水の器
春野きいろ
水の器
菫色の傘の中、前を歩く二人を見ていた。大きくなったらお嫁においで。そんな言葉を信じ続けるほど、もう小さい子供じゃない。
だけどいつか追いつこうって、ずっと頑張っていたの。来年は中学生になるんだよ、お兄ちゃん。
隣の家のドアを開けて、二人が玄関に入って行く。紫陽花の蔭から、それを見ていた。学名は水の器だって教えてくれたけど、それは今の私の瞳だ。
今、ドアを開けて、嘘つきって叫びたい。
水の器 春野きいろ @tanpopo
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