「ひよくれんり」に

飴乃 -いの-

第1話 花園苺華は出会う

帰り道。今日は雨です。

友人と傘をさしながらとぼとぼと歩きます。


「あ、苺華いちか、私こっちだー!」

「はい。りっちゃん。では、また明日」

軽く頭を下げる。

「もう遅いからなー!気を付けて帰るんだぞー!何かあったら私に連絡しなさい!」

「でも、そんな暇ないかも知れませんよ?」

「それじゃあ逃げるか助けを求めろ!んじゃ!ばいちゃ!」

「はい。」

りっちゃんが豪快に手を振ってくるので私も軽く振り返します。


見えなくなるまで、私はりっちゃんを見送り、歩き出す。

時間を確認する。

《18:10》

あら、結構遅めの時間。


私は早足で家へ向かう。

途中、家の前の公園に人がいるような気がして立ち止まった。


「??」

気になります。


園内に入る。すると…


「っ…!!!」

人が倒れているではありませんかっ…!!

びしょ濡れではありませんかっ…!!!

これは、大事件ですっ!

「大丈夫ですか…!?」

声をかけてみるも、返事はない。

スマホを取り出す。

「きゅ、救急車……!…んん………!?」

突如後ろから口を塞がれた。

「んー……!?」

スマホも取られた。

「はーい。だめだめ。助けはもう来ないよー」

どうやら後ろには男がいるようだ。


いや、ここ、住宅街ですけどね。

頑張れば呼べそうですけどね。


というか、なんなんですかねこの人ー!

「何、キミ、そいつの知り合い?」

男は私の目の前で倒れている人を指す。

「んーん」

首を振って素直に答える。

「えー。じゃぁなんなのー。もしかして、お節介さんかな。」

男は笑う。私は黙る。


雨に濡れる。


男は一人で何か喋っている。

家は目前。この人の気を反らせれば。いや、でもそうなると、倒れている人が更に犠牲に…


ぴく…


「…!」

驚いた事は男にバレていないらしい。

それよりも、倒れてる人、今、動きました…!

「い…った………」

倒れている人は声を発すとゆっくりと起き上がった。

目が合う。

「……ん…」「……は?」

タイミングが一緒で少し笑いそう…。


「は!?おま、は!?」

後ろの男が騒ぐ。


起き上がった人はその人に目もくれず、しゃがんで私に話しかける。

「花園…?こんなとこで何してんの……」

いや、それ、私のセリフですかね、はい…!

「んーっ…!」

というか、誰ですかね…!


「あー…」

起き上がった人は私の後ろの人を見て納得したような顔をする。

「お前、俺に飽きたら女かよ。…弱すぎ。」

「はぁ…!?」

「んっ……!」

男の手に力が入る。

挑発しないでくださいよ…!


「花園。」

私は声を出す代わりに目を合わせた。

「目ぇ閉じてたほがいかも。」

あ、、、はい、、、。

私はぎゅっと目を瞑る。


がっ!「ぐっ…!」


衝撃が私にも伝わる。たぶん、蹴ったのだろう。

男の手が私から離れる。

ほっとして、スマホと傘を取る。

「警察に連絡しておきますね。」

手早く連絡を済ませる。


「相変わらず冷静だな…」

起き上がった人が言う。

「てか、物騒だな…家まで送るよ。」

あなたも冷静ですね。


いやいや、待ってくださいよ。

「誰、ですか…」


「「…………………。」」


沈黙が痛い。

やっぱり知り合いなんですかね…。

お互い何も発さずにいると起き上がった人が沈黙を破った。

「や、知らないなら、い、や……」

「はい…え……!?」

再び倒れました…!ど、どうしましょう…!

なんかこのまま警察とかに渡したら危なそうだし…。怪我してるし…。


そういえば、家、今日は誰もいなかったはず。


そう思い、家に連れていくことにした。





「ふわ…は………」

疲れました……。

距離はさほどないのだが、お、重たかった…。

さすがは男子…。おそるべし…。


と、とりあえず、タオルー…!!!

と、着替えっ…!!!


持ってきたけど、どうしましょう…。

それに、ここ、玄関ですし…。

考えた挙句、…頭拭きましょう。となった。


「膝に頭置けば、痛くはない、ですよね…」


準備は整いました。

では、いざ…!

