第7話 最後の仲間
「それにしてもすごいね! そんな大剣を、あんなに軽々と!」
センはザザ民のザガンに興味津々で話しかける。ソーカサスにも多くのザザ民が商売をしていたり、行商に来たりしているが、直接話すのは初めてだった。
「ははは、まあな。ちょうど王都の鍛冶屋に注文していた剣を取りにいってたんだが、まさかいきなり使う事になるとはな」
そう言ってザガンはまだ真新しい大剣の柄をセンに見せた。
「あれって殺し屋だろ? あんたら、誰かに狙われているのか?」
そして、倒した刺客をチラリと見て訊いた。
「それは……カラル」
センはカラルを見上げる。
カラルは内心ではまだ警戒していた。
ゴーレムを三体も生み出せる程の刺客がいきなり現れた事、そして、そんな相手を軽々と倒す剣士が都合良く現れた事。だが、疑う一方、試練の旅は出会いの旅でもある。そう思うと、判断に迷うカラルだった。
「セン様にお任せします」
だからセンにそう答える。
「うん……実はボク、この国の王の候補者なんだ」
センはザガンに向き直り、正直に話した。
「へえええ……え? って事は王子様!?」
ザガンは驚きの声を上げる。
「王族ではあるけど、王になれる事は決まっていないから、あくまで王候補者。まだ何者でもない存在だよ」
「王候補者?」
「そうなんだ、それで……実は今、王の資格を得るための、試練を受けに行く道中なんだ」
「王の試練か? 噂には聞いていたが、ソーカサスは大国なのに本当にそんな事をやるんだな」
「うん……それで……あの……」
そこで言葉を止めて、センは話しにくそうにモジモジする。
「ん?」
「ザガンにお願いがあります」
センは姿勢を正して、ザガンを真っ直ぐ見つめる。
「なんだ?」
「ボクの……仲間になってもらえませんか?」
「仲間ぁ? オレがぁ?」
ザガンは声の調子を外して驚きの声を上げた。
「うん、今回の刺客は他の候補者からだと思うし、これから先、試練の道中にモンスターと戦う事にもなるんだ。だから、ザガンのような強い剣士が仲間になってくれたら……」
センは伺うように上目遣いにザガンを見上げた。
「なるほど……しかし王子様の旅に同行者が二人ってのは、どういう事なんだ?」
少し眉をしかめて、カラルとクートを眺めた。
「そういう条件なのです。身近な部下は一人のみ、他は旅の途中で探さないといけない。それも仲間は合計三人まで、それが試練の条件です」
センに代わってカラルが説明した。
「おいおい、マジかよ? そんなんじゃ、王子様が危険じゃないか」
「はい、この試練では毎回何人もの王候補者がその命を失っています。でも、神獣という大きな力でこの国を守る為には、必要な儀式なのです」
「神獣か……この国の守りの要だもんな」
神獣に守られた大国ソーカサスの事は、大陸全土に知れ渡っている。始王ジオ以来、何度も他国の大軍に脅かされたが、その都度神獣の力を借りて撃退してきた。そして国力を増やし、大陸でも五指に入る大国へと成長したのだった。
「王の試練は、国を、国民を守る為にやるべき王族の使命です」
センは王族らしく、責任感のある真っ直ぐな瞳でザガンを見つめている。
「やれやれ、ソーカサスの王族は大変だな。でもまあ……報酬、期待していいんだろ?」
ザガンはニコッと笑ってセンを見る。
「もちろんです! ボクが王になれれば、ザガンが一生裕福に暮らしていけるだけのお礼をするよっ!」
「そいつぁ魅力だな。いいぜ、仲間になってやるよ」
「やったあっ!」
センは飛び上がって喜ぶ。だがカラルは、内心穏やかではない。こんな異国の……いや、国もない流浪の民の、それも得体のしれない傭兵を雇うなんて。
確かにザガンの強さは魅力だった。剣による戦闘能力だけなら、クートにひけを取らないかもしれない。しかし、他国民、それも祖国を持たない流浪の傭兵など信用をおけない。
だけど……他の候補者から命を狙われているとわかった以上、ザガン以上に力があり、尚かつ信頼も……少なくともあれほどの手練れを捨て駒にするはずもなく、その刺客を倒したザガンは敵対候補者との繋がりはないだろうと考えた。
「仲間も増えた事だし、暗くなる前にとっとと村に行こうぜ」
クートの言葉に全員が頷いた。センは興味津々という顔をザガンを見ていたが、カラルはセンの肩を抱いて引き寄せて、ザガンから距離を空けるのだった。
そして空がオレンジ色に染まる頃、一行は村に到着した。
王都と北部最初の大きな街ザカードの中間にある村で、二つの街を行き来する者がよく利用する村だ。食堂や宿屋も多く、夕刻の時間でもまだ人の往来が多い。セン達は大きな宿屋に部屋をとり、そのまま宿屋の一階にあるレストランに入ると、奥の席に腰を掛けた。
沢山のランプに照らされた明るい店内には、商人、護衛、旅行者など、ソーカサスの首都を目指す、あるいは首都から帰る者で賑わっていた。王の試練を受けているセンに気づく者はいなかったが、見た目の派手なザガンは周りの人の注目を集めていた。
「なあ、ザガンさんよ」
注文した料理を待ちながら、クートがザガンに話しかけた。
「呼び捨てでいいよ、オレもあんたをクートと呼ぶから」
「ああ、ザガン、大剣もそうだが、その衣装もちょっと大げさじゃないか?」
クートがそう言うと、センとカラルがザガンの全身を見てうなずいた。浅黒い肌に、目元にはザザの民を示す黒い羽の様な三本線の紋様。普通の成人男性より高いクートよりさらに高い、細身の長身だけでも目立つのに、その全身は黒い革鎧で固めている。ドラゴンの爪のように指先まである手甲も黒く、おまけに身長と同じくらい大きな剣を持っている。
「あんたほどの腕があるなら、そこまで派手な格好をしなくてもいいだろ?」
「そうでもないさ。祖国を持たないザザの民はあまり信用がないから、いい仕事にはつけないからな」
「はは、なるほど」
「それに、このほうが格好いいだろ?」
「えっ、そのような理由で、全身を黒鎧にしておられるのですか?」
カラルは赤い瞳を丸くしてザガンに訊いた。
「かあああ、これだから女はなー、なぁ? セン王子」
「え? うん、そうだよ、見た目は大事だよ」
「セン様まで……」
「さすが男の子、セン王子はわかってるねー」
ザガンは嬉しそうにセンに笑いかける。センも笑顔で応えた。
「はぁ……」
カラルは手でこめかみを押さえ、ため息をつく。
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