第39話廃城の噂
「ユートちゃんってば大活躍だったみたいねぇん。私の所まで噂が聞こえて来てるわよ?」
「耳が早いねぇ。つい先日の話なのに、もう知ってるのか」
「私ってば情報通だから?ううん、興味のある子の事は知りたい年頃なのよ」
クネクネとマッチョな兄貴が照れる様は、精神的にくる物があるが、順応しつつある俺がいる。
今日のアンジェのファッションは、ピンクのワンピースに真っ赤なリボンという、デスクロスだ。
「最近、胸の所がまたキツくなってきて困ってるのよ~。あーん困る困るわ~」
「ほう、それはともかくだ。何故ここに遊びに来たかという話に戻るがいいか?」
「もう!いけずねぇ。いいわ、それでどうしたのかしら?」
キツくなってきたというが、そもそもワンピースのサイズが最初からおかしい気がする。
じゃなかった。実は前回のクエストを終えてから、酒場で気になる噂を聞いたのだが、王都で聞き込みをしても一向にフラグが立たないのだ。
それで、王都の情報通って誰かという捜索方法に切り替えた所、アンジェが独自の情報網を持っている事が判明した次第である。
「実は噂で廃城に出る幽霊の噂を聞いたんだが、詳しく知っている人が見つからない。そもそもだが、廃城の位置は地図と歴史書で調べが付いたが、何時廃城になったか?何が原因で廃城になったか?が諸説あって判別出来ないんだ。誰かが故意に隠している気配さえする」
「あら、中々良い所まで調べてるじゃないの。おねぇさん関心したわ」
そもそも年代や持ち主がおかしいのだ。
公爵が住んでいただと書かれている資料もあれば、地図には伯爵の城と表記されていたりする。
家族全員が行方不明となり、使用人まで含めて誰も居なくなった。
なんて書いてあるのに、別の資料では大火事で全焼したと書かれている物まであるのだ。
それも、住んでいた時期が1年と違わないなんて偶然という言葉じゃ納得出来ない。
「クロスロードとユーピテルの国境付近にあるアレでしょう?誰も立ち寄らず、手入れもしないもんだから、森の拡大に飲まれちゃったものねぇ」
「詳しいな。やっぱり何かあるのか?」
「ええ、ユートちゃんが調べた事は全部事実よ。あそこは色々あったらしくてね。当時はユーピテル王国の領土だったんだけど、今はクロスロードの領地なの」
聞けば、ユーピテル王国とクロスロード王国が戦争をしていた時代があり、その頃の最前線基地的な役割を果たしていたらしい。
偶然なのか、誰かが仕組んだのか、当時から何度もとトラブルに見舞われたり、不思議な事が起こっていたらしい。
「アンジェから見てどうなんだ?俺でもいけそうかな?」
「そうねぇ......一人じゃ厳しいんじゃないかしら?Bランク冒険者のPTが2組位動く案件だと判断しているわ」
「こりゃ大事だな。なんでアルフォンスは対処しないんだ」
「実害が無いからじゃないかしら。それに、気になるものを全部駆逐していったら、あなた達の仕事が無くなっちゃうじゃないの」
まぁ、そこはゲームですし?王国に攻め込んでくるような事でも無ければ対処もしないか。
そもそも、治安の維持や外国との交渉事も日々行われており、最近トラブルが発生したばかりだから警備も強化しているのだ。
プレイヤーに対してまでクエストが発生するほどだから、人手が足りていないのだろう。
さて、どうするかな。BランクってLV200台だよね?人外一歩手前クラスですよ。
「6人1PTでそれが2組、ゲーム初期でそんな面子を揃えろと?それ何て無理ゲーですか」
「それはこっちの世界基準でしょ?【転生者】って低レベルでも化け物じゃないの。ユートなんて広域殲滅スキルは持ってないけど、単体で暴走したらAランクの災害指定モンスターと変わらないわよ?」
