第140話別の署に呼ばれる

「パートなのにどうしてなかなか面接までいけないの?」

履歴書をポストに入れに行く女房と別れて、今日はH署の知能犯の刑事に呼ばれています。

「どうして警察署が代わるのですか?」

「いや、代わったのではなく、こちらが被告の所在地の警察になります」

この刑事は脂ののった視線のきつい感じの刑事です。

「貴方の証言は原告の主張と重なるところが多いですが、被告のホテルの所有側とはかなり意見が違うようですね。貴方はその会社の出向専務でしたね」

「はい。だから懲戒解雇されています」

「貴方は株式分割は不正に行われたと?」

「いえ、正式に株主総会が開かれず出席者の同意もなかった事実だけを述べました。その時期は私はまだ別の部署にいました」

「ホテル側の社長は?」

「総会はなかったと、それと同意をした覚えがないとも」

「原告側は確かに知らないと言っています。それは理解できるのですがねえ、ホテルの社長は曖昧なのですよ」

「当時のことは分かりません」

「私は当時専務として訴状を受け顧問弁護士と協議して親会社に事実を伝えました」

「会社側はそういう報告を受けてないと言ってますが?」

どうも疑っているように思えます。

私は用意してきた切り札のUSBを取り出しました。

「この中に幹部会議の議事録もありますし、私自身のスケージュールも入ってますので、原本からコピーして証拠書類としてください」

「では拝見して、またこちらに来てもらうことになりますから」

またもや6時半までかかってしまいました。

これは労働審判どころではなくなりそうです。

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