優しめに、しましょう…加減、加減ですよ…。

手に髪の毛が当たる。少し乾き始めているところもあった。

「意外と、猫っ毛なんですね…」

くせっ毛とかかなと思っていたので、これなら絡まりにくいですね。


よし!終わりました!

でも、これからどうしましょうか…。

「うーむ……」


パシ。

「はい…!?」

私が唸っていると、少々煩かったのか、目を覚まし、私の手を取った。


「…に、この状況……。花園の膝枕とか……」

急に喋り出したので驚いた。

「濡れたまま、倒れていたので…。私の家に運びました……」

俯いて私は言う。

「ごめん…。俺、帰るよ。」

立ち上がる。

「ま、待ってください…!」

私は咄嗟に袖を掴んで引き止める。

「風邪、ひいてしまうので、お風呂使ってください…!」

「や…それ、まずくない……?」

何がまずいのか全くわからない。

「大丈夫です…!今日は家に私一人なので…!!」

「帰る…」

手が袖から離れる。

「ま、待ってくださいよっ…!!」

私は負けじと再度袖を取る。

「ゆ、夕飯、作りますから…。ひ、とり、嫌なんですよ………」

少しだけ泣きそうになる。

「……じゃあ、少しだけ…」

今思うととても危ないんだと思う。

知らない人を家に入れて一緒にご飯とか。

でも、私は、一人が嫌だったから。

だから、少しだけ、と言われたときは嬉しかったんだ。





お風呂から出た彼に、夕飯中に質問をいくつかしようと考えていた私は今だと思った。

ちなみに今晩の夕飯はパパッと作れるカレーにしましたよ。

「お名前、お伺いしても宜しいですか…?」

「中森郁南」

「なかもりいなみくん………」

復唱する。何故か初めて聞いたような気がしなかったからだ。

「学校は、同じ、だよね…」

「ん……」

うん。学校は同じ。うん…。

「学年は…」

「高1。」

同じかーい。

「クラスは………」

「あーっと、花園は?」

何故か質問を質問で返された。

「私はA組です…」

「それじゃ、俺もAだわ。」

一緒かーい。って、


「え…!?」


いやいやいや。まてまてまて。いない。絶対にいない。

いや、いるのかな、や、でも…。

「たぶん、花園は知らないと思うよ。」

私が困惑していると中森くんは口を開いた。

「俺、謹慎中。」

「あ……。」

お察しです。


「それでは、中森くんは…」

「郁南でいいよ。」

男子を名前呼び…ハードルが…っ!

意を決します…。

「い、郁南くんは…」

「くす…はい。」

笑われたぁっ…!?

「いつから学校へ……!!?」

ヤケになりました。

「うん。来週の月曜かな。」

「あ、そうなんですか。」

「うん。」


「「…………。」」


沈黙。

「ご馳走様。」

「あ、お粗末さまでした…。」

「美味しかったです。ありがとう。」

郁南くんは優しく微笑みながら言う。

私は、この人は別に悪い人ではないのではないかと思った。


見送ろうと玄関まで行く。

「それじゃ。」

「あ、はい。」

郁南くんが玄関のドアを開ける。すると、


ザァァァァァァァァァァ…!!!!!

ビュービュー…!!


「うわぁ…。」(わぁ…。)

郁南くんは声に出しましたね。

「これ、帰れなくないですか…」

「いや、でも、これ以上迷惑はかけらんねぇから。帰る。」

「空き部屋あるんですけど、使いますか?」

やはり私は唐突だなぁ。

「ベッドありますし。つ、使ってないとは言ってもしっかりと掃除はしてあるので…!」

迷惑かなと思って俯く。


「いいの…?本当に…?」

予想外の反応で驚いた。


その後もう1度中に招き入れ、部屋を案内した。

それが終わってから私は寝る準備をした。

お風呂に入り、歯磨きをして、自室へ向かう。

隣の部屋に人がいると思うと落ち着けなくて寝ることがままならなかったので、別のことを考えながら寝ることにした。


今日は忙しい1日だった。でも、楽しかったから、いっか。

明日も、良い1日でありますように。


そう、願った。

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