酔っ払い


最終電車に乗り、座席に座り目を閉じ数秒後、斜め前のシルバーシルバートを、占有し、寝転んでいた酔っ払いが、突然ムクッと起き上がり、『オェ〜ゲホッ〜』っと、勢いよく吐瀉物を撒き散らし、辺りに、異臭が立ち込めた。すると、隣りの席にいた、品の良い着物を着た白髪の老婆が、ハンドバッグから、ハンカチを取り出し、席を立ち、酔っ払いのもとへ歩みより、『大丈夫?これで口をお拭きなさい』と優しく酔っ払いにハンカチを差し出した。酔っ払いは、ダダをこねる子供の様に手足をバタつかせ『ウルセーババァ〜』と老婆を罵倒し、手を払いのけた。それでも、老婆は、再度歩みより、男の顔の前にしゃがみ、どうやら、男の口を拭いてやっている様子だった。はじめは、大騒ぎして、手足をバタつかせていた酔っ払いも、老婆の優しさに心を打たれたようで、借りてきた猫のように大人しくなった。老婆が立ち上がり、男の顔の前からどいて、男の顔が見えた時、私は驚愕した…男の口と、目は、真っ赤な糸でキッチリ縫い付けられ、鼻の穴から大量の吐瀉物をドロドロと垂れ流しながら、男は痙攣し、やがて息絶えた。

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