「そりゃ、俺は育ちが特殊だからな。でもクリスタルの究極スキルだって連発出来ないし、プレイヤーが死んだら意味ないぜ?」
それに高レベルは基本ステータスからして異常だからな。素で戦ったら勝てる気がしない位に強い。
完全に無効化しないとデータ的な意味で死亡判定が出るからな。
「まだ早いって事じゃない?経験を積むのか、人脈を構築するのかしないとね」
「そうだな。ああ、化け物って言ったらアンジ」
「だーれが化け物だってぇ!?ゴラァ!」
「あ、良い男」
「ヤダもう!お化粧直さなきゃん。ねね、どこ?どこなのイイ男......あら?」
全速力で店内から逃走した俺は路地を曲がった辺りで一息つく。冗談のつもりが地雷を踏む所だったぜ。
だが、この案件は俺だけの手には負えないな。何か対策を講じなければならないだろう。
まさか他国との国境付近とはいえ、近場にレベルのインフレがここまで激しいスポットがあるとはな。
「む、ユートではないか」
「ソフィア?何でこんな所にいるんだい?」
「今日は非番だ。お忍びで食事にでも行こうかと城を抜け出した所だ」
ポニーテイルに纏めた金髪に水色のワンピース姿のソフィアだったが、それだけでは変装する気あんのか?となる。当然だが何時ぞや使用していた【偽装の腕輪】を着けている。
「今日はエリーは実体化していないのだな」
「ああ、エリーはこの間の戦闘経験でランクが上がったらしくてな。自己進化とかで休眠状態だ」
「クリスタルも生きているからな。マスターと共に成長するのは当然だ。幼体から成体の進化には時間が掛かるそうだぞ?」
クリスタルは幼体→成体→完全体の順で成長するらしく、マスターに適合し始めてから新たな成長を遂げる。
個体によって様々な形を取るが、中には武器や防具に変化する事もあるそうだ。
「彼女は今まで以上にユートの力になってくれるだろうさ。それで、何であんな速度で走ってきたんだ?気配で周囲の把握はしているんだろうが、ぶつかれば相手が吹き飛ぶような速度は関心しないぞ」
「ああ、実はアンジェにな」
今までのやり取りを説明すると、ソフィアはため息をついて俺にジト目で視線を送る。
なんかゾクゾクするが、そんな場合ではないのだった。とりあえず、話を進めよう。
「なんか良い方法はないだろうかと悩んでいてな」
「どうして私を誘わないのだ!そんなスリルを感じる話題、私抜きで始めよう等と......実に嘆かわしい!」
「おい姫さん。あんた暇じゃないだろうに。っていうかスリルとかそういう問題じゃねぇだろ」
どうせアンデットにでも群がられて教われる想像でもしているんだろう。
被虐趣味全開で突っ込んで行くに違いない。助けに行ったら「お、おお、お構いなく」とか言いそうである。
「何にせよソフィアだけじゃ数が足りないな。冒険者ギルドでクエストの協力者でも募ろうかな」
「良いのではないか?勿論私も参加するぞ!参加するからな!ハァハァ」
「まぁいいけどな。一発しか魔法撃てない魔法使いとか、泣き喚いて何でも浄化する司祭とか、残念な仲間は連れてこないでね?」
「むむ、なんの事か分からんが善処しようではないか!」
不安で一杯であるが、おそらく大丈夫だろう。
しかし、他に誰か誘おうにも、みんな忙しそうなので躊躇われる。
「それでは冒険者ギルドへ出発だ。さぁ行くぞユート!」
「なんでソフィアが仕切ってるんだよ......はぁ」
こうして押しかけ助っ人になった姫騎士に手を引かれて冒険者ギルドに向かう俺だった。
「さり気なく手を握る辺り、デートしたかったとか?」
「べ、別にそんな事は考えて......無かったりしなかったり」
やれやれである。
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