第11話仮面の下の
俺が、学生だろうとヒーローだろうと、やるべきことは変わらない。
「そうでしたか……」
そういった風狼さんに対して、俺は首をかしげた。何が「そうだった」のかが全くわからない。
そういえば、前足の包帯、つけたままなんだっけか。さっきまでは、マントで隠れていた。
……ってことは。
「あの猫くんが、ヒーローだったのですね」
やっぱ、ばれてしまったようだ。
「俺は、2代目です。初代は……」
「カイナくん、だろう?」
俺が言い終える前に、風狼さんは答えを言った。
「彼は誰にでも優しかった。他種族であるおれにでも、妻にも息子にも」
実に、カイナにいちゃんらしい話だ。
「カイナにい……カイナは、去年、死にました」
「……そうでしたか。残念です」
風狼さんは言った。
「きみの、名前を、教えてくれるかな」
一瞬だけためらった。ヒーローが本名を名乗っていいのか、って。
まあでも、俺の仮面の下を、この風狼さんは知ってるから、いいのかな……。
「(どう思う? カイナにいちゃん)」
もし、今ここにカイナにいちゃんがいたら、別にいいんじゃねーの、とか言いそうだけど、正直にいうと……。
いや、もうこの仮面で自分を隠す必要なんてないのかな……。
俺は、仮面に手をかけた。そしてそっとはずす。
「初めまして、ファミといいます。アヨリ町に住んでいます」
ぺこりとおじぎをする。
「おれは、ファクタっていう風狼の里の、ラクターだ。こっちは息子のロク」
お互いに自己紹介をして、握手を交わす。
俺は仮面をはずしたまま、公園のベンチに座った。
ラクターは、もっと細かく事情を教えてくれた。
ファクタに、風狼の天敵である
俺は1、2分考えたあと、ラクターにきっぱりと言った。
「じゃあ、これから俺がファクタに行く」
「……え?」
2秒の沈黙。再び、口を開く。
「俺が今すぐファクタに行って、今もなお占領しているであろう放雷熊を追放して、里の皆さんと奥さんを探し出して、そのあとも復興に協力する、ってことですよ」
俺はたちあがってにやっと笑った。いつもカイナにいちゃんがしているみたいに。
「え、でも、もう時間が……」
ラクターの声をさえぎって、俺はいう。
「『善は急げ』、正義の味方に時間は関係ない、ですよ。じゃあ、行ってきますね」
仮面をつける。
さあ、任務開始だ。
俺はファクタに向かって走り出した。
任務に時間も何も無い。そもそも、いつも活動は夜中だし、夜中の活動もこの1年でとっくに慣れた。
あ、今夜中に帰れなかったらみんなが心配……いや、それはないか。別に、今までろくに心配されたこと無かったし、されたところでどうってことはない。
今は、任務に集中しなくちゃ。
そう思って俺はスピードを上げた。
ファミと名乗った小さなヒーローに、圧倒されて立ち尽くしていたおれ、ラクターは、里に向かって走っていった小さな背中を見つめて言った。
「・・・・の素顔も、いいやつじゃないか」
(つづく)
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