心霊・オカルトを真面目に考察する話。

輝井永澄

その1. 銀とファブリーズが魔除け・除霊にとても有効な話。

※この記事は「長野市役所ダンジョン課」内に掲載した考察コラムを再編・追記したものです。



まずは手前味噌ながら、拙作「長野市役所ダンジョン課」から。


第1話で主人公、イサナが「魔獣除け」としてファブリーズを使用するシーンを描いています。



現実でも、オカルト界隈ではファブリーズが除霊に有効なのは、実は有名な話だったりします。

実際に、除霊のためにファブリーズを使うことも多いのだとか。


そしてこれ、それなりに科学的・歴史的な根拠がある話でもあります。


 * * *


少々話が飛びますが、RPGなんかでは、銀が悪魔族に対して有効なのは定番の設定。


古くはゴシックホラーにおいても、吸血鬼や狼男にダメージを与えられるものとして登場することがあります。


「銀の弾丸(Silver Bullet)」という言葉は、「一撃必殺の特効薬的」な意味のスラングとして用いられることもあるのだとか。


シルバーアクセサリーなんかも、「魔除けに効果がある」として広く認識されています。



そもそも、銀が退けるといわれる「魔」というのはなんでしょう?


銀に限らず、貴金属などのいわゆる「光りモノ」はそれだけで神聖なもの、魔除けに効果があるとされる向きはあります。


特に金は、その輝きだけでなく、物質として非常に安定しており、腐食に非常に強いという特性からも、「永久不滅の神の金属」という受け取られ方をしてきました。


これに対し、銀というのは、割とすぐに黒く変色してしまったりします。


もっとも、これは錆びている(酸化)しているわけではなく、硫黄などと化合して硫化するのが原因。



実はこの、「貴金属のクセに割と変化しやすい」というのが、金に対応する形での銀の「魔除け」としての立ち位置において、非常に重要な要素となります。



ひとつには、「貴族の食器として銀が好まれた」こと。


ユーゴ―の「レ・ミゼラブル」でも銀の食器は重要な小道具として登場しますが、当時、銀の食器は上流階級が好んで使いました。


これは単に贅沢品としてではなく、ある実用的な目的があったという説があります。



それは、「毒殺を回避するため」。


前述のとおり、銀は硫黄と化合しやすく、黒く変色する特性を持っています。


これが、毒物に含まれる硫黄と反応するため、銀の食器にはいわゆる毒見としての用途があったのではないか、というのがこの説。


(実際に毒となるのはヒ素ですが、それを含む毒を作りだすためには硫砒鉄鉱を精錬する必要がありました)



もっとも、硫化などの概念がまだ発見されていなかった当時のことです。


明確に「毒殺よけ」として用いられたというよりは、経験的に「銀が黒く変色するとヤバいっぽい」ということが知られていたのではないでしょうか。


 * * *


ここで、留意しておきたいのは、伝説上の「悪魔」や「モンスター」というのは、つまり「病」そのものだという可能性です。


中世ヨーロッパにおいて、街の周りの森は暗闇の世界であり、「魔」の領域でした。


人ならざるものの支配するそこから、「死」が運ばれてくると考えられていたのです。


公衆衛生や細菌学の概念が発達する以前のこと。


これはつまり、森の自然の中からもたらされた雑菌・細菌が、「未知の力で死をもたらす怪異や呪い」として認識されていたのではないでしょうか。



だからこそ、銀の食器は、毒殺だけでなく、得体のしれない魔術からも身を守るための「実際的な」用品だった――


そして食器としての毒殺避け以外でも、人間の身体に有毒な硫化ヒ素に強く反応して黒く変色する銀が「害悪を避けるアイテム」として経験的に考えられていた、ということが推測できます。



さらに、銀イオンには、実際に高い殺菌効果があります。


現代でも日本では、温泉や公衆浴場の殺菌に、実際に銀イオンが使われているそうです。


上記のような魔除けの効果と共に、こうした殺菌効果もまた当時の人々の間では経験的に知られ、だからこそ「魔の世界からもたらされる、見えざる未知の脅威」=病の原因となる細菌・雑菌を抑え込む力として、「銀の武器」が有効であるという伝説が生まれた――そう考えるのは飛躍的でしょうか?


 * * *


もうひとつ、これはもう少しオカルト寄りの話題。


2ちゃんねるのオカルト版で語られたストーリーに、香水の匂いをきっかけとして幽霊が生前の記憶を呼び覚ますというものがあります。


そうでなくても、「匂い」というのは不定形である分、潜在意識に訴えかける力が強いようです。


土の湿った匂いから子供のころの公園の情景を思い出す、といった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか?



こうしたことから、実は「幽霊」という存在自体が、「匂い」によって呼び起される幻覚であるという考え方もあります。


例えば事故現場に染みついた、わずかな血、そして死の匂い――意識することは出来なくても、それが潜在意識に訴えかけ、記憶の底の「幽霊の噂」を刺激して幻覚を見せる――



仮説にすぎない話ではありますが、だとすれば殺菌効果、消臭効果に優れた銀が、魔除けとして珍重されたのもうなずける話です。




そうなると――


除菌・消臭に優れたファブリーズが、除霊に有効なのは、当然だと言えるのではないでしょうか?

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