いつか、彼女の助けとなりますように
まりる*まりら
いつか、彼女の助けとなりますように
春。
舞い散る桜の中に、僕は彼女を見る。
あれから長い時間が過ぎた。
僕はあのころと同じだろうか。
少しでも、彼女に近づくことができただろうか。
それとも、遠く離れてしまっただろうか。
普段は忘れている感情が、桜の花の季節だけよみがえる。
感情。
胸が痛むわけではない。
それほど親しかったなら、どんなに良かっただろう。
もっと彼女と話すべきだった。彼女に近づくべきだった。
そうしたら、こんなやるせない気持ちにもならないで済んだのに。
そう。
僕は後悔している。
桜の下で、一年に一度だけの、後悔。
晴山雅志は、高校を卒業してから、既に八回の転職を経験していた。彼の年齢が二十五歳であることを考えれば、これは多い方だろう。
もっとも、今の会社に入るのは三回目になる。最初は正社員で三年半勤めた。二度目は契約社員で半年。現在はアルバイトで二カ月目だった。
部署が違うと仕事はまったく違う。しかし会社の雰囲気や人間関係がわかっていると、初めての職場のような嫌な緊張感がない。
晴山が三度この会社に戻ってきたのも、その気安さのせいだった。が、新鮮さは瞬く間になくなる。あるのはマンネリばかり。気が遠くなってもできるような単純作業に、彼は早くも転職を考え始めていた。
そんな春の、ある日だった。
晴山の勤める会社は、猥雑な繁華街のはずれにあった。雑居ビルや古いマンションなど中層の建物が多い、これといった特徴のない場所だった。
駅までは、繁華街を抜けて五百メートルほど。歩けば十分足らずの距離だ。
しかしこの季節、晴山は決まって遠回りをする。ほんの少し足を伸ばせば、大きな公園がある。この辺りでは桜のスポットとして少しは知られている。
少し日が長くなり始めた夕方。
会社帰りの人々が、ゆっくりと歩きながら駅に向かう。空いているベンチはない。誰もが思い思いに時間と空間を満喫している。
空は藍色に染まっている。
晴山は公園を取り巻くようにある桜並木の歩道を行かず、その内側に広がる石畳の広場を歩いていた。
広場の中心にはそれほど大きくはないが噴水があり、水音が聞こえる。
桜の向こうから、ピンクのやわらかい光が届き、晴山の足元に薄い影を作った。太陽と人工の光が違和感なく交じり合う時間。
風向きの加減で、広場にも花びらが舞ってくる。
晴山は何も考えずにぐるぐると歩いた。
高校の頃の思い出がつぎつぎと脳裏に浮かび、晴山の意識をその時代へと連れ戻す。
その思い出に浸るため、晴山はわざわざ遠回りをするのだ。
晴山が二度やめた仕事を三度始めたのは、この桜のせいかもしれない。晴山にとって、桜は特別な花だった。心の奥底の記憶とつながる、大切な花。
晴山は一息ついて、広場を取巻く手すりにもたれかかった。
空はもう、暗い。
ライトアップされた桜が、白く浮かんでいる。
立木ノア。
クラスメイトの中で一番最初に彼女に会ったのは自分だった、と晴山は今でも密かに自慢に思っている。
それは、あと十日で新学年が始まる春休みのことだった。
晴山は忘れ物をしたことを思い出し、学校へ続く長い坂道を登っていた。
新学期が始まってからではきまりが悪い。彼がわざわざ休みの日に出てきた理由は、それだけだった。
坂道は丘を取り巻いて、ゆるくカーブしている。両側に桜の木が続いていた。
学校は丘の上にある。丘全体が学校の敷地だった。この道は学校へ行く者にしか用はない。
真っ白な花びらを踏んで、晴山は歩いた。
いつもと同じ道なのに、明るく感じるのが不思議だった。
途中では誰にも会わなかった。
校門をくぐる。
と、右手の来客用エントランスに人影があった。
晴山がそちらを向いたちょうどそのとき。
風が沸き上がった。
丘の下から、吹き上げられてくる大量の、桜の、白い花びら。
風は校舎にぶつかる。花びらは壁に沿うように、降りてくる。
風と風がぶつかる。
花びらは進むべき方向を失い、空中を乱舞した。
晴山はうつむく。片目を閉じた。
花が視界を邪魔する。
目に入ったのは。
長い髪。揺れるスカート。
晴山は、息を止めた。
ノアだった。
彼女は全身に風を受けていた。心地よさそうに目を細めて。
花びらのように、白い肌だった。細い脚も。長い髪を押さえる腕も。
ノアは晴山に気がつくと、悠然と微笑んだ。
悠然、としか形容ができなかった。
夢でもおかしくない。現実離れした光景。
いつの間にか、風はやんでいた。
静寂の中。
花びらが一片。
そして、また、一片。
足元に舞い降りる花びらをぼんやり目で追っているうちに、彼女の姿は消えていた。
翌日も、晴山の足は公園へ向いた。
繁華街は人通りが多く気ぜわしい。東の空に月が小さく浮かんでいたが、控え目すぎて気付く者は少ない。
公園付近まで来ると、雑踏はいくらか解消される。
公園の中は拍子抜けするほど人が少なかった。広場を囲う手すりに沿って数人。それぞれ適当な距離をおいて、ぼんやりを時を過ごしている。
中央の噴水の辺りにも一組の男女が立っていたが、晴山は半ば意識的にそれを無視した。ここ数年、彼は特定の女性との付き合いがない。しあわせそうなカップルを見て、いい気分にはなれなかった。
晴山は、ゆっくりと広場を巡った。ほぼ一周して、手すりにもたれ掛かる。
ポケットに手をやるが、禁煙すると誓ったことを思い出した。
視界の隅に影を感じて、晴山は顔を上げる。風に乗った花びらが数枚、目の前を横切った。
その向こうに、長いスカート。
晴山の心臓が、かすかに音を立てる。桜と長いスカートだけで、こんなに反応するほど思い出に浸りきっていたことで思わず苦笑がもれる。
それはさきほど噴水の辺りにいたカップルの片割れだと気がつく。
近づくにつれて光があたり、鮮明になる、白い肌。長い髪が、後ろでゆったりと束ねてある。
しかし、それは。
彼女だ。
まさか。
晴山の心臓が、今度は息苦しいほどにリズムを刻む。
ノアは彼の横を通り過ぎようとした。晴山には気が付いていない。
「……ノア?」
小さな声に、彼女の足が止まった。
振り向く。
けげんそうな顔。
晴山は彼女の前に立った。手が震えているような気がしたので、ポケットに突っ込んだ。
「あの、立木ノアさん、じゃないですか?」
控えめに問いかけたが、本当は確信している。
彼女は、眉をひそめてうなずいた。栗色の大きな瞳が、晴山を映している。
晴山は大きく息を吸った。
「あの、俺、高校のときの、」
「ああ、待って」
ノアはやっと笑顔を見せた。
「えっと……晴山くん?」
彼女は覚えていた。
「そう! 覚えててくれたんだ。うれしいなあ」
七年の時間が、一気に巻き戻ったようだった。
「あのさ、」
今何をやってるの、と尋ねようとして、晴山は口を閉じた。
少し離れたところに人がいた。
小柄な男だった。思いつめた暗い顔。視線は、まっすぐノアに向いている。
さっきまで広場の中央でノアと一緒に立っていたのは、この男だ。晴山にとって、やはり七年は遠いようだ。
「あ……もしかして俺、間が悪かった、かな」
そう言って、一歩下がる。
晴山を頂点として、二等辺三角形ができた。
しかし、男は何も言わなかった。
「いいの。彼とは、もう話すことはないのよ」
口を開いたのは、ノアだった。
「それよりも、ねえ、晴山くん。時間あったら、食事でも、どう?」
場違いのように明るく、弾んだ声だった。
晴山は驚いた。彼女は、こんなことを言う人だったか? こんなふうに話す人だっただろうか?
