第12話最後の助け

打ち合う拳一つ一つに、それぞれの想いがつまっていた。



 俺は全力でファクタに向かって走っていた。

 この事件は、必ず今日中に片付けて、すぐに風狼さんたちを元の生活に戻す。これが俺の任務。

 ―たとえ何があろうと、最後まで己の信念おもいを貫くんだ。

カイナにいちゃんがいつも言っていたことを思い出す。

 そうだ。たとえ俺が世界から消えることになろうとも、ひるむことは無い。俺の信念おもいは、誰もが笑顔で毎日を過ごせるような世界にすることだから。そこに自分がいなくたって、大丈夫。

 ファクタまではあと少し。今は……月が昇り始めたくらいか。

 朝までに帰ってこれたら上出来だな。

 なんて考えていたら、いつの間にかファクタについていた。

 少し離れた位置に着地する。

「……?」

着地したときに、何か小枝を踏んだかのような小さな音が聞こえた気がした。

「……いや、気のせいか」

そう決め付ける。今は仕事に集中だ。

 俺は里に入るアーチから50メートルほど離れたところで、里の様子を探る。低いと見えづらいので、そばに生えていた手ごろな木に登った。

 猫は一応夜行性だから、夜でも結構良く見える。といっても、放雷熊は昼夜関係なく寝てたり活動してたりするので今は関係ないけど。

 今、確認できるだけで、焚き火を囲んでいるのが4頭、アーチ周辺に―こいつらは多分見張りだ―は2頭。確か里には南アーチ、北アーチ、東アーチ、西アーチの4つのアーチが存在するはずなので、それぞれのアーチに2頭ずついるか、巡回か、の二択だ。こればっかりは確認しないとわからないが、巡回であると信じたい。

 おそらく、焚き火を囲む熊たちの中の、右頬に傷あとが残っている熊が群れのリーダーだ。

 まあ、忍び込んでどうこうするみたいな感じじゃないから、どこから入るとかは気にしなくてもいいんだけど。

 地面に降り、いつもどおり、堂々と歩く。

 南アーチの真正面、15メートルほど離れたところまで近づいたとき、巡回ではなく配置だったらしい熊が、俺に気づいた。

 手に持っていた槍を構えなおし、

「何か来るぞー!」

と叫んだ。

 俺は互いがはっきり見える位置まで近づく。

「何の用だ」

片方の熊が聞いてくる。

「お前らのリーダーに話がある。通してくれないか」

そういうと、その熊は焚き火のほうに声をかけた。

「ボス! 何かチビ猫がボスに話があるそうですが」

 返事はすぐに返ってきた。

「んなもん知るか! 侵入者は排除しろ!」

……つまり、殺せ、ということか。

 心の中に生まれてきた恐怖を打ち消すため、チラッとペンダントを見る。

「……!?」

 ペンダントにはひびが入っていた。多分、もうすぐ割れる。

 本当に、力を借りるのは、これで最後、か。

 俺はにや、と笑うと、里中に響き渡るくらい大きな声で宣言した。

「ファクタにいる全員に告ぐ! 俺はお前らを降伏させ、里を風狼に返させる! 覚悟はできてるか!」

「子猫一匹くれぇ、とっととっちまえ、行けえええええっっ!!!」

「「「おおおッッ!!!」」」

 同時に地面を蹴る。数だと、圧倒的に俺が不利だ。

 俺は一番最初にきた手ぶらの熊の懐に飛び込み、腹を殴りつける。熊は数歩分後退しただけで、すぐに体勢を立て直し、拳にバチバチと電気を纏わせる。

 これが、放雷熊の特徴だ。電気や雷を自在に操る。

 それに対して、俺は。

 受け流し技、〈ライシン〉。その名のとおり、避雷針のように、相手の勢いを地面に流す技。

 「ぐるらぁっっっ!」

熊の、気合のこもった打撃が、左側から襲ってくる。

 その右腕を、右前足で内側から掴む。

 十分ひきつけてから、肩を抱え込み。

 自分ごと、地面に倒れこむ。

 熊の拳は地面を叩き、纏っていた電気が流れ出す。俺は背中を浮かせた状態で、勢いを殺すことなく後転する要領で、投げる。

 静電気並みの痺れが来たが、たいしたことない。

「(やっぱ、重いな……。みんな、それぞれに想いがあるってことか)」


(つづく)

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