第16話スラムの孤児、ユートの決断 二人の祝杯
宝物庫から帰って来た俺達は、王宮の客室でお茶した後、宿に戻った。
帰り際に、アルフォンス様...アルフォンスから追加で報酬を受け取る事になったが、既に手に入れているので遠慮する意思を伝えた所、アイテムボックスに強制的に入れられた。
こんな事どうやって?「嗜みでございます。ユート様」
セバスチャン!?....完璧執事だな。某黒い執事みたいだ。桁がおかしい。
そう考えれば、あのメイド長も常識を逸脱していたか。お茶を用意するからと言ったが、テーブルが無いんだが...一瞬目を逸らした後、視線を戻すとそこにはテーブルが...え?
メイド長に視線を向けると、スカートの位置を調整している様子....まさかね。
「今そこからテーブルをだ」「ユート様、メイドの嗜みでございます。」.....この王城は魔界か何かだろうか?
「一家に一人欲しいですね。こんなに若いのにメイド長ですか。」
「ご冗談を仰らないでください。欲しいだなど....本気にしてしまいますわ。」
....照れている顔も可憐だ。キリッとしている時とのギャップがまた素晴らしい。
という一幕があったのだが、家を建てたらスカウトしようか...アルフォンスにお願いしてみようかな?。
「ちょっと、考え事をするから、農地の購入が出来る所まで連れてってくれないか?エリー」
「分かりました。では手を引きますので、安心して思考なさってください。」
今日のエリーは、前回のファッションショーでソフィアに対抗して購入した青いゴシックワンピースである。フリフリ衣装がとても似合っているね!俺はこういうデザイン大好きだ。
戦利品の確認からしよう。
まずは、ラシアが持たせてくれた物からだ。
【世界樹の葉】HP全快 MP全快 状態異常解除 死亡時蘇生可能
効果発揮後、1日間【自己再生付与(世界樹)】を付与
【世界樹の枝】世界樹の苗木から取れる枝。瘴気や毒素の浄化能力に優れる。杖に加工すると強力な魔力の増幅や、治癒力の強化を補助してくれるだろう。
様々な用途に使われるが、枯れた物ではなく、瑞々しいままの枝は入手困難である。
【世界樹の苗(ラシア)】ラシアから受け継いだ苗、生命力に満ち溢れている。
植樹を行った土地周辺に加護を与え、周囲の植物に祝福を与える。世界樹の加護を与えられた土地では、育成条件の厳しい植物も容易に育成可能になる。
穢れた大地は浄化され、毒素を含んだ水すら飲料に適した水になるだろう。
【世界樹の雫】世界樹が生成する雫。生命力と大地のマナが凝縮されている。
単体で部位欠損の治療が可能である。エリクシルの材料として用いられる事が多い。
薬剤に添加する事でも強い効果を発揮する、魔法薬全般に使用可能。
HP全快 MP全快 状態異常解除 死亡時蘇生可能 部位欠損回復 超回復補助
効果発揮後、1週間【自己再生付与(世界樹)】を付与
葉が10枚、枝が5本、苗が2株、雫が10本ある。かなりの量を貰えたので、これを元に色々なアイテムを生み出す事が出来るだろう。
次は、アルフォンスから貰った褒美だ。
【ミスリルインゴット】(品質 A+)
魔法銀、ミスリル鉱石を精錬してインゴットに加工した物。
非常に優れた技術により、自然界にある物よりも品質が高い為、魔力の伝導率に+修正あり。
【アダマンタイトインゴット】(品質 A+)
アダマンタイト鉱石を精錬してインゴットに加工した物。
非常に優れた技術により、自然界にある物よりも品質が高い為、防御力に+修正あり。
【オリハルコンインゴット】(品質 S)「セバスチャン」
オリハルコン鉱石を精錬してインゴットに加工した物。加工者の銘が入っている。
特別な手法により加工されている。作成したアイテムに応じて、様々な効果を得られる。
「ユート様、嗜みでございます」
【開拓者のメダリオン】
装備者のLVに応じて効果が変動する。自身のLVより高い適正レベルのフィールドで効果を発揮する。使用者のレベル+5以上から効果を発揮する。
レアドロップ率上昇10%、ドロップ率上昇20% 適正レベル+5毎に上昇値が10%上乗せされていく。
装備中はスキル【経験値変換(金貨)】を強制付与。