そして、晴山の驚きはさらに増す。
ノアが、彼の腕に手を掛けたのだ。
「え、え?」
彼女は晴山の右腕に体を寄せている。
「あの、でも……」
耳まで真っ赤に染まった晴山は、男に目をやった。
それまで、瞬きもせずにノアを見つめていた男が、目線をそらす。
踵を返して、彼は歩き出した。肩を落として。光の届く所から離れ、すぐに影だけになってしまう。
ノアは身じろぎもせず、じっと見ていた。晴山が隣にいることを、完全に失念している。
晴山はそれに気が付く。そっと彼女から離れた。
「あ、ごめんなさい」
我に返って、ノアが言う。控えめな柔らかい声。晴山の記憶にある彼女と同じだった。
彼女は変わっていない。晴山はほっとした。しかし、少し残念に思ったのも事実だ。右腕にはノアのぬくもりがある。
晴山が覚えている彼女は、いつも物静かだった。大きな声を聞いたことはない。笑うときも、彼女は控えめに微笑むだけだった。
ノアが教室にやってきたのは、三年生が始まってから一カ月もたっていた。
先生に連れられ彼女が教室に入ってきたとき、晴山は一生分の春がやってきたと思った。新学期が始まれば彼女に会えるかも、という淡い期待をあきらめたころだったのだ。
しかし、それは晴山だけではなかった。
騒がしかった教室が、しんとなる。みんなが、彼女に見入っていた。
ノアは、それまで病気がちでほとんど学校に通うことができなかった。大きな瞳に青白い顔、痩せた体。病気のせいなのだろうが、それはきれいだった。触れると壊れるのではないかという、儚いものをいとおしむ感情なのかもしれない。
ノアの父親は外国人で、両親は外国にいる、と先生が話した。彼女は祖父と住んでいた。
静かに話すノアの声を、みんな黙って聞いていた。
ノアは不思議だった。彼女自身は消えてしまいそうなほどに控え目なのに、注目しないではいられない。
そうして、彼女は自然にクラスの中心となった。
「ごめんなさい。私、もう行かないと……」
つい先ほどの、明るく積極的な彼女はもういない。
男の影も完全に消えてしまった。
「ああ、うん」
淡い光で、ノアの揺れる髪が輝いていた。
晴山は慌てて言った。
「この辺で仕事してるの? また、会えるかな?」
ノアは答えず、片手を少し上げた。
「バイバイ、晴山くん」
ノアは、笑って、そう言った。
話はほとんどできなかった。また会えるかどうかもわからない。それでも、腕に残る微かなぬくもりで、確かに春を感じていた。
翌日。
晴山が起きたのは、もう仕事の始まる時間だった。
彼は寝起きの声を体調のせいにして、職場に電話を入れた。この何年かで、ずる休みに罪悪感を抱くこともなくなった。
仕事は誰にでもできる単純作業だ。代わりの誰かがやるかもしれないし、やらないかもしれない。どちらにしろ、なんとなくうまく仕事は回っていくだろう。
晴山は布団の上に引っくり返った。昨夜の事を思い出しているうちに、顔がほころんでくる。そうこうしているうちに寝てしまい、次に起きたときは、もう二時を過ぎていた。
いつもの晴山なら、不毛な一日に後悔ばかりを覚えるのだが、この日は違う。ただコンビニに食料を買いに行くのに、服を選んでみたりしているのだ。
コンビニから戻ると、晴山はアパートの前で声をかけられた。
「晴山さん、今日はお休みなのね?」
隣の敷地に住んでいる大家の奥さんだった。
「あ、どうも、こんにちは。ちょっと、体調が悪くて」
晴山は、具合が悪いにしては明るい声で返事をした。大家の奥さんに対して後ろめたいことがあるはずもないのに、妙に礼儀正しくなってしまう。上司や警官に対するのと、心境は同じだ。
「そう。一人暮らしだと、いろいろねえ、不摂生してるんでしょ」
「はあ、まあ……」
晴山は愛想笑いを浮かべる。
「それがね、」
と、彼女は身を乗り出してくる。
長くなったら嫌だな、どうやって逃げようか、と晴山は思ったが、奥さんは話し相手を見つけて生き生きしている。
「今朝から、ちょっとおかしな人がいてね。気になってるのよ」
奥さんは眉間に皺を寄せて、小声で話した。近所で井戸端会議をやるときも、いつもこんな具合だ。
「晴山さん、気が付かなかった?」
「いえ、僕は全然……」
昼前くらいまで通りを行き来するのを何度も見かけたが、今はもういないということだ。
しかし、奥さんは気になることを言う。
「晴山さんの部屋をね、じっと見てたのよ、その男の人」
アパートは通りから奥にのびていて、一階に二部屋、二階に二部屋しかない。晴山が住んでいるのは通り側の二階だ。別の部屋と間違えようはない。
部屋探しをしている可能性もなくはないが、どちらかというと、積極的に住みたい環境ではない。なにしろ古いし、駅が近いわけでもなく、すぐ隣に住む大家はなんやかんやと理由をつけては頻繁にたずねてきて話し込んでいく。家賃が安く、古い建物なので部屋が少し広いことだけがメリットのようなものだ。
「いえね、晴山さんはしっかりなさってるから大丈夫な人だと思ってますよ。そこは心配してないの。ええと、もう三年?四年?になるんだったかしら。あらいやだ、早いわねえ」
奥さんの話は脱線しそうだ。晴山は買い物があるからといって、動こうとした。
「あら、調子が悪いならお薬は? うちにあるのでよければ」
「いえ、それは大丈夫です。ほんと、ありがとうございます」
何度も頭を下げながら、振り返ってまた頭を下げて、ようやくその場を離れた。
きっと、晴山に話したことの十倍の内容が、近所で囁かれたに違いない。
そっちの方が気持ち悪い、と身に覚えのない晴山は思った。
次の日、晴山は真面目に仕事に出た。真面目に仕事をして、定時に退社する。
彼の足は、迷うことなく公園へ向かった。
少し雲のある空は、いつもより暗い。
桜はかなり散っていた。歩道が白い。行く人々はみんな、その花びらを踏みつけて歩いた。
晴山は広場に出る。
天気が良くないわりには、人が多かった。
一周して、あの記念すべき場所で、彼は手すりに腰掛ける。
煙草に火をつける。禁煙したつもりだったが、なぜかポケットに入っていたのだ。
煙は、彼女が去っていった方角に流れていく。
晴山はただぼうっとして、煙の行方を追っていた。
そこへ、男が近寄ってきた。
「……すいませんが」
晴山は顔を上げなかった。声を掛けられたのが自分だとわかるまでに、少し間があった。
男は困った顔で、もう一度口を開く。
「あの、すいません」
ようやく晴山は顔を上げた。
男が知っている顔だと気が付くまで、また少しの時間がかかる。
「ああ、あのときの」
驚いた。
あの日、ノアと一緒にいた、暗い目の男だった。トーンの低い声も暗い。年齢は三十前後に見えた。
「……どうも。良いかな」
「はい……」
何が良いのかわからなかったが、晴山が答えると、彼は隣の手すりに腰掛けた。
しばらく二人は黙って座っていた。
煙草が短くなる。晴山は足でもみ消すと、すぐに二本目をくわえた。
男に差し出したが、彼は右手を立てて断った。
