失われた日常

閉店神社

第1話 君の名は。

「―きて、ねえ起きて!」

 

 耳元で声が聞こえる。どうやら僕を起こしに来たらしい。まだ寝ていたい僕は毛布を被って丸くなった。


「ン~…あと10分」

「何言ってるのよ…早く起・き・て!」


 僕の背中を毛布越しにゆっさゆっさと揺さぶってくる。


 起きたくない、起きたくないんだ。まだこの至福の時間を堪能していたい。僕は再び瞼を閉じる。ああ…これ二度寝ってやつだ、最高だ。


 僕はそのまま布団を頭まで被り、幸せに浸っていると―


「起きろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

ゴスッ!!


「ぶべらっ!?」

 

突然の大声とほぼ同時にお腹あたりに激痛が走った。おおい!!肘かこれ!?くそ痛いんですけど!!肘入れてきた!?二回言っちゃったよ!!


「何するんだよ!!」

 

 僕は飛び起き、殴ってきた相手と目線を合わせる。彼女はじっとこちらを見つめて口を開き、


「あ、起きた」

「あ、起きたじゃないわ!危うく死ぬところだったぞ!」


 朝からとても疲れてしまった…。




 


「朝ごはん作ってるから早く着替えて来てね!」


 そう言って彼女はすたたたと階段を降りて行ってしまった。朝から騒がしいなぁ…。


「………さて」


 僕は重い腰を上げてベッドから立ち上がり、着替えを始める。いつものように服を脱ぎズボンを脱いでそれをたたみ、制服を着ている途中にあることに気づいてしまう。


 は誰だ……?


 

 本当に誰なんだ?何者なんだ?僕はあの女の子のことを全く知らない。

  

 ああ、そうか…これは夢だ、夢を見ているんだ。昨日は少し寝るの遅かったしそのせいだ。好きな漫画家の作品を一巻から最新刊まで一気読みしたのがよくなかったのだろう。


 そうと分かれば安心して一日を過ごそう!今はもう夢から覚めているはずだから家にいるのは僕一人!!


 そう言い聞かせ一階へ降りる。そしていつものようにリビングのドアを開ける。


「おお、春人おはようっ!!」


 今度は青年が台所から元気よく挨拶をしてきた。朝ごはんを作っているのだろうか手にはフライパンを持っている。


 ――――裸エプロン姿で。


 僕は無言のままドアを閉める。そして、


「寝るか…」


 僕は全力ダッシュで自室へと逃げ込みしゃがみ込む。


「なんだあれなんだあれなんだあれ」

 

 ガタガタと身体が震えている。あの男は誰だ!?なんで裸エプロンなんだ!?怖い!!!あんな爽やかな笑顔の裸エプロンの男なんて初めて見たよ!!?ああ、神様どうか、夢から覚まさせてください!!


「神様、お願いします!!!」


 僕は無我夢中で神頼みをした。すると―


「呼んだ?」

 

 背後から年を取った男性の声が聞こえたが怖くて振り返ることができない。だって僕しかいないのに他の人の声が聞こえて来たのだから。黙ってるわけにもいかないので後ろを向いたまま質問をする。


「か、神様ですか?」

「神様じゃよ」


 神様だった。


「えっとあの神様ですか…?」

「あの神様じゃよ」

 

 あの神様だった。どの神様なのかは知らないけど。


「怖がらなくていい…こちらへ顔を向けるがよい」


 神様は優しい声色で話しかけてくる。僕はなんて馬鹿なのだろう。あんなに怖がってしまったのに神様は怒ることなく優しく接してくださっている。


 もう怖がるのはやめだ。神様に助けを求めよう!僕は恐れを捨て思い切り神様のいる方向に顔を向けた。


「やっとこちらを見てくれたのぉ…」


神様は笑顔で僕を見ていた。ああ、なんてことだ……これが神様。なんていうか…その…。


―――めっちゃ禿げてるっ!!

                              ~続く…のかな~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

失われた日常 閉店神社 @pennmonn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