【結界石(特級)】
配置された点と点の結ばれた範囲に、強力な結界を生成する石。
生成された結界は、ドラゴンのブレスをも容易に防ぐ。
石に込められた魔力が切れるまで、結界を張り続ける。結界の範囲内は、設置者が許可した者以外は通行不能になる。
下級、中級、上級、特級、聖級、神級が存在する。現状、人類が所持しているのは聖級までである。聖級は、エルフが聖域を形成する事に使用している事が確認されているのみ。
神級は、神域【世界樹の大樹海】【聖獣の墓所】に存在するという文献での記述が確認されているのみであり、確認した者はいない。
【クラン結成許可証(特)】
国王にクランの結成を許可された証。
王国内にクランハウスの建設許可を申請可能になる。国内の土地購入権取得。
国王への謁見が可能(時間を問わず受け付けると、王印の下に自筆されている)
【クロス金貨】
大陸中で流通している最も一般的な貨幣。クロスロード王国製で、流通している金貨の中では、最も純度が高いとされる金貨(18k)で加工技術の高さや、美術的な観点でも最も価値が高い。 表面は国章、初代国王が使用していた王配が描かれている。背景の炎に盾、2本の剣がxに交差している。
裏面は世界樹の印として使われる。木が世界を支えている絵である。(イメージとしては、「スノッリのエッダ」の挿絵)
貨幣かちについては、銅貨1クロス、銀貨100クロス、金貨10000クロス
一般庶民の一日の生活費は、およそ70~100クロス程度らしい。
各インゴットを10本、結界石が4個、メダリオン、許可証、金貨1000枚である。
どれも初期段階では加工する事も出来ないので、死蔵品になりそうな予感がするが、行くとこに行けば加工してもらえるはずだ。
金貨1000枚は個人にはぶっ壊れ価格だが、宝物庫の中身を見た後だからか、異常だと感じなかった....感覚が麻痺していたのだろう。
しかし、セバスチャン....多芸である。まさか、システムの解説にまで介入してくるとは!執事とは一体何なのか?世界の真理を探求したくなる案件である。
まず、俺がやりたい事は物作りである。
冒険者としても活動したいが、生産者としても活動したい。武に身を置いてから破壊する事ばかりだったので、生産者側に回ってみたいという欲求があったのだ。
ブラウザゲーでは、クリックすれば完成か失敗かという、何とも達成感の無い作業だったが、このゲームでは違うのだ!俺の欲求を満たしてくれるはずである。
「マスター、到着しました。」
マップで確認すると、南門左手にある大きな農業区画だった。
「あちらで購入可能らしいですよ。行ってみましょう!」
そのまま手を引かれて、二人で駆け出す。管理小屋だろうか、木造の建物が見えてきた。
「あら、お客様ですか?ご用件をお伺いします」
建物の前で、花壇に水を撒いていた女性が手を止めてこちらを向く。
「はい、土地を購入したいのですが、価格と購入可能な土地を教えて頂きたいのです」
「畏まりました。それではご案内しますので、こちらへどうぞ」
ニッコリと微笑むと建物に案内してくれた。
まず、価格ですが一区画(0.1ha『1000 平方メートル』)が金貨10枚で売り出されています。まだ、生産者の方が少なく、かなりお得な値段だと思いますよ。
個人所有の方には、最低(0.1a『10 平方メートル』)からお求めが可能となっております。
また、現在の個人所有限界は1haまで可能となっております。
むむむ、如何するべきか...個人ではあまり広くし過ぎると手が回らなくなるが、生産職がやりたければ、個人で採取するだけではとても足りない。
悩ましいな、ちょっと考えよう。
「ありがとうございました。考えを纏めて出直します」
「そうですか。それでは、次のお越しをお待ちしております」
お礼を伝えて出直すことにした。甘く見ていた...現実と同じなんだから。当然だが、かなりの土地が必要になってくるし、人手が必要になるのだ。
土地の維持費・管理費も結構な額になるはずである。ゲームだと思って舐めた考えで始めると痛い目に合うな。(レベルの低いブラウザゲーとは違うのだよ!ユート君!)