そこでやっと、男は口を開いた。
「彼女のことなんだけど……」
随分話しにくそうだった。それはそうだろう、と晴山は思う。あの場面では、彼がノアに振られたのだとしか思えない。そこへなぜか晴山が登場した。そして、彼はやはりノアのことが忘れられないのだ。その気持ちは、よくわかる。
「彼女とつきあってるの?」
「違いますよ」
晴山は即座に否定する。素直に信じてもらえるとは思っていなかった。どうやって説明しようか、と続きを考える。
しかし男は、見ていてわかるほどに肩の力が抜けていき、ほっとした表情になった。
「そうか……」
反対に、晴山が戸惑う。そんなに簡単に信じていいのか、と。
「あの、俺、彼女とは、ただの高校の同級生なんですよ、ホントに」
きかれてもいないのに、彼は話した。
「ホント、久しぶりに会ったんですよ。もうびっくり。七年ぶりかなー」
男はぼんやりと足元を見ていた。聞いていなかったのかもしれない。
晴山はわからなくなった。彼は振られたのだとばかり思っていたけど、そうではないのかもしれない。ただちょっと意見のすれ違いをしていただけなのかもしれない。そんな考えが、すごい勢いで頭の中を巡る。
男は、本田悟といった。
本田は言った。
「場所変えて、少し話せませんか?」
晴山は意外に思ったが、ためらわなかった。本田は、今のところノアとの唯一のつながりだ。これを手繰っていけばノアに通じるかもしれない。本田がノアの現役の恋人かもしれないことは、ひとまず置いておく。
道すがら、本田は恐縮しながら言った。
「実は、おとといの夜、君の後をつけて行ったんだ。ごめん。悪かったと思ってる」
大家の奥さんが目撃したのも、本田だったのだろう。
晴山は言った。
「別に、僕は迷惑してませんから。でも、近所では評判になったかも……」
本田が選んだのは、路地の奥、小さな赤いネオンの店だった。
薄暗い店内。ハードロック系の洋楽が流れている。入ってすぐ右にカウンターがあり、奥へ延びていた。棚にはバーボンの瓶がずらりと並んで、照明を反射している。
奥にはテーブル席がいくつかあり、本田は慣れた様子で一番隅に陣取った。
晴山はきょろきょろと店内を見回した。彼は安い居酒屋と、先輩に連れられて行ったカラオケバー以外で酒を飲んだことはない。
「ここ、本田さんの、行き付けですか?」
言いながら、晴山は取りそこねてテーブルに転がったピーナッツを慌てて拾う。
「まあ時々。ここ、落ち着くから」
店内は二十人は入れる広さだったが、晴山と本田を含めても、客は五人しかいなかった。BGMはハードな曲調にわりにボリュームが落としてあって、会話に支障はない。
騒がしくないが、静かすぎもしない。確かに居心地は悪くなかった。
木目調の壁にアメコミのピンナップが貼られ、古い模型の飛行機が天井からぶら下がって揺れていた。かしこまった感じはしない。店員はカウンターの中でてきぱきと作業をしている。店内の観察を一通り終えたころには、晴山も少しはリラックスできるようになっていた。
二人はほとんど会話のないまま、一杯目のグラスを空にした。
アルコールに強くない晴山は二杯目からはセーブするつもりだった。
しかし、本田のピッチは早い。
「ノアが、いなくなった」
いきなりだった。
「えっ?」
「昨日の夜、彼女の部屋に行ったんだ。そうしたらもう、いなくなってた」
晴山は思考がついていかない。
本田は構わずに話し続ける。
「誰も、行き先を知らない。それにノアのことさえ、誰も知らない」
「ちょっと、待って」
晴山は本田を制する。
「なにがなんだか……どういうことですか?」
本田はグラスの中味を一気にあおった。そして今朝までのことを話し始めた。
本田は、前々日の夜、晴山の住居を突き止めたあとで、ノアに電話をした。しかし、携帯電話はコールさえしなかった。
仕方のないことだ、と彼は思った。
公園での話は、やはり別れ話だったのだ。
あのとき一方的に終わりを告げて、ノアは立ち去ろうとした。そこへ、晴山が声をかけた。
頭が真っ白になっていた本田は、単純に、ノアが晴山を好きになったのだと思った。
納得がいかなかった。
三年以上もつきあった仲だった。結婚のことも真剣に考えていた。目指している有名ブランドのメーカーに入ることができたら、ノアにプロポーズをする。周りのみんなにそう宣言して、懸命に勉強した。
そして、夢は実現したのだ。
しかし、ノアが消えた。別れの言葉を一言残して。
本田は心変わりの理由を、どうしても知りたかった。そうしなければ、あきらめることさえもできない。
次の日になり、本田は気持ちが定まらないままに晴山のアパート周辺をうろついたあとで、またノアに電話をしたが繋がらない。次にノアの職場に電話をしてみた。
そこで、彼女は退職した、と聞かされた。
人は何度でも驚ける。そのことが驚きだ、と本田は真面目な顔をして言う。
しかし、仕事もあって彼がマンションのノアの部屋に行けたのは夜になってからだった。しかし反応がない。人がいる気配もなかった。不審がる管理人に声をかけられ説明をしたが、ついさっき引越のトラックが出て行った、と面倒くさそうに言われた。愕然となる。
電話は、ずっと通じない。
本田はあきらめきれず、今朝は同じマンションの住人にたずねて回ったが、誰も彼女のことを知らないと言う。隣に住む女性とは、本田自身も何度か顔をあわせていて挨拶もしていた。顔を覚えられていたはずだ。だからノアを知らないはずはないのだ。
それなのに、誰もが声をそろえて「知らない」という。
本田は何がなんだかわからなくなった。
どうして自分は振られたのか。
どうして、ノアはいなくなったのか。
どうして、ノアを知っているはずの人が、知らないと言うのか。
混乱したまま、公園へやって来たのだ。晴山が、そこへ現れた。
何杯ものグラスを空けて、混乱している本田の話は終わった。
晴山は困った。
彼は、別れた彼女をあきらめられない男なのだ。近所の住人が「知らない」というのは、本田がストーカーではないかと怪しんでいるのだろう。
それ以上のことではないように思える。しかし、本田の気持ちはよくわかる。「きっぱり忘れて、もっと良い彼女を見つければいいじゃないか」などとは、決して言えない。
なぜなら、それがノアのことだからだ。
彼女を忘れられないことは、誰よりもわかっている。まして、本田とノアの付き合いは、晴山などよりもずっと深い。
晴山は、本田に親近感を抱き始めていた。
ノアのために本田は努力して自分を高めた。簡単なことではなかっただろう。今、本田の努力は正当な評価を受けている。
また晴山は、振られても簡単にあきらめない彼をうらやましく思った。勇気があれば、自分だってもっとノアに近づけたはずだ、という思いが湧いてくる。
……ノアに会いたい……もう一度、チャンスがあるならば……何のチャンスだろう。ノアを恋人にするチャンス? 本田がノアと寄りを戻すチャンス……?
