森の大気は湿りを帯びている。荒れた足下にはシダが生い茂り、山道に疲れた自分たちの荒い息が耳につく。

「なぁ、いつになったら村に出るんだ」

「道は合っているんだ。予想より時間がかかっているからといって愚痴ばかり言うな」

 先行するリーダー格の男は、疲れの色を抑えて淡々と答える。わたしは額の汗を手の甲でぬぐって深く息を吸う。酸素が足りない。こんなことなら日頃から鍛えておくのだったと思うが、自分が筋トレに励むところは想像できない。

 真昼ではあるが、枝葉に遮られて陽の光はほとんど届かない。にもかかわらず気温は高く、纏いつくような高湿度だ。水を飲みたかったが、わずかでも歩く速度を落とせば置いてけぼりを食いそうだった。

 しばらくすれば休憩があるはずだ。それまでに倒れるようなことにはなるまい。草木に浸食されそうな細い道は、いっこうに先が見えなかった。

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