第2話

「やあ、少し話しをいいかね?」

 その部長の一言から私の日常は崩れ去った。日常と言っても会社に務めてから十年程度であったが、それだけあれば会社に根付くのには充分過ぎる時間ではあった。

不況の煽りという物らしい。事業を縮小し、人員を削減し、会社の金を守る為には止む無しと各部署から羊が選ばれたのだ。その羊は毛を刈られ、乳を絞られる。たまには酒も呑まさられるがそれは当人の望んだ幸福ではない。何故ならデロンデロンに酔った羊のその後の運命は首を切られると、手順として決まっているのだ。

その後の死体はどうなるのだろうか?ジンギスカンにでもされればまだマシな方だ。私の場合は酒と一緒にゴミ捨て場に捨てられた。

恨み言を言うつもりはない、なんてかっこいい事は私には言えない。自分なりには会社に尽くしていたつもりだった。しかし、肩を叩かれたときには何も言えなかった。だから、私は会社を辞める羽目になったのだ。私は一昔でいうところの、いわゆる窓際族という奴だった。大した業績もあげられず、自信をもってやれる仕事といえば雑用ばかりだった。だからこそだった。

納得は今だにしていない。しかし、形としては納得して辞めたことになっている。自主退社という形をとらされたからだ。駄々をこねてもよかっただろう。けれど結局結果は変わらない。少しだけ窓際族の命が延命されるだけだ。ならば、少し早く辞めて退職金を少し多めにもらった方が利口というものだ。そうして会社の言いなりになり、私はお利口に会社を辞めた。

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