出席番号9番「小和刈穂乃香」

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 赤巻紙、青巻紙、黄巻紙。隣の客はよく柿食う客だ。東京特許許可局。

 机に肘をついて、口元を手で隠しながら、小和刈穂乃香こわがりほのかは誰にも聞こえない程度のささやき声で早口言葉の練習をしていた。特に理由は無い。授業が退屈だったのだ。


 ――こんな時、周りの席に友達がいたら手紙の送りあいとかしてクスクスキャーキャーできるのにな……。


 気弱な性格で、休み時間も寝たふりをして過ごすような小和刈にとって、それは憧れの光景だった。

 三学年に上がって一月程が経ったけれど、数少ない仲良しの友達は皆別のクラスで、小和刈はまだクラスに馴染めていなかった。

 先程の昼食も、校舎の横にあるタブノキの木陰に一人座り、黙々と食べた。近くに同じクラスの子が一人いたけれど、なにやらしゃがみこんで、夢中になって草をむしっていたので話しかける勇気がなかった。


 ――ああ、友達欲しいなあ……。


 ふと気持ちが落ち込んだ小和刈は気を取り直すように一度頭を小さく振って、また口をモゴモゴと動かした。バスガス爆発、バスガス爆発、バスガス――。


 ビチチッ! ドスン!


 突然の衝撃に小和刈はビクリと体を硬直させた。隣の席の男子が立ち上がったかと思ったら、いきなり大きな音を立てて派手に転んだのだ。すぐ横にその男子の倒れた体がある。机もガタガタと揺れた。

 生徒の視線が一斉に転んだ男子へと向く。近くにいた小和刈はその視線に巻き込まれる形になって、恥ずかしくて体を縮こまらせた。


 衝撃を受けたのはそれだけじゃなかった。

 男子が倒れる直前に小和刈は確かに聞いた。まるで絞ったホースの口からゼリーが飛び出してくるような音。あれはまさか……、まさか……。


「爆発……!」


 小和刈は混乱した頭のせいで、先の早口言葉の続きをつい口走ってしまった。

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