ボクらの輪郭

白月霞

01:手記

 これは単なる物語である。と、いったくらいの軽い気兼ねで、この手記を読んでほしい。事実、大した文書ではないし(けれど、これから僕が綴ろうとしていることは、全て本音のことである)最初の最初に、小説、物語、おとぎ話、空想と銘打って書き記しておいたほうが、後になって都合よくごまかしが効く。誰かに追求されたとしても、前述のようにうそぶいてしまえば……そう、まさしくとかげの尻尾切りだ、僕らには何の傷がつかないのだ。

 

 僕はずるい人間だね。

 そうさ、僕らは臆病な性質なのだ。言葉で人を欺くことに長けていて、ずっとずっと昔からうまいこと心を隠してきた。差し障りのない人間を装って生活してきたのだ。それが僕らの生き方、正しい常人として生きるため心と身に染み付いた術なのである。いいや、性(サガ)、と言っても過言じゃないだろう。

 そんな、こすっからい歪な感情をいつまでの抱えたままだから、今もなお手痛いツケを払い続けていることになっているのだがね。人を欺いているようで、実のところ本当に欺いているのは、自分自身であったのだから。


***


 僕はいま、神奈川県のH市にある実家の自室でこの手記を、文章を書いている。執筆の道具はワープロのエディタではなく、文字通り紙とペンを使って書いている。(なお推敲とデータ上げはエディタを使用する)しかも、現代で時代錯誤として扱われている四〇〇字詰めの原稿用紙と万年筆という組み合わせだ。時折、使用材に変化はあれど、だいたい3年くらい手書きのスタイルを愛好している。

 ものを書いている時が一番落ち着くのだ。自分の考えを外に吐き出す行為に僕らは生の実感とでも言おうか、安定感を得ている。自分が自分でいられる一時なのである。


 今回僕がこの手記を書いた目的は、ある発作を治療するためにある。さきほども書いた通り、僕らは人前で本心を隠し続ける性格の持ち主だ。自分自身を欺き続けてしまい、やがて内面にブレが生じてしまったのだ。そして嫌な発作が現れるようになった……それらの詳しいことは追って説明していこうと思う。なにせ、僕らは気ままに書くことは好きだが、情報をまとめて上手に伝えることは苦手なのだ。いつだって文章は内向きで、閉鎖的で、とても人が見れたようなものじゃない。雑記、メモの山々にすぎないんだ。

 とかく、僕が僕であることを、紙に記述することで『自身の認識』を強め、悩める発作の根源を突き止める思考のキーワードを炙り出そうという魂胆なのである。


 この続きはまた、明日書こう。

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