ソッキョー!!
皆野友人
-prologue-
「さあ、お前の気持ちを聞かせておくれ!」
白馬の王子様が絵本からそのまま出てきたような恰好の男が声高らかに叫んだ。男を照らしていたスポットライトが拡がっていき、ステージ上にいる私を浮かび上がらせた。
王子の申し出に最高の笑顔で応える。ここから物語が一気に進む大事な場面。
フリルのついたドレスを着た姫役である私のセリフが続く、
はずだった。
「ッ……え、えっと。」
それは一瞬の間。緊張がもたらした思考の断絶。
頭はフル回転しているのに、セリフが出てこない。
舞台上にいる王子役が視界に入る。お互いに笑顔をつくったまま向き合っているがお互いに黙っている不思議な情景。王子が思い出せと目で訴えかけてくる。
申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、必死に思い出そうとすればするほど、焦って余計に出てこなくなる。
観客席が視界に入る。小さい劇場で少し目を向ければ全体が見渡せるため、すぐに観客の一人と目が合った。次のセリフが出てこないことを変に思っているのか、それとも心配しているのか、こちらをじっと見つめている。
私はセリフを言おうと試みるが、それでもパクパクと魚が酸素を求めるように口が動くだけで、何も言葉が出てこない。
舞台には沈黙が流れていた。余計に心臓の音がうるさく聞こえてくる。
すでに思考も鈍り、段々と目の前が遠ざかるような感覚に襲われていった。
視界が徐々に狭まってくる。
私を助けようと舞台袖でセリフの書かれたスケッチブックを掲げている劇団員がいたが、それに書かれた文字も、もうまともに読める状態ではなかった。
そして、
「キュ~~~~~」
変な鳴き声を発しながら、私はバタンと倒れこんだ。
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