第8話

案の定、妻には仕事を首になったことがバレた。最悪な形でだ。私は仕事をクビになってから、会社に行っていたときと変わらずにスーツを着て、定時に家を出て、仕事を探すため満喫に行くか、派遣のバイトをするかのどちらかだった。

問題はその派遣のバイトだった。私はデパ地下で実演販売のバイトをしていたのだが、それがまずかった。なんとタイミングの悪いことに嫁がデパ地下に食材を買いに来ているところに出くわしてしまったのだった。出会った直後はお互いに目をパチクリさせた。次の瞬間嫁は顔を引きつらせ一瞬の逡巡したあとに、私に背を向けスタスタと歩きその場を去ってしまったのだ。私はバイトとはいえ仕事があるためその場を離れ、嫁を追いかけることはできなかった。

そうして、家に帰ると[しばらく家を空けます]とのメモ書きが残され、台所には夕食を準備していたであろうあとが残っていた。とりあえず何か食べようと思い冷蔵庫を開けると白い大きな箱が入ってあった。中を開けてみると白いホイップの上に真っ赤ないちごが乗ったホールケーキが入っていた。そういえば、その日は私の誕生日であったことを思い出した。いちごを手で掴み口に放り込む。いちごの酸っぱさに顔をしかめる。そして、泣いた。

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