いつの間にか本田のペースに乗せられるように飲んでしまった。酔いの中では、思考は意味もなく回り続けるだけだ。
本田がどれほど飲んだのか、おそらく誰もカウントしていないだろう。途中からは、暇をもてあました店の主人も一緒になってグラスを重ね始めた。
晴山には、後半の記憶がまるでない。
目が覚めたのはアパートの自分の部屋だ。窓の外は既に明るい。
隅の方で本田が横になっている。
おぼろげながらタクシーに乗った記憶が蘇るが、晴山は金を払った覚えがない。財布の中は、一円も減っていなかった。
時計は十時を回っていた。
晴山は片手で頭を抱えて、もう片手で胃をおさえ、冷蔵庫までよろよろと移動した。冷えたペットボトルの水があって助かった。
一息つくと、テーブルの上にアルバムが広がっているのに気がついた。本田に見せたのだろうが、記憶には残っていない。
高校の卒業アルバム。
ノアがいた。集合写真でも、彼女は一番に目に入ってくる。
晴山は自分を探した。自分ですら探さなければ見つからなかった。
行事の写真にもノアは大きく写っていた。文化祭のメインイベントだった仮装コンテスト。晴山のクラスは女子の指導の下、白雪姫の仮装をした。みんな、どうやったらノアが一番きれいに見えるか、と考えていた。
あのときクラスは一つになっていた。誰もがわくわくして、準備に励んだ。日頃話さない者どうしでも盛り上がった。
日が傾きはじめると、グラウンドの真ん中に組まれた櫓に火がつけられた。
晴山たちのクラスが出るころ、太陽はもうすぐ沈みそうだった。黄金色の光が、真横からスポットライトのようにあたった。
ノアが浮かび上がった。
一瞬、グラウンドは静けさに包まれた。その後に上がる、どよめき。興奮と感嘆の声。
あれは本物だった。思い出すだけでも鳥肌が立ってくる。
白雪姫は王女だ。七人の小人と家来を従えて、王子さえ虜にする。
晴山には、ノアが本物の気高い王女に見えた。
本田が起きてきた。
「あれ、晴山くんのうちか。ごめん。だいぶ酔ってたみたいだな」
本田はすっきりとした顔をしている。酒は残っていないようだ。
「……本田さん、強いんですね」
晴山は頭痛がするし自分の息が酒臭くて気持ち悪い。
「うん、生まれが九州なんだよ、僕」
そう言いながら、本田は晴山が手にしているアルバムに目を止めた。
「それ、高校のときの?」
「ああ、そうです。昨日見せたんですよね、たぶん」
「そうだっけ?」
本田も覚えていなかった。
仮装コンテストの写真を見て、本田は感動した。ノアは、彼にこのアルバムは見せていなかったようだ。
「ちっとも変わらないね、ノアは」
「そうなんですか?」
彼は卒業後の彼女を知らない。ついこの間、一度会ったきりだ。
晴山の知らないノアを、本田は知っている。あたりまえのことだ。しかし晴山は焦りを感じていた。
高校時代、何人もの男子が彼女に告白した。その噂を聞くたび、晴山は焦った。それと同じ思いを、再びすることになろうとは思ってもいなかった。
「ノアは、特別だね。普通、卒業アルバムで、こんなふうには載せないだろう?」
本田はまだ写真に見入っている。
「……ええ、そうですよね」
そのページは、ノアの写っている写真だけが、群を抜いて大きい。
複雑な表情を浮かべて、本田が言う。
「そういえば、僕は、ノアの写真を一回もとっていないよ。今まで、そんなこと気にも止めなかった」
「え、ないんですか?」
本田は、唇を一文字にしてうなずいた。
「どうしてだかわからないけど、とろうと思わなかったんだ……」
おかしな恋人たちだった。写真嫌いならば仕方のないことかもしれないが、こうやって卒業アルバムがあるし、ノアの画像データも現像した写真も、晴山のうちには山ほどある。
晴山は、実家にはノアの写真がたくさんあることを本田に言わなかった。せめてものささやかな優越感だ。少し情けない気もするが。
そのかわり、晴山は言った。
「ノアを捜すの、僕も手伝います」
その日は土曜だったが、本田は仕事ではずせない打ち合わせがあるという。仕事を休む、という考えは、今のところ本田にはないようだ。ノアとの結婚をかけて始めた仕事だったから、中途半端なことはできないのだ。
後で連絡する、と言って、彼は慌ただしく出ていった。
晴山は手始めに、卒業者名簿にあるクラスメイトに電話しようと考えた。
ノアと特に仲の良かった女子がいた。晴山は記憶を手繰りながら、名前を見ていく。
すぐに思い出した。長沢響子だ。ノアが来るまでは、男子からの人気は一番だった。男子女子に関係なく誰にでも普通に話しかけて、面倒見がよく、さっぱりした姉御肌。残念ながら、晴山はそれほど話をしたことがない。
晴山は思い切って電話をしてみたが、彼女は家を出ていて、連絡先は教えてもらえなかった。高校の同級生だと名乗っても、信用されなかったようだ。勧誘電話が多いので、家族も用心しているのだろう。
晴山は自分の電話番号を伝えて、連絡をくれるように頼んだ。できることはそれだけだった。
その後、手当たり次第に電話をかけるが、同じように連絡先を教えてもらえなかったり、運良く話せても、ノアに関しての情報は何もなかった。
晴山は憮然として思った。
「みんな結構冷たいな」
しかし自分もそうだったことに思い至る。卒業する前も、卒業してからも、何か特別な行動を起こしたわけではない。
実りにつながりそうな情報が、一つだけあった。
木本茜は目立たない子だった、と晴山は思う。顔がよく思い出せなかった。
しかし彼女は晴山のことを覚えていた。
茜は、ノアとは連絡が途絶えてしまったが、長沢響子とは連絡を取りあっていた。
「ありがとう、助かるよ。長沢さんなら、ノアのこと知ってるかもしれない。木本さん、ホントに感謝」
晴山が言うと、木本茜は笑った。
「晴山くんでも、ちゃんとそういうこと言えるのね。もっと早く知ってれば良かった」
「どういう意味?」
ふふっ、と茜は笑う。
「今からでも、遅くないかしらってこと」
受話器からはくすくす笑う声が漏れていた。
「何?」
「ごめんね、いいの。でもね、」
木本茜は急に口ごもる。
「でも、何?」
「晴山くん、ずっとノアのこと見てたでしょ。ノアしか、目に入ってなかったでしょう? 私、知ってるよ」
茜は何を言おうとしているのか。晴山は首をひねる。
「七年遅かったね。しょうがないか」と言って、木本茜は笑う。
「……そうなのか?」
「長沢さんには、私からも連絡してみるね。ノアのこと、何かわかったら教えて」
「うん、わかった。ありがとう」
約束して、晴山は電話を切る。
木元茜はこんなふうに気軽に話せる人だったか? と思ったが、思い出せなかった。だが、悪い気分ではなかった。
ノア。
最初に彼女のことを「ノア」と呼び始めたのは、長沢響子だった。
