僕は龍だ。人じゃない

ちきん

第1話

 2086年地球、人類は進化し、様々な種族が誕生した。

 それは、昔伝説とされていた生き物の姿をしたものから全く新しい種族の誕生……。人々の進化は絶え間なく続いていった。

 昔の地球ではありえなかったことだが、今では人魚や半魚人、天使のような見た目をした人種も数多く存在している。

 この人類の進化により、余りにも一部が特化した者が増えたため、それぞれが得意な分野を生かし、社会に貢献する点については昔と比べてかなり向上したといえる。


 だが、デメリットというのもやはり存在し、種族間での差別などが昔と比べて一層酷くなったというデータも存在している。

 特に、種族の中で異端な存在が生まれたときなど、なおさらだ。これは昔の人類からも言えることだが、人という生き物は自分のできないことをできる相手に対し、自分とは違う存在……違う生き物として見てしまう傾向が少なからずある。


 それが今まで差別をなくすことができなかった根本的な原因であり、今の差別化社会をつくっている原因でもある。


 因みに、龍という存在を知っているだろうか。

 ……そう、強靭な鱗に覆われた、爬虫類型の巨大な生物。空想上の生き物だ。

 今まで人類は爬虫類型の鱗を持つ種族はいたが、それに加え強靭なやいば、鋭く尖った角、巨大な翼を持った者は1人としていなかった。

 そう、今までは……だ。


「僕なんか産まれなきゃよかったって、何度思ったことやら」


 拳から冷気を放ち、地面を瞬く間に氷で覆う。そして、振り上げた脚でそれを蹴り潰した。

 僕の親はごく普通の氷妖精族の血族であり、今の僕が行ったように、氷を操るのがとても得意だった。

 そんな親を持つ僕だが、突然変異により翼、角、そして尻尾が生えている。極め付けは腕と尻尾を覆っている暗い青色をした鱗だ。


 こんな見た目のせいか昔から悪魔だの鬼だの罵られてきた僕だけど、別に僕を産んだ親を恨んでなんかいない。逆に親の方は僕のことを気味が悪いと避けてるみたいだけどさ。


「それで……とうとう追い出された……ってわけ」


 僕は近くにいた小鳥のそう話しかける。話しかけたところで通じるわけないのだが、話しかける相手がいないのだから仕方がない。


 最近大雨が続いていたせいか、地面にできていた水たまりを覗き込む。

 そこには鱗と同じ暗い青色をした髪をした少年が無表情で僕を見つめていた。

 見つめている瞳の瞳孔は、まるで昼間の猫のように縦に細長く、口から覗く犬歯が今にも襲いかかってきそうだ。


 まあ、このような見た目をしている僕だけど、育ちは氷妖精族と何ら変わらない。そのせいか、氷の扱いはわかるけど背中の翼で空を飛んだことはないし、鋭く尖った角で何かを突き刺したこともない。


「まあ、これだけ大きな翼なんだ。練習すれば飛べるだろうけど……」


 だけど、僕はこの翼、角……自分の見た目が大嫌いだ。親を恨んでいないとは言ったが、自分を恨んでいないとは言っていない。

 こんな翼今にでも引きちぎってしまいたい。

 人は空を飛ぶことを夢見てたみたいだけど、そんなこと僕はこれっぽっちも思わない。


 ……そんな中、森の奥で鳥たちがざわめく。


 振り向いた僕はそのままその方向へ一歩近づく。

 あの方向は、工学技術が発達している都市に繋がっている街の方角だっけ。

 

 その瞬間、僕の目の前で大きな爆発が起きる。爆風が辺りを跡形もなく消し飛ばし、近くにあった樹木たちは見るも無残な姿へと変貌してしまっていた。


 僕は空を見上げる。

 

「飛行機なんて初めて見たな……」


 飛んできた方向は僕がさっき見ていた大きな都市がある方向、恐らくそこから飛んできたのだろう。

 そして狙っているのも恐らく僕。


「そういや僕が村を出たのって……今日だったっけ」


 今度は2発、上空から僕めがけてミサイルが落ちてきた。

 もう、別に死んだっていい。

 どうせ生きてたって楽しい思い出なんかつくれないんだから。


 ……でも、最期くらい僕のこと、人間として扱ってくれたっていいのに。


 

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