かぐや姫異伝〜本当にあった五つの宝〜
皐月あやめ
友人の死
友の
何も知らない俺は、泊まりがけで出かけていた
「そう嫌がるなって。帰ったら
「はあ……あれ、旦那ぁ、屋敷に使いがおりますよ」
窓から顔を出してみれば、うちの前にその友人の家の文使いが裸足で立っている。俺の牛車を見つけると、全速力で駆けてくるので、思わず笑った。
「なんだ。考えることは同じかよ。こちらから送る手間が省けた」
しかし、使いが
麿足が死んだ。
すぐには理解できず、タチの悪いたくらみや冗談であってほしいと思ったが、あの真面目な父君がそんなことに協力するはずがなかった。麿足とて、そのような不謹慎な
家に帰るのはやめ、牛車を麿足の家に向かわせる。先ほどまでは愉快ですらあった牛の歩みののろさがもどかしく、
「結婚したい人ができた」と言っていた。
いい年をして奥手でめそめそして、恋がなかなか上手くいかないアイツが初めて本気になったと聞いた時は、複雑だった。恋が上手くできない者として同志のように思っていたのに。それでも、友人を祝福する気持ちは無くはない。会えばその女の話ばかりでも、我慢して聞いた。俺も普段、麿足の興味を引かぬような弓矢や蹴鞠の話ばかりしているのだから、こんな時期くらいはなんでも聞いてやろうと思ったのだ。
ただ、恋にうつつを抜かす者にありがちなことで、しょっちゅうその女の元に通うようになって、俺と遊ぶ回数が減ったのはつまらなかった。
もう半年以上、麿足と蹴鞠してない。
麿足の屋敷に着くと、取次役の下男も振り払って大股で上がりこんだ。こちとら脚力には自信があるんだよ。
「麿足は!」
大声を出すと、父君が……坊主頭になった父君が真っ赤に腫れた目を隠そうともせずこちらに近づいてきた。
「ああ中将殿。息子は既に
「なんでまた急に。数日前までピンピンしていたじゃあないですか。意味がわからないことはしていたけど」
惚れた女からの注文で「
俺の言葉を聞くと、父君がめそめそと泣き出した。泣いている顔はアイツにそっくりだった。
「その意味がわからぬことが原因で死んだのです」
「はあ?」
信じられなかった。父君の口から語られたのは、あり得なさすぎてもはや恐るべき事件だった。
燕の子安貝を求めていた麿足は、家人だけに捜索させるのがもどかしくなり、ついに自ら燕の巣を確認しに登るようになった。その方法というのが、カゴに入り、井戸のつるべの要領で家人に引っ張り上げさせるというやり方だったのだが、それが災いした。その日、アイツは子安貝らしきものを掴んだと言って騒ぎ、慌てた家人が誤って綱を離してしまった。それで運悪く鉄の
「これがその糞です。愚息が、
父君は、半紙に包んだ燕の糞を俺に差し出して、よよと泣き出した。
それにしても、俺がいないうちに勝手に死んだことはもちろんだが、許せないのは最期の手紙を送ったのが、あのかぐや姫だということだ。そんな薄情な女なんかにじゃなく、友人に送ってくれたらいいじゃないか。そうしたら、鞠なんて遠くに蹴っ飛ばして、駆けつけたのに。
ふつふつと怒りが湧いてきて、涙を流すどころじゃ無くなったので、父君に礼をしてすぐ、家に帰った。それからすぐに宮中にいる事情通に文をやって、返事を待つ間にこれからのことを考えることにした。庭の大きな石に腰掛けて、月を眺める。麿足がこの世にいないのなんてお構いなしに、月の野郎は今日も美しい。こんな夜には、麿足の笛の音が欲しいのに。もうずっと聞いていないぞ愚か者。
憎たらしいことに、例のかぐや姫とかいう女には、毎日のように笛を聞かせていたらしい。
その女のどこにそこまでの、命を賭けるほどの魅力があったというのだろう。あまり興味がなくて、麿足から聞いた話も断片的にしか覚えていない。
「……そうだ」
ふと、思い立って声が出た。
「あの女の顔を見てやろう」
親友が死ぬほど恋焦がれた女の顔が見たい。
それは俺にとって、悶々として
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます