⑪行方

貴女と情愛。何度も恋。息を切って止まぬながれかえしてみるに撒ける風。大路を端に渡る後髪うしろがみ。心惹かれて目離れず。優なる一線、諦め入らず。我が身狭しと立往生。いまと、いまかと歩み抜けるに、留まるところを知らぬまま。脇の草木が揺れるにつれ、遠くに凝らすなお強く。その恋し姿、散る孤独の砂利に同じ。やがて消えになる時に思い、胸が締め上げられるよう。一刻一刻の重さゆえ、雲も移るを抑えつつ。若し此れ虚ならば、内に解きたるいかがなる。享楽及ぶといえども、全くと甲斐の無きこと。若し世を知らぬ幼子ならば、せめて地を駆け一目合うまで。人目を横に、君を見つめし限りに尽きる。そのよう夢見る未だ少女おとめを了せず者、我なり。名残しさにて、しばし更けているうちに、火輪かりん暮れるをふと悟り、慌てて実家へ帰途につく。道中鈴の聞こえ、晩秋の肌覚える。住まい入りて、今日こんにちのこと思い巡らす。君は何にりてたいそう美しいのか。貴女は何の故に我を惑わすのか。貧しき我が焦がれるは、君である本意を許すか。たとい御仏拒むとも、恋路は断たれるはずも得ずを。

我が百合の花咲き乱れんこと積もる雪のごとし。ゆりんゆりんと舞い降りる暖かな結晶は綺麗なかたち。君のお熱に我が心身溶けたし。溶けたし融けたし解けたし、愛を遂げたし。花粉、其の雌花に触れんこと祈る。


宅のもとに帰りて、下の履物脱するところ、心配りたる母君急ぎて、「かくしていかなる所以あるか。何故なにゆえ何故なにゆえ」と問い質すに、我、「果てなき尊き愛ずる方に、恋焦がれたるばかりなるぞ」と胸を押して、桃色の着物をなびかせつつ、さのような御返事を渡す。母君思さざるこころにあるか、一歩奥に足を引きて、おもてに苦きものを浮かばせなされども、良薬口に苦しと見れば、なかなか滑稽なり。しかれども、うつつには、とても穏やかには映らぬ形相にお見受けられ、心細しと怯えながらも、愛の行方唯忠なるべきことわりと、信じることまた頑なに心決め、神も屈する出で立ちで佇まう。すると母君、我が勇姿に心中敗れ、大人しくその場を立ち去り。我が意、強きの頂き。

さようにして一夜を明ける。

貴女を尾け、御姿に胸焼かれる日々を過ごし。

見入り続けること十年余り。


或る日、貴女が籍を入れるあらまし、人づてに聞きたり。

噂を迎えるや否や、鼓膜が激しくと震える。

嗚呼。嗚呼。

十余年の経年が甦り、我を感ぜさす。

心の内が収めること能わず、泪は袖に重く集う。

我、悲しきかな。我、望まざるかな。我、妬ましきかな。

我、我、我。


しかれど我、貴女を想う。

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