....社長の声が聞こえた気がする。
「考え事しながら歩くと危ないぜ!兄ちゃん」
突然、背中に衝撃があったが、そんなもので俺は揺らがんぞ。
柳の如く受け流し、体当たりしてきた少年を捕縛する。
「い..痛っててて...クソ!放せ!放しやがれ!」
地に押さえつけられて状態なのだ、騒いだ所でどうにもならんよ。
「少年、俺の懐を狙っていたようだが、財布なんか無いぞ?まぁ、落ち着けよ。」
それでも、抵抗を続ける少年に、声のトーンを落として告げる。
「抵抗を止めろ。手間取らせるなら骨を一本折る、大人しくすれば、衛兵に突き出さずに返してやる。ただし、俺の会話に付き合うのが条件だ」
「分かったよ。約束は守れよな?」
案外物分りが良いじゃないか。大人ならこうはいかんかも知れんな。
「まず、名前は?歳は幾つだ?どこから来た。」
「グロウだ。13だよ。南門から右手に行った、角の方にあるスラムに住んでる」
「目的は金か食い物って所だな、苦労してるんだろう?俺に話してみろ」
「....そうだよ。金でも食い物でも何でも良かった。俺と妹の二人で住んでる。父さんは逃げたし、母さんは3日前に襲われて...殺さ..れ...」
話をしている内に思い出したのだろう、生活が逼迫しているから麻痺していたが、俺に話した事で緊張が緩んでしまったのだろう。涙が溢れて言葉にならなくなった。
力強く抱きしめて、背中を撫でてやる。こうやっていると、俺を抱きしめた爺さんを思い出すなぁ。7歳だったが...それでも俺は食うに困らなかったし、恵まれていた。
まともに飯も食ってないんだろう、痩せて骨まで浮いているじゃないか。この分だと、体力がないだろう妹は危ないな。
「辛かったな。だが、お前がやろうとした事は犯罪だ。リスクは覚悟していたんだろ?捕まったら妹はどうするんだ?冷静になれ。」
宥めるように静かに話す。答えは分かってるさ。だが、ガス抜きが必要だ。グロウは思いを全部ぶちまける必要がある。
「ならどうすればいいんだよ!頼れる奴なんかいなかったんだ!このままじゃ、プランが死んじまう!俺じゃ食わせてやれない!自分の分だって食べたフリして全部食わせたんだ...もう、パンの一切れも残ってないんだ!」
そうだろうさ。だが、安心しろここからは、俺がお前達を護るさ。優しい兄貴が命を賭けて妹を護ろうとしたんだろう?お前の覚悟は、金銀財宝や豪邸なんかとは、比べ物にならない程に...尊い物だ。
「後は俺に任せろ、さぁ!妹を迎えに行くぞ!案内しろ!」
「なんで...なんでだよ。どうして、俺に優しくしてくれる?俺は盗みを働こうとしていたのに、兄ちゃん言ったじゃないか!俺は...犯罪者だ」
「俺だってグロウと同じ立場なら、きっとグロウと同じ事をしただろうさ、俺はもっと上手くやるけどな。」
「マスターがグロウを助けるのに理由が必要ですか?ならば答えましょう」
答えなんか決まってる。俺とエリーは顔を見合わせると、答えた。
「「グロウはプランを護ったじゃない(です)か」」
そう、それだけで十分な理由だ。俺にとっては何にも変え難い理由だ。
「グロウ、お前の覚悟が妹を...いや、スラムを救うのさ。一生誇れよ!お前は偉大な兄貴だった!俺が誰にも笑わせない...絶対にだ!」
頭の中で組み上げていたパズルが完成した。
これだ、俺が俺の進む道だ!やってやろうじゃないか!
