第2話 変色した日常

「翔(かける)ー。朝ご飯が冷めるから早く食べに降りて来なさーい。」

俺の唯一の楽しみをことごとく邪魔する母の声だ。

(ホントにウザイ。)

その声が聞こえると歓声の中心に居るアスラの目の前に、ゲームのメニューのような物が宙に浮いた状態で現れた。

メニュー内にあるカーソルかログアウトに移動、決定すると、アスラと周りの景色がバラバラとめくれていく。

めくれた先に見えて来たのは、学習机、ベッド、マンガかぎっしり詰まった本棚とどこにでもある中学生の部屋と水城翔という15歳の少年だった。

アスラとは、翔が操作するゲーム内の存在に過ぎなかった。

 翔はスマホのゲームアプリを閉じると嫌々な雰囲気全開で部屋を出た。

階段を降りると、出来たての朝食が置いてあった。

この時は、それが当たり前だと思っていた。

何かを言われるのかと身構えていたが母は奥で洗濯をしていた。何かを言う気配はなく翔は安堵して席に着いた。

続いて父が降りて来ると席に付き淡々と朝食を食べだした。

そんな父の様子に苛立ち、翔はお腹が減っているにも関わらず朝食を口に運ぶ意欲が無くなってしまった。

そうこうしているうちに洗濯を終えた母が席に付き、朝食を食べだした。

俺と父が朝食を口に運ばなくても母は何も言わない。

朝がバタバタしていて大変で口を開けないのではなく開かないんだ。

毎日こういう時間を感じなくてはいけない苦痛に耐えられなくなって来て居た。

抗う事を辞め俺は朝食を食べた。


 これが始まるきっかけは俺がまだ幼稚園に通ってる時期に父がギャンブルや風俗に行き始めた事だった。

50万くらいの借金をしては遊び歩き、父の両親に泣き寝入りで借金を返済するという事を繰り返すようになった。

何が不満だったのかわからないが良い行ないとは言えない。

段々と会話は無くなっていき、両親は俺に対しても必要最低限の言葉しか発さなくなっていった。

しかし俺の母はこんな奴に良く我慢しているものだ。

俺なら即離婚だ。

(何が良くて一緒に居るのやら・・・)

しかし、そんないい加減な関係はいつまでも続く訳はなかった。

 父が3000万の借金をしたのだ。

内容は同じギャンブルと女だった。

父の両親にそれだけを払う力は流石に無く、いつもの泣き寝入りは失敗。

父は途方に暮れていた。

俺の母はそんな父を何とも言えない表情で見ていた。

しばらくすると俺の家は見た事もないような人が出入りするようになった。

恐らくは法律の専門家と借金取りの人だろう。

借金の判明から半月で自己破産と離婚、そして俺は母に引き取られる事が確定した。

家を出ないといけない為、ダンボールの山、タンス裏のカビと埃、閑散とした家の中に何とも言えない感情が湧き上がっていた。

 

 そういう経緯を経て現在に至る。

もうすぐ終わりを迎える家族とは異様そのものだし、凄く腹立たしい。

無法地帯なら父の頭をバットでフルスイングしたかもしれない。

こんな会話の無い家は牢獄だと思ってしまう。

 この朝食タイムで言葉を1番最初に発したのは父だった。

「翔、学校にはまだ行かないのか?」

家族をバラバラにした奴に説教をされている気分に苛立ちを隠せなかった。

そう感じた俺はただ一言、「うるさい!」と言って部屋に急いで戻ってベッドに座った。

強い憤りに満ちている状態だが発した事は予想と違った。

 『登校拒否』はそれだけ俺にとって大きな事柄だからかもしれない。

それをわざわざ言うとは本当にウザイ父親だ。

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