1作品に妹は1人まででお願いします。

ちびまるフォイ

そんなに妹が欲しいかぁ!

「お兄ちゃん、だーいすき!」

「お兄ちゃん、いつまで寝てるの?」

「お兄ちゃんのえっち! ばか! へんたい!」


妹量産工場は今日も妹の声がこだましている。

今日は工場見学があるので小学生がものめずらしそうにレーンを眺めている。


「こうしてレーンに妹の素体が運ばれてくるから、

 レーンわきの機械でどんどん整形していくんだよ」


「この機械はなんですか?」


「これは兄依存を植え付ける機械だよ。

 妹である以上兄を好きじゃないといけないからね。

 兄が好きじゃない妹は妹どこから人ですらなくなるよ」


「こっちはなにー?」


「それはモテ度調整器だね。妹たるものモテなくちゃいけない」


「どうしてー?」


「ライトノベルにおける妹は主人公の別ステータスみたいなものなんだ。

 妹がモテることで"こんな妹に好かれている俺カコイイ"になれるから」


「そうなんだーー」


「あの、どうして最後のレーンは分岐してるの?」


小学生はレーンの最後尾で、レーンが枝分かれしているのを指さした。


「ああ、あれは妹の差分化だよ」


「どうして分けちゃうの? 1つの方がいっぱいつくれるじゃん」


「毎回作中に出てくる妹が同じだったらつまらないだろう?

 最後のレーンで乳のサイズから、体の大きさまで差分化してるんだよ」


「「「そうなんだーー」」」


小学生たちは妹工場の見学を終えて去っていった。

これで今日の大仕事は終わったとひと段落するはずだった。


部下が慌てて入って来て、ささやかな願いはぶち壊された。


「部長! 大変です! 大量出荷が入りました!!」


「大量出荷!? なんでまた急に! 1作品1妹のはずだろう?」


「それが、今連載中のラノベで妹を分裂させて増やす……みたいな描写を追加するので

 大量の妹が必要になったんです!!」


「くそっ……! なんて悪しきハーレム文化……!

 急げ!! 従業員をたたき起こしてレーンを最速化させろ!!」


部長の命により従業員はフル動員されてレーンにならんだ。

それまで回転ずしのようにゆっくりだったレーンが加速する。



「急いで妹を作れ!! 次の話まで間に合わせるんだ!!」



機械だけでなく人の手も使って工場はフルパワーで量産をはじめる。


「部長! また妹が増え続ける描写が追加されました!!」


「なにぃ!? これじゃ間に合わないぞ!?」


どんなに急いでも今はこれが限界。

とても小説で消費される妹をまかないきれない。


いったいどうすれば。


追い詰められたそのとき、小学生のひとことが頭をよぎった。



"1つの方がいっぱいつくれるじゃん"



「それだ!! おい!! レーンを1つに統合しろ!!」


部長はそれまで枝分かれしていたレーンを最終的に1つへと統合させた。

流れてくる妹は最終的に同じレーンで合体させられる。


「よし!! レーンの速度アップ!! 急げ!!」


レーンをまとめたことで作業効率がぐんと上がった。

全員が一丸となって妹の量産に全力をそそいだ。



「ま、間に合った!!!」



ついに、小説の更新に妹発注を間に合わせることができた。


「部長、やりましたね」


「ああ、それもこれも子供たちのおかげだよ。

 妹を1つに統合すればこその功績だ」


妹量産工場はその日の業務を静かに終えた。






翌日、ラノベ作者からは苦情の電話が入った。


「おい!! 妹が来たけど、なんだよこれ!?

 全部の妹が統合されてキメラ化してんじゃねぇか!!!」


「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」

「オニイチャンオニイチャン」


こわいよ。

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