ノアが来たその日から、もう二人は仲が良かった。面倒見の良い彼女が、慣れない学校生活をするノアのことを放っておくわけがなかった。また、ノアは世話を焼かれるのを自然な様子で受け入れたから、ぴったりはまったパズルのように二人でいるのが普通になった。
ノア自身も「ノア」と呼び捨てにされることを望んだ。
だからそれはいつかクラスの全員に広がった。本当なら、晴山などは恐れ多くて呼び捨てになんか絶対にできないところだ。
しかし、他のクラスの者は、決して「ノア」と呼ぶことはなかった。彼女と同じクラスである、それは誇らしい証だった。
長沢響子の声は、高校生の頃よりもずっと落ち着いていた。茜と違って、どこかよそよそしい感じのする、完全に大人の女性だったので、晴山は少し緊張した。
彼女も晴山のことを覚えていた。
木本茜もそうだったが、ほとんど話したこともないのにどうして覚えているのか、晴山は不思議でしょうがない。
しかし肝心のことはまるで駄目だった。彼女も何も知らなかったのだ。
晴山は、本田のことを説明した。
「ノアね……」
響子は静かな口調で言う。
「付き合いの良い方じゃなかったでしょう。私、同じ専門学校に行ったけど、プライベートなことって、ほとんど知らないのよ。何も教えてくれなかったから」
意外だった。女の子同士でいろいろ突っ込んだ話もするだろうと、晴山は勝手に想像していた。高校時代、二人はあんなに仲が良かったのに?
「ノアはすごくやさしくて、いい人だったけど、でも、他人を寄せ付けないって言うか、踏み込めなかったな。私たち、仲がいいって言われてたけど、ノアからはメールとか電話とか、一度もないんだよね」
諦めたような突き放したような話し方で、長沢響子はこんな人だったか? と晴山は首をひねる。
「卒業したら、それっきりになっちゃった。私、ノアのことずっと親友だって思ってたけど、そうじゃなかったみたい。なんか、寂しいよね」
「うん、そうか……」
晴山は曖昧に返事をした。何と言っていいか、わからなかった。
いろいろなことが、わからなくなる。
ノアのことはもちろんだが、それ以外のことも。自分が知っていると思っていた世界が、実は違っていたのかもしれない。不安な気持ちがじわじわと燻ぶる。
「晴山くん、もしノアに会えたら、言っておいて。一度くらい、連絡してきてほしいなって……」
彼女は姉御肌でも楽天家でもないのだ。
電話が鳴ったのは、夜更けだった。
本田は、打ち合わせが長引いて何もできなかった、と言った。晴山にも進展はない。その日はもうできることはなかった。
翌日の日曜は、本田がもう一度ノアの住んでいたマンションに行くと言うので、晴山もついて行った。
晴山は自分の目で確かめるまで信じられなかったが、隣の住人は本当にノアのことを覚えていなかった。女性が一人暮らしをしていた、という認識しかない。
おかしな話だった。
マンションの管理人も、名前と女性だったことしか記憶にないと言う。
しかし、彼は一つだけ思い出した。
「そういえば引越しのとき、えらく難しい顔をした年寄りがいたなあ。真っ白な長い髭で、髪も白くて。引越し屋にしてはおかしいと思ったんですけどね」
謎が増えただけだった。
二人はネットを駆使して、このあたりの運送会社に片端から電話をした。管理人の話では、トラックには目立ったマークも何も入っていなかったらしい。メジャーな所ではなく、小さな運送会社を使ったのだろう。
最後の運送屋には本田が電話をした。やがて彼は、ため息とともに電源を切る。
そして、日曜も終わった。
月曜、晴山は仕事を休んだ。
一番最初に入社したとき、彼の欠勤は一度もなかった。それが、何度か職場を変わるうちに、段々と休みが多くなっていった。彼の上司も同僚も、何も言わなかった。晴山には、期待されていないのではないか、という不安が湧いてくる。期待されるはずがない、という思いも。
そして欠勤ばかりが増え、回りの人間は、晴山をそういう人物として見るようになった。そのことは彼自身よくわかっている。それでもまた、晴山は仕事を変え、同じことをくりかえす。この堂々巡りから逃れたいと、彼は常々思っている。思っているだけなのだが。
本田の仕事は昼からだったので、二人は午前中にノアの元の職場に行ってみることにした。
本田はノアの同僚の一人を知っていた。ノアと比較的仲の良かった女性で、本田には顔見知り程度だが、ほかに当てはない。
これまでのことから、晴山は大きな期待を持っていなかった。期待がはずれたときに大きなダメージを受けることを、彼は恐れていた。
一方の本田は、目をキラキラとさせていた。期待しているのだ。晴山と違って、彼は何にでも全力でぶつかる。大きなダメージを正面から受けとめる。見ていて辛いほどだ。それでも彼はそのやり方を変えはしなかった。
本田はあまりにも不器用に見えた。しかし、それだから彼は信用される。たった数日しか一緒にいないが、晴山もそれを感じた。
電話で約束をとりつけたときの返事は、快いものではなかった。電話では相手には見えないにもかかわらず本田が平身低頭してなんとか約束はできた。昼休みの間のほんのわずかな時間を、彼女は空けてくれた。
ノアの働いていた会社は、晴山の職場から近い所にあった。駅の反対側になるが、こちらはオフィス街で、大きくてきれいなビルが立ち並ぶ場所だった。
昼休みのオフィス街は、混雑している。
晴山と本田は、少し浮いていた。回りはスーツ、オフィスカジュアル、あるいは制服の人ばかり。休日のような服装の者はあまり歩いていなかった。特に晴山のような皺だらけのシャツに破れかけたジーパンの人物はいない。本田の場合は、服飾メーカーに努めているだけあって、目立つといってもスタイリッシュな感じがある。
だが、本田が回りを気にすることはない。
大いに気後れしているのは晴山の方だ。いつ警備の人に止められるかとおっかなびっくりで本田にくっついて、大きなオフィスビルに入った。
受付で名乗り、呼び出してもらう。
ロビーの隅で待ちながら、自分には一生涯、縁のない場所だろうと、と晴山は思っていた。
ノアの同僚の女性はすぐにやって来た。
「ごめんなさい、あまり時間がなくて……」
と、彼女は最初に断った。
「すみません、お忙しいところを。僕たちは今、ノアを、立木さんを捜しているんです。何か、彼女から聞いていませんか? 連絡先でも、なんでもいいんです」
本田は真剣だ。誰でも彼のこんな顔を見ると、なんとかしたくなるのではないだろうか。
答えが返ってくるまで、ほんの少し間があった。
「……ごめんなさい、あの、私、立木さんからは何も聞いていません。本当にお役に立てなくて申し訳ないけど」
「彼女、何か言ってませんでしたか? 急に会社をやめたり、引越したりするなんて、普通じゃ考えられないでしょう。何か、理由を聞いていませんか? 彼女は何も言わなかったんですか?」
「急にって、言う訳じゃ……」と言って、女性は口ごもる。
本田は言った。
「何か、知っているんですね」
