生徒会のススメ。

@shino_nanjo

生徒会を作ろう

「生徒会を作りましょう!」


「これが生徒会じゃなきゃなんなんですか」


 もはやこの辺は慣れた対応である。


 おそらく勢いよく立ち上がり机を叩いて仁王立ちしてるであろう会長を一瞥もせず僕は黙々と手を動かす。


桜小路 泡姫(さくらこうじありえる)

大家 公人(おおやきみと)


 と、


黙々と僕は書類に二つの名前を書き込み続ける。


 会長のサインを僕が書き込むってのもおかしな話だと思うがそうでもしなきゃ終わらない。


 そもそもあいつ手伝う気ない、いや手伝うって表現もおかしいけれど。

 これ二人でやる仕事だからな。


 しかし泡姫会長は目も向けない僕の態度、あるいは気の無い返事はたまたその両方が気に入らなかったのか


「そう言うこっちゃないのよーーー!!!」


 と、咆哮した。


 職員室のある棟や文化部の部活棟から離れた場所に位置するこの生徒会室から放たれた咆哮は誰もいない校舎に響き渡った。


 うるせぇ。


 そもそも声質の関係なのか普通に話してるだけでも声通ってうるさいんだよこいつ。

 なんでいつもこんな大声で話してんだよ。


 しかし泡姫会長はそんな僕の様子に気づきもせず気にも止めず自らの持論を展開していく。


「わかる!?私が言いたいのは──」


「ああもう名前書き込むだけなんですからやってくださいよ、と言うかやれよ」


 イラっとしたので遮ってやった。


 しかし彼女はめげない。


「そうそれよ!私の言いたいことを先回りするなんてさすが副会長ね!」


 なんともめでたい頭だ。

 泡姫会長は再び机を叩くと喧しい声を上げる。

 要約すれば二つの耳障りな音を立てた。


「それってこんな単純作業したくないってことですか?」


「違うわ!全くこんな簡単なこともわかんないな──うわ!ちょっと!人に消しゴム投げると危ないでしょ!」


 手が滑った。


 しかしそんな僕の苛立ちなんて知ってか知らずかと言うか知らない知る気もないんだろうけれど会長は


「部活動の予算!こんな重大な仕事が単純作業で終わってもいいの!?いや、よくない!」


 などと最近古文で習った文法を活用しながら親指と人差し指だけ立てたままこっちに腕を突き出した。


 なんかズビシッとか音しそう。

 なんか写真の撮影してんのかなこいつ。



 今現在僕たちがしてるのは各部活動の予算案の編成だ。


 とはいえ、基本的にはどの部活動も去年と同額を申請してきてるし必要な器具や道具などを買い揃える必要性がある部活動だけ常識の範囲内で増額を求めて申請してきてる。


 だから形だけと言え承認の証として僕達の署名をしているのだ、ひたすら。


 桜小路泡姫とか画数多いんだよ大家公人見習え。


 しかし、泡姫会長はこの仕事が気にくわないらしい。


 彼女は熱望して生徒会に入った。

 一年にして生徒会長の座についてると言う事実こそが何よりの証明だ。


 『内申点がもらえるから』なんて理由で生徒会役員に志願した役員はこの生徒会に一人しか居ないのだ。

 もっとも僕と会長の二人っきりの生徒会だけれど。


 正義を標榜し仁愛を尽くし大志を抱く清廉潔白な彼女は学校を良くするために生徒会長になったらしい。


 曰く『より良い青春にはより良い土壌が必要だ』

 曰く『生徒の代表生徒会長としてその土壌作りが出来るのは私だ』

 曰く『だって私すごいから!』


 若干片鱗が出てるがその大言壮語の甲斐もあってか彼女は見事生徒会長に当選した。

 ちなみに僕は他に候補者がいなかったので信任投票で無事副会長になれた。


 それが大体二週間前のこと。

 なんかの調整だなんだとかで結局生徒会発足はその一週間後、今から見れば一週間前だった。


 彼女の顔と名前くらいは知ってたけれどまあクラスも違うしわざわざ他のクラスの女の子を特に用も無いのに尋ねる、なんてことは僕にはできなかった。


 ま、生徒会もあるしな、と。


 だからそんな彼女との出会いはほんの一週間前、同じ一年生だと言うのに敬語を使ってしまうのも彼女の身から敬うべき尊いオーラが滲み出てるからだろうか?


「こんなの全っ然面白くないのよ!」


 はたまた精神的に距離を置きたいからだろうか?


 勘違いして欲しくはないが正義を標榜する彼女の志は事実だ。

 無私の献身、計り知れない真心、なるほど立派な人格者だ。


 一週間という決して長い期間では無いけれどそれでも彼女の人となりは凡そは理解したつもりだ。


 初対面の時はその揺蕩う長い赤髪(校則違反)に視線を奪われたものだ。


 生徒会発足のその日生徒会室に赴けば先に来ていた彼女が窓べりに佇んで僕を待っていた。


 校舎の三階に位置するこの部屋にはちょうど夕陽が差し込んでその赤い髪は夕陽によってさらに赤く染め上げられていた。

 その髪は燃え盛る彼女の正義の心を体現しているように真っ赤に、しかし静かに燃えていた。


 束の間呼吸をするのも忘れて見入ってしまったものだ。


 そんな僕に彼女は口を薄く開いてこう言った。



『初めまして副会長、いや公人と呼ばせてもらおうかしら?』


『公人、公正な人、公な人、ハムスターみたいな人、いい名前ね親に感謝なさい』


『初めまして私がこの学校の王よ』



 百年の恋も冷めるって奴だ。

 少なくとも初対面で『私が王よ』などと言われれば幻想も脆くも崩れ去る。


 彼女は確かに立派な人格者で尊敬するべき人間だけれど頭悪い子だった。


 最初はそんな彼女の鬱陶しいくらいのつきまといにいちいち『え?』とか『そうなんですか!』とか言いながら対応して疲れたものだ。


 クラス違うから知らないけど絶対友達居ないと思う、そう言えばこの間もこの生徒会室で──いや彼女の名誉のためにやめておこう。


 そんな公明正大で幼稚な彼女の提案と言えば非常に手間のかかる面倒臭いことかはたまた何も考えてない後処理に追われる面倒くさいことかの二択だ。


 ルートは違えど到着地点は一緒だ。


 だから今回も、


「今必要なのは革新よ!新たな一歩を踏み出すべきなのよ!」



 面倒くさ、と僕は誰に言うともなく呟いた。

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