プランを迎えに行った俺達は、宿に戻ると部屋をもう一つ取った。
「エリー、二人を風呂に入れてから、食堂で飯を食わせてやってくれ。」
「俺はアルフォンスの所に行く」
宿屋を出ると、王城に向かって走り出す【闘気法】【闘鬼法】で身体強化を施すと、速度がグングン上がる。目立つ前に空中へ跳躍する。【天駆】【気配隠蔽】
王城が見えてきたな。王城に向かって、気で強化した思念波を送る。
これで、実力者は気づいたはずだ、アルフォンスなら俺の気配も判別出来るだろう。
城門前に降り立つと、【クラン結成許可証(特)】を見せる
「ユート様ですね?無条件でお通しするように、仰せつかっております。」
衛兵は踵を返すと、開門を命じると、城門が開き始める
「では、ご案内いたし」「不要です。ユート様、国王陛下がお待ちです。私とご一緒ください」
門からソフィアが出てくる。今日は王女様モードですか、純白のドレスがとても良く似合っている。これで、ドMでなければ文句ないのだが。
案内されると、すでに応接間が準備されており、テーブルにはカップと菓子が並んでいた。
アルフォンスも椅子に座って寛いでおり、セバスチャンも控えている。
「何か緊急の案件でもありそうだなユートよ!この短期間で王城に訪れようとは....乙女座の俺には、センチメンタリズムな運命を感じずにはおれんな!!二度目!二度目である!」
立ち上がると、さぁ来い!とばかりに腕を広げる変態。
「ユート様、そのお召し物の汚れ、その覚悟に満ちた表情...スラムですな?」
「さぁ!来い!ドンと!」叫んでいる変態とは対象に、鋭い切り込みのセバスチャン...只者ではない!
「ユート様の事です、数日と間を置かずに王城に訪れるであろうと、私は確信しておりました。故に、アルフォンス様には私から既に提案を通しております」
「慧眼恐れ入ります。賢者とて貴方の洞察力には及ばないでしょう」「恐悦至極」
「ユートよ、その話題に触れると言う事が、国の大事に繋がる事は分かっておろうな?」
「把握している。俺だって馬鹿じゃない、スラムの意味も、なぜ国がそれを放置しているかも分かっているつもりだ。」
「ならば、結論から言おう。却下である」
「その答えも予測済みだ、その先...期待しても良いんだろう?」
「流石でございます。ユート様、ここで感情を爆発させて醜態を晒すような愚か者であれば、この老骨が処分する所でございました。」
ふう...そこも予測していただけに肝が冷えるな。
「ならば、問う!王よ、如何するおつもりか?」
「スラムの存在は消せぬが、事業の資金援助と孤児院の増設、人手の提供...俺が出よう」
!!? 予想を超えられたな。流石はセバスチャン....そうでしょうとも、と笑顔を向ける余裕があるとは....参った。
椅子から立ち上がり、地に伏せて頭を下げる
「感謝致します。期待を裏切らず、可能な限り最大限の結果を出すように、全力で挑みます」
「よかろう!追って詳細を通達するゆえ、まずはゆっくりと休むが良い!」
「貴方の覚悟、しかと見せて頂きました。このセバスチャン、期待を裏切らぬ協力をお約束いたします。」
「急にこんな形で来てすまない。案内ありがとうソフィア」
「いいえ、私こそあの場に居合わせる事が出来た事を、誇りに思います」
礼をして退室した俺は、ソフィアに礼を言うと宿に戻った。
「英雄の資質...ですな陛下」
「うむ、あの若さにしてあの覚悟、あの胆力...血が滾ったわ!」
微笑むと、アルフォンスはアイテムボックスから、二つ取り出したグラスにワインを注ぐ。
「このような心地よい気分は久しぶりよ!飲め、セバス!若き英雄に!」
「王国に吹いた新たな風に!」
「「乾杯!」」
主従は久方ぶりに、立場も時も忘れて酒を飲んだ。二人は、若い頃を思い出しては語る。
あの時、パーティー全員が理想を語り、目指した夢の果てへ辿り着く事は出来なかった。
だが、ここに現れた意思を継ぐ者は、今度こそ理想を叶えて往くのではないかと。
あの時、皆で空ける為に取っておいたワインは、安っぽい物で、大して旨いものではなかった。
だが、二人にとっては、どんな高級な酒よりも美味かったし、どんな希少な酒よりも感動を味わう事が出来た。涙が頬を伝った。
パーティーを結成した当初に、アルフォンスが我侭を言って、皆で作った思い出のワインだった。
誰か一人でも良い、夢を叶えた時に集まって、皆で乾杯しようと。
結局、空けられる事は無かったワインだった。今ここで開封され、二人が乾杯したワインラベルにはこう書かれていた。【希望】
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