決して大きな声ではなかったが、本田の本気がにじみ出る。
女性は、視線を宙に漂わせてから小さくため息をつく。
「立木さんは、一ヶ月前に辞表を出していました。それで、私……あの、本田さんが来ても、絶対に黙っていて欲しいって頼まれていたので。いけないとは思ったんだけど、すみませんでした」
「一ヶ月も前から……?」
本田は呆然としている。
「……どうして?」
言葉を失う本田に、晴山は声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「……」
正面からのダメージだ。本田の顔は蒼白だ。
女性が言った。
「立木さん、外国のご両親のところへ行くんだって言ってました。本田さんのことは、何かあったのかもしれないって思って、私が出しゃばることじゃないかなって……」
本田は蒼白なまま黙っている。
晴山が言った。
「ありがとう、話してもらえて良かったです。それで、もし、何かわかったら、」
と、本田の名刺を、彼女に渡す。
彼女は受け取ってくれた。
「ごめんなさい。本当に」
深くお辞儀をして、彼女は足早に去っていった。
晴山と本田は、堂々巡りをしている。
ノアは足跡を残していない。追いかけられるのを嫌がっているのだ。が、それは二人とも承知の上だった。
手の打ちようがなくなり、日が流れた。
本田は真面目に働いていた。もちろんふっ切れたわけではない。
彼は、ノアが離れたことを自分のせいだと思っていた。何が悪かったのか、それがわからない。彼にできることは、今まで以上に真面目に働いて、ノアに認められるよう頑張るだけだった。
もし努力が受け入れられなかったら、潔くあきらめる。そのつもりだった。しかしそのためには、ノアに会って、納得する必要があった。
彼女の正直な気持ちを聞かない限り、本田は、一生ノアのために働き続けるだろう。
一方晴山は相変わらずの仕事振りだった。休みたくなれば、休む。いつでもやめる気持ちがあった。
前にもまして、ノアのことが、晴山の頭から離れない。くりかえし思い出される、楽しかった高校生活。何度も何度も繰り返すから、思い出は、より鮮やかになっていった。
このままノアが見つからなければ、どうなるのだろう。
益富茜、旧姓木本茜は、出産が近いために里帰りをしていた。
その日、彼女は幼なじみの友人とドライブに出掛けた。晴山から電話があって、三週間後のことだった。
町からずっと北に上ると、山が深くなる。過疎の問題を抱える町村が広がっていた。
山々の間を縫って隣の県まで続く道路が開通したばかりだった。場違いのようにきれいで、走りやすく、ここを走ってみようという計画は、ほんの思い付きだった。
途中、ただ走るだけでは物足りなくなり、高い所を目指して進むことになった。
ひらめきに従って、古くて細い道路を進んでいく。すると小さな集落があった。たんぼと畑が段々になって広がっている。
道路沿いに、古びた数軒の店があった。随分ほこりを被っている。日除けのテントは破れて骨組みだけになり、錆びた看板が放置されている。
その中に、一軒だけ営業している店があった。比較的新しい自動販売機が並んでいる。食料品から雑貨まで、何でも置いてある店のようだった。
飲み物を買うため、自動販売機の前で止まる。
入れ違いに、店の横に止まっていた軽トラックが出て行く。
茜は車を降りるとき、すれすれで通り抜けていく軽トラックを見た。
「あ……!」
息を飲んだ。
ノアだった。
すれ違う車の助手席に座っている。
見間違えるはずはなかった。彼女は高校生のころの、そのままの姿だった。
「ノア!?」
声は、彼女には届かなかった。
茜は慌てて座り直す。
運転席の友人に、叫ぶように告げた。
「あの車、追いかけて!」
しかし道路の幅が狭く、方向転換をするのに手間取った。
ようやく発進したときには、もう軽トラックは見えなくなっていた。それでも進んだが、枝道がいくつもあった。引き返すしかなかった。
その夜、茜は晴山に電話をする。
ノアは、故郷の町の近くにいる。晴山はすぐに本田に知らせた。
この知らせで、さすがの本田も仕事どころではなくなったようだ。
翌日の早朝、二人は本田の車で出発した。例によって本田は浮かれている。晴山はそれが心配な気持ちもあったが、さすがに今回は心が躍った。なにしろ、最新の目撃情報なのだ。
晴山の実家には昼前に着いた。日曜の午前中なのに、彼の家には誰もいなかった。
「どうせ親父はゴルフか休日出勤で、母さんはパートです」
淡々と言って、晴山は鞄を置いた。二人とも数日分の荷物を持ってきていた。見つかるまで、捜すつもりだった。
近所のラーメン屋で手早く昼食を済ませる。その後で茜の家に行った。ノアを捜しに行く前に直接お礼を言いに来るように、と晴山は茜に言われていた。
「えっと、確かこの辺……」
電話で教えられた住所に、木本茜の家はあった。しかしチャイムを鳴らしても応答がない。
「おっかしいなあ」
首をひねっていたが、近所の人たちが数人、表に出ているのに気が付いた。ちらちらと晴山を見ている。
「なんだか、様子が変じゃないか?」
車から本田が声をかける。
「おかしいですね。何かあったんですかね」
晴山が車に乗ろうとしたとき、母親らしい人が帰ってきた。
「すいません。木本さんですか?」
晴山が声をかけると、彼女は振り向いた。
「はい、そうですが……」
あれ? と、晴山は思った。
よく見ると、彼女は化粧気がまるでなく、髪も乱れている。まるで寝起きのまま出かけたかのようだった。
「あら、もしかして、晴山くんかしら?」
彼女は急に明るい声になった。
「はい」
「そうそう。茜が言ってました。来るかもしれないからって」
「あの、茜さんは?」
「それがね」と、彼女はふふっと笑った。
「今朝、急に産気づいちゃって。今日に限って車はないし、予定日には早かったから、油断してたのね。タクシーは来ないし、救急車を呼んで、たいへんだったのよ。まだ時間がかかりそうだから、荷物を取りに戻ったところなんだけど、」
と、彼女は通りに目をやって、にこやかな様子で会釈をする。近所の住人が様子をうかがいに来たのだ。
そのまま世間話が始まりそうだったので、晴山は退散することにした。
「ごめんなさいね。また連絡してやってちょうだい」
テンションが高い母親の声がする。
晴山は軽く頭を下げて、車に戻った。
「何だって?」
本田はエンジンをかけながら言った。
「いや、子供が生まれるんだって」
「え?」
車は狭い山道に入った。まずは、茜がノアを見たという店を探す。ようやくそれらしい店を見つけたのは、三時間もかかってからだった。
山の日は、早くも傾いてきている。
店の横のわずかな空き地に車を止めた。
晴山が実家から持って来たノアの写真を、店の人に見せた。
彼女の居場所が判明した。驚くほど簡単に。
「これは、立木さんとこの孫娘だな」
