第42話運営主催の初イベント開催が告知されたが......

 「諸君!待たせたね!?だが、安心して欲しい......私が来た!」


 クエストを終えた俺達が王都にたどり着いた瞬間の事だった。

 聞き覚えのある声が響き、大空に巨大なウィンドウが開いている。


 「これから一週間後にやるよ!何がって?嫌だなぁ、君達が陳情したしたんじゃないか。イベントだよ!イ・ベ・ン・ト!鯖の最強を決める闘技大会さ!天下一なんとかだよ!」


 バッバッ!と空手の型を見せて演舞しながら語る様は中々に迫力があった。

 流石は社長だ。壁を越えた実力を持っていると語るだけはあるな。


 「予選はこの王都全体を使っての勝ち残りサバイバルだ!大会当日は王都全体の建物に【破壊不可】のエンチャントがされるから安心してスキルをぶっ放してくれたまえよ!大会不参加者やNPC達にも【無敵】状態をエンチャントするから巻き込まれても大丈夫だ」


 ほう、中々面白そうじゃないか。

 王都全体を使っての生き残り戦争なんて、すげー燃えるシチュエーションですな。


 「予選期間は1週間、この期間は内部時間が超加速するから、リアルでは1時間程度しか経過しないので安心して貰いたい。セーフティエリアは王都中央の噴水広場だが、一人につき使用時間は1時間とする。ここでは食事や休憩も可能だし、食料の調達や限定装備の購入なんかも可能だ......参加したくなってきただろう?」


 限定という言葉に弱い人間はイチコロだろうよ。

 まぁ、装備の性能はさておき、記念にゲットしておくのも悪くないか。


 「エリア外では何でもありだ。寝ている所を奇襲しようが、プレイヤー同士で結託しようが......わたしは一向に構わん!!」


 どこの中国拳法使いだよアンタ。

 しかし、群れて襲われるのは厄介だな。


 「だか、予選には戦闘評価という裏ポイントがある事も覚えておいて欲しい。結果に応じて付与されるポイントはイベント後に景品と交換可能だ。一定以上のポイント評価をゲットしたプレイヤーには称号付与もあるよ!」


 ざわざわざわ...ざわざわ......ざわざわざわ


 なんか聞いた事があるというか、見たことあるろいうか......無視しよう。


 「本線出場者は20名まで絞られるが、期間内に決着が付くように、最終日は各自の居場所がマップに表示されるように設定してある。獲得ポイント順にランキングも表示されるから、ランキング上位者を倒せばポイントもうなぎ上りかもね。時間切れの場合はランキング上位者10名の本線出場とするので覚えておいて欲しい」


 ふむふむ、なるほどな!

 実力者は修羅場を潜る事になるだろうし、隠れているだけでは勝ち残れない。

 そして、ポイント付与の条件は公開されないか......面白いじゃないか。


 「本戦は1対1の真剣勝負だ。予選では使用不能に設定する予定だが、ここからは究極スキルの使用を解禁する」 

 俺の相棒はまだ寝たままなんだが本戦に間に合うだろうか?

 いや、究極スキルに頼っているようじゃ駄目だな。

 俺1人でも優勝してやろうという気持ちが大事だろう。


 「ああ、これは余談だが。私や部下も運営という立場を離れてプレイヤーとして参加するよ。もちろんだが、チートの類は一切使用しないから安心してくれたまえ。純粋な実力という暴力を提供しようじゃないか?ハンデとして私はプレイヤーステータスも公開しておこうじゃないか」


 余裕綽綽だな。

 ニヤリと笑う顔とは裏腹に目が笑っていないじゃないか。

 クイッと中指で眼鏡を持ち上げた社長は真剣な表情に切り替えた後で、ブワリを肌が粟立つほどの殺気を開放した。


 「予選会場は弱肉強食の生存競争が行われる広大なコロシアムと化すだろう。君は敵を殴殺しても良いし、轢殺してもいい。圧殺、あるいは焼殺かもしれない。力こそ全てだ!強者は弱者を教育してやりたまえ。経験という教師の授業料が如何に高額か。身を持って実感させてやりたまえ」


 社長の言葉に呼応してブワリと闘気が漏れてしまった俺だが、王都のそこかしこで同様に反応した実力者の気配が感じられる。

 初ダイブ前に感じた気配も王都には幾つか存在しているようだな。


 「では諸君らと合間見えるのを楽しみにしているよ?骨を砕く感触はクセにならないか?私は鍛え上げた己の肉体が破壊の為に力を振るう刹那に喜びを感じてしまうようだ。本物の登場に期待している」


