短編集

迷子 七瀬

結婚記念日


 会社へ向かう前に受けとる弁当袋にはこっそりと、手紙が入っていた。


 外側にはあなたへとだけ。中身を確認すれば、みっともなくも涙が流れてくる。


『拝啓 あなたへ

遂に今年で十五年目の結婚記念日を迎えましたね。長くも短くも感じ共にあった時間はかけがえのないものでした。


息が詰まるような経験も致しました。あなたの存在がとても苦しくなる時もあったけれど、今がとても夢のように幸せです。


あなたと私。歳を取り少しだけ太ったあなたのまるみのある顔がとても愛おしい。

これからも二人で歩んで参りましょう。


愛しています』



 つらつらと書き綴られたラブレターには、苦難と共に幸福を共にしたパートナーへの愛が伝わってくる。


 短い文には普段口にする性分の相手ではないため、これを書くときはどんな気持ちだったのか、よく見れば手書きの文字は少しだけ歪んでいるではないか。文字を指で辿ればまた涙が浮かんでくる。



 あぁ、今日は早く帰ろう。早く帰っては共にふくよかになった身体を抱き締めたい。

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