年とった店の主人は事もなげに言った。
「彼女を知ってるんですか?」
声を揃えて言う二人を見て、主人は難しい顔をした。
「何年か前に年寄りが越してきたが、偏屈でな、付き合いのある者はおらんよ。最近になって、孫娘が来たらしいが、こっちも愛想のない子だ。うちは商売だから、もらうものをもらえば何でもするが、まあ、ほとんど話をしたこともないね」
晴山と本田は顔を見合わせた。二人の知っているノアの様子とは、また違っている。
「あんたら、警察か? あいつら、何かやったのか?」
この辺りで、立木家は良く思われていないようだった。
本田は毅然と言った。
「僕は、彼女の婚約者だった者です。彼女は悪いことをする人ではありません」
目を丸くして、店の主人はもごもごと口の中で何かつぶやいている。「悪かった」とかなんとか、言っているらしい。
主人はノアの家が、さらに山を越えた所にあると教えてくれた。枝道はいくつかあるが、わかりやすいので間違えはしないだろうということだった。
店を出るとき、思い出したように主人が言った。
「天気が変わりそうだ。山道に慣れてないんだったら気を付けた方がいいぞ」
外に出ると、強い風が吹いていた。
「ひどい言い方だ。あんなふうに言うことはない」
本田は憤慨している。
晴山は考え込んだ。
桜の中で、微笑するノア。
凛とした、女王のようなノア。
誰とも親しくなろうとしなかったノア。
本田とつきあったノア。そして突然彼を振ったノア。
晴山の腕を取って、食事に誘ったノア。
遠くなる本田を見つめるノア。
いなくなったノア。
どの彼女も、バラバラのように感じられた。印象が、時によってまったく違う。こんな人がいるだろうか。あまりにも不自然だ。分裂症ではあるまいし。
晴山はやっと、一つの答えに思い至った。
「……わざと、かな」
「何が?」
本田の運転はいつも彼らしくなく荒れていた。加えて道も悪く、車は揺れた。
晴山は黙っていた。もう少し考えをまとめたかった。
わざといろんな印象を与えるように演じている。今まで、どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。しかし、何故そんなことをするのか。それは本人に尋ねてみなければわからない。
立木ノアは、一体どういう人物か。
会えば何もかもわかる。
なにもかもが、きっと、わかるはずだ。でなければ、どうしてこんなに追いかけたりするのか。
道は、車が一台通るだけの幅しかない。ところどころ、すれ違うために広くなった場所があった。
右からは木々が覆いかぶさり、左側は切り立った崖で谷になっている。ガードレールはとぎれとぎれにしかついてない。店の主人が言う通り、慣れない者には危険だった。
そこを越えると、急に開けた場所に出た。わずかだが平らな地面がある。
畑が作ってあった。
舗装されていない泥道が別れ、畑の間を通って、一軒の古い家に続いていた。
本田はそこで車を止めた。
エンジン音が止み、静けさが耳につく。
二人は車を下りると、歩いて大きな古家へ向かった。
苔むした灰色の瓦屋根。土壁にはひびが入って、端のほうが崩れていた。軒先にある葉の出かかった柿の木は、細く、貧弱だった。
みすぼらしい外観。
風がいっそう強く吹き付け、雲のかたまりが流れていく。
晴山は体が強張っているのを感じた。
本田の顔も引きつっている。
ざわざわと木々の鳴る音が不安をあおった。
玄関は閉まっている。左手には縁側があり、そちらの窓は開け放ってあった。床の間のある薄暗い室内が見える。
家の中から物音はしない。
チャイムはついていない。本田は、すりガラスのはまった引き戸に手をかけた。ガラガラと派手な音がした。
中は土間になっていた。湿った土の匂いが立ち込めている。
「ごめんください」
本田の声は、家に吸い取られていくかのように、静かに響いて消えた。
土間の空気は冷たかった。
柔らかいもので木を打つような、連続した軽い音が近づいて来た。足音だった。
本田が息をのむ音を、晴山は聞く。
さっ、と音がする。土間の左手の襖が開いた。
顔を出したのは、彼女だった。
暗い室内で、彼女はぼんやりと白く浮かび上がっていた。
「悟さん」
ノアの声。
晴山の全身に鳥肌が立った。
「晴山くんも、よく来てくださいました」
ノアは微笑んでいた。
心臓が踊る。
彼女の声は、凛と響いた。土と木に捕らわれることなく、空気がいつまでも振動しているようだった。
微笑んでいる。何故? と晴山は思う。捜されるのが嫌だった訳ではないのか。彼女はまるで二人を待っていたかのようだ。
本田は口を開いたが、言葉は出てこなかった。
二人は彼女の存在感に圧倒されていた。
彼女が、動いた。緊張感が、わずかに緩む。
「どうぞ、あがってください」
身をひるがえして奥に入るノアは、体重などないようだ。晴山と本田は吸引されるようについて行った。
通された座敷は、外から見えた部屋だった。窓が開いているぶん、いくらか明るい。太い梁が黒く染まり、この家の古さを語っていた。
大きな座卓が置かれ、座布団が敷かれている。
「座っていてください。今、お茶を用意しましょう」
ノアが部屋から出ていく。晴山は、ほっと息をついて座り込んだ。
あれほど会いたかったノアなのに、言葉はまるで出てこなかった。彼女に会った途端、すべての目的が達成されたかのようだった。
これ以上、どうしたら良いのか、わからない。
晴山は本田に言った。
「おじゃまだったら、席、はずしましょうか」
しかし、本田は言った。
「いや、かまわないよ。もう……」
「え?」
本田はサバサバした顔をしている。晴山には彼が、もうノアを諦めた、と言ったように聞こえた。
「本田さん?」
「なに」
サバサバどころか、彼は微笑んでさえいる。
「なんか、おかしいですよ、本田さん……」
「そうかな」
晴山は気付いた。本田の目が、違う。今までのような、勢いも気力も感じられない。
足音が戻ってきた。晴山は慌てて姿勢を正した。
襖が開く。入ってきたのは、ノアだけではなかった。
「私がやるから、良いわ。そこに置いてちょうだい」
ノアの後ろには、真っ白な長い髭の老人が立っていた。両手で四角いトレイを捧げ持っている。小さなポットと湯飲みが乗っていた。
「いいえ、どうぞお座りください」
断固としてトレイを放さない老人に、ノアは穏やかにうなずいた。そして彼の言うとおり腰を下ろす。
ノアは、晴山と本田に向かいあった。
沈黙の中、老人は丁寧に湯飲みを置いていく。決して慣れた手つきではなかった。
老人は役目を終えても出て行かず、部屋の隅に下がっただけだった。正座をして、座っている。
本田は穏やかな顔をしていた。ただノアを見つめていた。見つめるだけで何も話そうとしない。何のためにここへ来たんだ、と晴山は思う。
「本田さん!」
