第4話
会社を辞めたあと私は途方に暮れてしまった。再就職先が見つかっていないのだ。
三十代半ばで再就職はこの時代厳しい。新卒ですら苦労しているのだ。当たり前のことではあるがここまでのものだとは思わなかった。甘かった。
このことは未だ妻には話していない。ああ、どうしよう。全くもって自分の阿呆さの加減に嫌気がさす。これからの生活もだが、何より妻の顔が失望の念に染まるのが怖い。私は自分の性格が女々しいことを自覚しているが最低限、男のプライドというものがある。
妻にはこのことを知られたくなかった。もちろん一生黙っている、という意味ではない。せめて次の仕事が決まるまで、と思ったのだ。だが、ついにリミットが切れた。荷物を抱え会社を出る。玄関をから五歩ほど外に出て、これまで勤めていた会社のビルを見上げた。古ぼけた五階建てのビルだ。古いなりにいい会社であった。休日もしっかりと取れたし、給料もそこそこ。感謝はすれど恨むなんてお門違いだ...。
今更ながらあそこでもっと積極的になっていればだとか、あの失敗さえなければだとか、過去の過ぎ去った失敗を反芻する。無駄な反省を繰り返す私の姿は側から見てとても滑稽に見えたに違いない。
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