第38話隣国からの来訪者
騒ぎもひと段落した事で王都は普段の日常を取り戻した。
一部では、大規模な戦後の特需も発生しているが、アルフォンスが国庫を解放している為、不足していた商品の入荷にも目処が付き、価格の暴騰も発生していない。
王国の南で【支配級】の悪魔王デビルロードが3体纏めて現れたという知らせを受けて駆けつけたアルフォンス達だったが、隣国からも援軍が到着しており、既に戦端は開かれていた。
事前に通信用の魔導具で連絡を取り合い、ユーピテルからも騎士団を派遣してもらう事となっていたからだ。
王国の南にはユーピテル王国が存在しており、騎馬の白騎士団、魔導鎧の黒騎士団が有名だ。
現国王になってから身分格差を減らす努力をしようと努力しているが、己の利権や誇りを守ろうとする貴族達から反発を受けている。
そんな中で悪魔王3体という知らせを受けた賢王フェアは直ぐに騎士団の派遣を決意した。
隣国の領内だが、発生場所は国境付近である。
国境を越えて被害が拡大するような事があってはならないし、クロスロード側も何やら事件が発生しているらしく対応に追われているという報告も上がっている。
「我が騎士団の武威を見せつけよ!我々が国の威信を背負っている事を忘れるなよ?」
「しかし、良いのですかシャビーネ卿。王からはクロスロードと協力するようにと指示が」
「かまわん。足の遅い連中を待って国に被害を出す訳にはいかんのでな。有事の際に国の盾となるのが我々貴族の務めよ」
漆黒の魔導鎧に身を包んだシャビーネが先頭となり槍を掲げる。
3メートル弱という、下位巨人種並みのサイズの魔導鎧に身を包んでいる騎士達がズラリと戦列を組んでいる姿は圧巻の一言で、存在しているだけで無言の圧力を纏っている。
「白騎士達が突撃を始めている。我々も戦闘開始といくか。見せてやれ!選ばれし者だけが纏う事を許されたこの鎧こそが我々の誇り。平民にくれてやる玩具ではないのだと陛下に示すのだ!」
魔導鎧の脚部にはスラスターの様な物が付いており、キラキラと薄く青い光を放つとフワリと鎧が浮き上がる。
騎士達はそれぞれが高度な教育を施されている。騎士でありながらも熟練した魔法使いでもあるのだ。
「全軍突撃!まずは雑魚共を掃討しろ。デカイのはこの私が殺る」
青い輝きが強まり、魔導鎧は急加速して空を飛んでいくと、突撃して悪魔王の眷属達と戦闘している白騎士団に合流した。
「圧倒的ですな。彼等に任せてもその内決着するだろうと思いますが」
「うむ、しかし俺がここで観戦している訳にも行くまいよ。我が国の問題を他国の騎士団に丸投げしたとあっては国民に申し訳が立たんしな」
セバスチャンの素直な感想に答えるアルフォンスだったが、国民を引き合いに出さなくても戦いたくてウズウズしているのか闘気が漏れ出ている。
それを見てやれやれと思いながらも、主が存分に戦えるよう準備を始めるセバスチャンだった。
「あら?私も手間が減るならば遠慮したい所なのですが、魔力は減りますし?」
「宮廷魔術師になっても物臭な所は変わりませんなぁ貴女は......アルバート殿も奮起しているのですから我々も行かねばなりませんよ」
「ですよねー。まぁ、悪魔関連のサンプルも欲しかった所ですし、実験用に素材は多めに確保して頂きますよ?アルフォンス様!」
「ふむ、好きにせよ。それよりも張り切りすぎて友軍を吹き飛ばさんようにな」
師匠と教え子の立場を卒業しても変わらぬローゼンシアに呆れながらも、セバスチャンは嗜めるようにアルバートを引き合いに出す。
剣と魔法のトップ同士で確執がある訳ではないが、アルバートが戦っているのに手を抜いていたら後で何を言われるか分からないと、敏感に脳内未来予想図に反応した彼女はやる気を取り戻した。
クロスロード軍とユーピテル軍が合流してからは一方的だったようで、飛び交う魔法と攻撃の連鎖が瞬く間に敵の体力を削り取った。
アルフォンスの剛剣が雑魚諸共悪魔王を消し飛ばし、王国の精鋭達が
「貴族主義社会最高......再興の為に!貴様は邪魔なのだよ!」
「グォオオオオオオオオオオ!」
最後の悪魔王が倒れ伏した事で下位悪魔等の眷属が新たに呼び出される事も無くなり、殲滅戦へと移行した。
シャビーネ達も役目は果たしたと帰還の準備を始めている。
そこへアルフォンスが訪れて今回の礼を述べている所だったが、背後から生き残りの奇襲を受けた。
「シネ!ニンゲン!」
全魔力を込めて放たれた魔法だったが、シャビーネが魔導鎧でアルフォンスの盾となるように立ちふさがり、そのまま悪魔へと突撃する。
爆炎に包まれたシャビーネだったが、ダメージといったダメージすら負った様子も無く炎を中から飛び出してきた。
「駄目じゃないか!死んだはずの存在が出てきては!!」
超高速振動する槍に貫かれて分解された悪魔は言葉も残さず消滅した。
「それではアルフォンス様。失礼致します」
白騎士団と黒騎士団は国境を越えてユーピテル王国へと帰還していく。
「素晴らしい腕前の騎士でしたな」
「うむ、若さもそうだが隻眼でありながらもそれを感じさせない圧倒的な技量。そして軍団を従えるに相応しい将器を兼ね備えている」
セバスチャンとアルフォンスが戦後処理を終えて王都へ戻るのはそれから2日後であった。
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