晴山は促したが、本田はきょとんとしているだけだった。普通ではなかった。晴山は心がざわつく。やっぱり、何か、おかしい。
「本田さん……?」
「駄目だと思います。悟さんは今、ちょっとした催眠状態にありますから」
と、ノアが言う。
「夢を見ているのです。こういう事態を考え、暗示をかけていました。きっと、彼のことだから」
ノアの告白は理解を超えていた。ただ心がざわざわとする。これは恐怖だろうか? それすらもわからない。
「本当は、あなたもそうなるはずだったのですけど、なにか手違いがあったようです」
淡々とノアが言う。顔はあくまでも、やさしく穏やかだ。
晴山は息をのんだ。
外は暗かった。まだ日没には早い時間だった。木々が風で鳴っている。
遠くの雷。雨が降ってきたようだ。
それが合図だったかのように、部屋の隅の老人が口をひらく。
「私からお話しいたしましょう。どうお思いになるかは、あなたの自由にされると良い」
雨音をBGMに、老人の声はかすれている。
遠い未来のある時代――――
人間の住む街は地中深くに広がっていた。地表はもう人の住める場所ではなくなっていた。
気温は一日に八十度以上も上下する。何十日もやまない嵐。地面を穿つほどの氷が降る。極度の乾燥のあとでやってくる大洪水は何もかもを流し去る。
そんな世界に街はたったひとつだけだった。サイプレスと呼ばれている。最後の街の名だ。
住人は十万人に満たない。環境は厳しく、人間はとても弱かった。
サイプレスは常に彼らを守らなければならなかった。
サイプレスとは、街の名であると同時に、街を制御しているシステムの名称でもある。街はいくつものコンピュータによって完全に管理されていた。
適切な温度、湿度、空気や照明、住環境から工場や農場のラインまで、何から何までをサイプレスが管理している。サイプレスがなければ、人間だけでなく動物や植物も、ささやかな生命をつないでいくことができない。
膨大な情報量を処理するためには、ひとりの人間が必要だった。人類が開発してきた技術は、その処理能力において、人間の脳を超えることは、ついにできなかったのだ。
受精前の卵のときから、遺伝子の操作は始まる。働き蜂が女王蜂を作り出すのと同じに、生まれる前から特別な処置が施される。
そうして誕生した人間は、サイプレスと同化する。生きながら、システムの一部になるのだ。
数年分のエネルギーを一度に使う時間跳躍は、選ばれた人間にだけの特権だった。
過去の最も安全で豊かな時代を過ごす。それは、人生のすべてをシステムのひとつとなって過ごす人への、はなむけでもあった。
その体験は計り知れないほど豊かな感情を生み出す。その経験を記憶した脳は、そうでないものに比べてはるかに長期間の仕事に耐えることができるのだった。
システムの一部となれば、身体の自由はなくなる。が、記憶が消えることない。唯一、自由になるのは記憶のみだ。
遠い未来は、人間が生きるには過酷な世界だ。街の住人を全員過去へ戻すことは簡単ではないが可能だ。しかし希望する者はいない。
サイプレスの住人たちは、自らの存在意義を知っている。
ノアも、もちろん。
老人の声が途絶え、晴山は我に帰った。
ノアは言う。
「そう、とても、良い経験でした」
彼女は確かに笑っている。しかし、悲しい笑顔だ。少なくとも、晴山にはそう見える。
どこを見ているのだろう。と、晴山はぼんやり考えた。それは晴山の見ることができない遠い世界なのだろう。
本田が不思議そうな顔をしている。
ノアが、二人を見て微笑む。
あのときと同じ、気高い女王のようだった。
明かりのない室内。
晴山はふと窓の外を見る。
雨は上がっていた。
縁側に出る。軒が深く、空の様子はわからなかった。
静かだった。
晴山は、そのまま縁側から外に出た。
雲はない。
月が出ていた。
本田の車が道の向こうに見えるほど、明るい。
その道から、誰かが歩いて来る。
晴山には、はっきりと見えた。
「ノア」
月明かりの下、ノアは白く浮かび上がる。
晴山は少しだけ近づいて、言った。
「長沢さんが言ってたよ。一回くらい、連絡しろって」
ノアは、くすっと笑ってうなずいた。
「そうね、一度くらいは、ね」
長沢響子は、ノアから手紙を受け取るだろう。しかし、それは最初で最後だ。
ノアはゆったりとした歩調で晴山に近寄った。まるで月光の上を歩くように。
晴山は内心動揺する。腕によみがえる、彼女の温かさ。
「初めて会った日のこと、覚えてる」
ノアが言った。
晴山はただガクガクと首を上下させた。
「桜が咲いてた。風が吹いて、花びらが散った。とても、きれいだったね」
晴山は、震える手を隠して、言う。
「僕はずっと、桜が咲く度に、ノアのことを思い出すんだ」
晴山がつぶやく。
「僕は、忘れたくない」
ノアはゆっくりと首を振る。
「記憶を消去することは、できないの。忘れるっていうことは、どこかにしまった記憶が出てこないだけ。ちょっと暗示をかけるだけでいいの。だから……」
ノアの言葉が途切れる。
晴山は、その先を聞きたくなかった。
「……ごめんね、晴山くん」
車の中だった。
耳にノアの声が残っている。と思った瞬間、晴山は声の内容を忘れてしまった。
運転席で、本田がハンドルに覆いかぷさって寝ている。
「本田さん」
晴山が軽く揺り動かすと、目を覚ました。
「あ、痛てて……」
本田は首を回す。
「もう雨は上がったんだな。良かった、良かった」
本田の口調は呑気なものだった。何をしにここへ来たのか、わかっているんだろうか、と晴山は思う。
思った瞬間。
……ごめんね、晴山くん……
ノアの声がよみがえった。
晴山は驚く。覚えていた。
ノアが晴山の言葉を聞き入れてくれたのか、暗示をかけるのに失敗したのか、わからない。晴山は老人の話からノアとの会話の一部始終を鮮明に思い出すことができた。
ほっと息をついた。脱力して、シートにもたれかかる。
本田が言った。
「あれ、晴山くん、どうして泣いてるんだ?」
春。
舞い散る桜の中に、僕は彼女を見る。
月。
月明かりの下、消えた彼女を思う。
あれからまた、長い時間が過ぎた。
記憶の中の彼女は、だんだん遠ざかって、霞んでいく。
輪郭がにじんで、おぼろげな彼女はまるで白く輝いているように見える。
彼女の姿を記憶の中から失うわけにはいかない。
僕は必死で勉強した。
彼女が光になってしまう前に。
今、各国の研究者たちが集まる中に、僕はいる。
僕が関わっているプロジェクトの名称は「サイプレス」という。
少しでもいい、彼女に近づきたかった。
この時間の流れは、いつか必ず彼女にたどりつくはずだ。
だから、いつか、この思いが、彼女に届くように。
せめてそれが、彼女の助けとなりますように。
いつか、彼女の助けとなりますように まりる*まりら @maliru_malira
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