第188話仮処分の保全

刑事訴訟の弁護士事務所に頼まれて寄ります。

「久しぶりやなあ」

ホテルの社長が親父と呼ぶ管理会社の社長で今回の訴訟の原告です。

「殴り込み事件の後どうですか?」

「あのホテルの社長のところの専務も口だけや。結局自分の部下に裏切られてもう3軒だけになってしもたわ。でも黒字だけの店を残せてほっとしている。解雇無効裁判はどうや?」

「気の長い話です」

事務所のドアを開けると弁護士が分厚い裁判資料を抱えて入ってきます。

「親父さんに会いましたよ」

「ああ、そちらが来る前に2時間打ち合わせをしていたのです。今回高裁の民事を引き継ぎましたが、被告の会社から仮処分の保全の申請が出たので打ち合わせをしていたのです」

「仮処分の保全?」

「残りの3軒のホテルを戻せという申請です。所有権は向こうにあるので損害が認められたら保証金を積んで明け渡しになります。その可能性は強いと話していました。ところでこの調書の4か所を見てもらえませんか?」

これは民事の一審で証拠として採用された部分です。

「この3つの証拠は書類が改ざんされたり事件当時以降に発行されたものです。これは警察の調べで明白になっています」

「それがそのまま通されてしまっていたのです。私のUSBで説明できます。それとホテルの印鑑の引き渡し時期が6月末ではなく6月5日です。6月5日以降に本社から出されたホテルの社長関係の書類は疑ってみるべきです」

「それと親父さんとホテルの社長は?」

「今後方向性が微妙にずれてくるように思います」

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