 プツリと消えたウィンドウだったが、殺気に反応して滾った血潮がギュンギュンと全身を駆け巡っているのを感じてしまった俺は、以前の感覚が甦りそうになった。

 【九頭竜 麗華】を圧倒して屈服させた頃の俺。

 力に飢えた獣が心の檻を激しく揺さ振り、強引に破砕して飛び出そうとしている。


 「ふぅー。落ち着け俺......相手が居ないのに高ぶっても意味が無い。それに、意味も無く力を振りかざすのは知能の低い獣と同じだ。俺は卒業したんだからな」


 深呼吸して心を落ち着ける。

 トクントクンと早鐘を打っていた心音静まっていく。


 「ほほう。ユート君も男だねぇ。オジサンもつい剣を握ってしまったよ。戦場の空気は男を高ぶらせるようだ」

 「不覚ですね。私も心が躍ってしまいました。魔法一発ではストレス発散にもなりませんでしたしね」

 「そうだな。我々は参加出来ないが、ユートが勝ち残るのを見届けるとしよう。¥か、一週間後が楽しみだ。我が夫の活躍を堪能しようじゃないか」


 三者三様に好き勝手言っているが、ここはスルーしておこう。


 「んじゃ、PT解散だな。協力に感謝する」

 「陛下の暴走でクエストを失敗したのだから、罰則金は王家で負担しよう」

 「楽しませて貰ったしね。息抜きが出来たと思って感謝しておくわ」

 「私も騎士団の訓練に戻るとしよう。今回の経験でまた一つ壁を越えた気がするのだ」


 それぞれが己の居場所へと戻っていく姿は、冒険者らしいというかなんというか。

 王国に名を轟かせる英雄達と肩を並べていたんだな、と思うと中々に良い体験だったとも言える。


 「んじゃイベントに向けて俺も自分を研ぎ澄ませなけりゃならんな。だが、まずはクエストの報告と受注に向かおうかな」


 ふぁあ~っと背伸びをしながら冒険者ギルドへ向かうユートの足取りはのんびりしていた。

 冒険から帰還したばかりだが、先ほどの心躍る情報など無かったかのようにリラックスした状態の彼は次の冒険を想像して胸を躍らせ始めていた。

 キィイと木製で両開きの扉を開けてギルドに入ったユートは、迷う事無くカウンターへ向かった。


 「クエストの報告に来たんだけど」

 「お疲れ様ですにゃ。今回のクエストの結果は既に報告が入っていますので、報酬を支払いますのにゃ」

 「へ?」

 「にゃん?」


 失敗したクエストの報酬が発生しているんですが?

 驚愕の新事実に一瞬思考がフリーズしたが、まずは話を聞こうじゃないか。


 「今回のクエストは失敗したはずなんだが」

 「ああ、それでしたら大丈夫です。今回の任務を依頼したのは......陛下ですから(ボソリ)」

 「はぁ、それで何で急に陛下は何と?」

 「大変有意義な冒険であったと。我が国に存在した不安の目をまた一つ摘み取る事が出来た。優秀な冒険者のおかげで助かったと」


 暴走して自分で解決しておきながらどういうつもりだ。

 俺は外で眺めていただけの気がするんだが?

 廃城を吹き飛ばしたのも、吸血鬼とタイマンかましたのもアンタじゃなかったか。


 「これが今回の報酬ですにゃ」


 ジャラリと金貨の詰まった袋がカウンターに置かれる。

 白金貨がギッシリと詰まっているが、それだけでは無くステータスの上昇アイテムまである。


 「こりゃおいしいな。しかし、本当にこれで良いのだろうか」


 報酬の受領書にサインしたユートは、隣の買取カウンターへ向かう。

 いつもなら他の冒険者達が何組か居てもおかしくないのだが、今日は待ちが内容でラッキーだった。


 「買取りをお願いしたいんだけど」

 「おう!了解だ。物を出してくれ」

 「分かった。ちょっと多いんだが、こんな小さなテーブルで大丈夫か?」

 「レベル1が何を生意気いってやがんだ。大丈夫だ、問題無い」


 ドサドサドサドサドサドサドサドサっと山の様に置かれた素材の山が積み重なり、カウンターの置くやテーブルの下へと零れ落ちていく。

 そりゃそうだ。出会う敵全てをサーチ&デストロイして言ったのだから、この程度の量などほんの一部だ。

 味方のNPCは報酬は要らないと受け取り拒否状態だったので、山の様に積み重なったこの素材だけでもほんの一部なのである。


 「ははははは......適正レベル200オーバーのアイテムを売りに来ただと!?今のプレイヤー平均レベルは三桁まで到達してないぞ!最前線プレイヤーでも70を超えた所だ」

 「そうか、うむ......大丈夫だ。問題無い」

 「一番良いのを頼む」


 買取り査定だけで2時間近い時間を浪費した俺は、クエストボードに張られた依頼書を見てニヤリと笑った。

 次回のクエストはこれにしよう。


 その依頼書にはこう書かれていた。

 

 【鉱石の採掘及び新鉱脈の調査】を行って欲しいと。

 

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