駄になってしまう気がした。これまで自分をヒーローという仮面で上書きしてきた意味がなくなるんじゃないか、って。でも、もう、偽りの仮面に頼るわけにはいかないんだ。最後だから。
「俺は、ファミといいます」
言うと、ジャクバルトさんはにかっと笑って、
「そうか」
と言った。
「ファミ、お前、『星零』だろ」
「……そうです」
まあ、ここまでやればばれちゃうよな。
「カイナも、『星力』持ちだった。アイツは、『
……知らなかった。カイナにいちゃんも『星力』持ちだったなんて。
『星涼』は、五大星花、『星涼花』の能力を持つもの。属性は、水。
俺は、そろそろ頃合だと思い、〈氷封塊〉を解く。
一瞬で氷は細かい粒になって散っていった。
「すまないな」
ジャクバルトさんは言った。何に対して謝っているのだろう。
というかそもそも、なんでジャクバルトさんはファクタを襲い、占領したのだろうか。
「どうして、なんですか」
「うん?」
「どうして、ファクタを襲ったのですか」
ジャクバルトさんはうーんとうなると、答えた。
「いや、我じゃないんだ」
「……え?」
「我は、昨日ここに来たんだ。我の仲間がここを襲い、占領した。お主への対応、あれは本当にすまなかった」
そういうことか。けど……決して許されていいことではない。だけど、俺は許してしまうだろう、きっと。
「じゃあ、出て行ってくれますか?風狼さんたちは、苦しい思いをしてるんです」
俺ははっきり言った。
「すまない、ここの里の長と話をしようと思う」
「そうですか。では、風狼さんたちをつれてきますので、準備して待っていてください」
ジャクバルトさんはうなずいた。
あとは、風狼さんたちを集めるだけ。
太陽が、昇り始める。
(つづく)
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