混乱の始まり

 ある人はこう言った、『ぶっちゃけお前わかり易すぎるから』と。

 そしてこの心底不愉快な格言を俺に放ったのは俺の大嫌いな男、米田 元気だ。


 つまり何を言いたいかと言うと、『ぶっちゃけ俺ってわかり易いよね』ということです。

 話は以上、しっかり現実と向き合いたいと思います。



 ××××××××××



 リビングの床、つまりフローリングの冷たさが俺の脛と、額を襲う。

 何故こうなったのか? それは俺が知りたい所だ、いきなり三姉妹がリビングに乱入してきてシャルを除く二人が血眼で『そこに土下座!!』何て言ってきたもので、俺は放心状態から覚醒して直ぐに土下座を敢行した。


「……何で俺土下座してるんですかねぇ?」


 額と両手をフローリングに付けたまま俺は隣に同じ体勢でいるクソ親父を横目で睨む。

 親父が土下座している理由は分からないが、それは日頃の行いのせいだと飲み込んでおこう。


「……それは俺が聞きてぇ、完全にテメェのとばっちりだろ」

「元はと言えば親父が訪問して来たのが理由だ!」

「何だとコラ、篝テメェ親父に向かってその言い方は無いだろ!」

「ア゙ア゙?」

「やるってか?」


 横目で睨み合いながら口喧嘩を始める俺と親父、尚、体勢は変わらず土下座である事をここに記しておく。


「コホン、……兄様と父様少し黙ってください」


 額を床に付けていながらも、シャルのただならぬオーラが感じられる、恐らく今顔を上げたら恐怖で目ん玉が潰れるだろう。

 隣の親父もシャルのただならぬものを感じたのか分からないが、小刻みに震え、少し冷や汗をかいている。


「……二人共、顔を上げてください」


「「はい……ひぃ!!」」


 シャルの声と共に顔を上げた俺と親父は恐怖で尻餅を着く、ちなみに決してシャルの顔が怖かったからではない。


「あ、あのぉー、姉さんとエリー……どうした?」


 そう、驚いた理由は姉さんとエリーである。何故かって? そりゃ……


「……実の娘二人がゾンビのような顔で横たわりながらこちらを向いている光景を父さんは見たくなかった」


 そういう事である。

 敢えて訂正するとしたら、ゾンビのような顔ではなく、正真正銘ゾンビだ、美少女キャラで通っている二人の今の顔を学校の皆が見たら恐らく卒倒するだろう。


「……二人がこうなったのは兄様のせいです」

「ま、マジか、俺ヤバイウィルス撒き散らした覚えないんだけど……」

「……兄様、冗談を言う時は周りの空気を見てから言いましょうね?」

「す、すいません」


 こ、怖い、怖すぎる! 何かシャルの後ろにスタンドが見える、ような気がする!


「ゥゥゥゥ……カークゥンンンンンン」

「カガリィィィィィィ……」


 そしてゾンビのうめき声も聞こえる! これもはやスタンドで細切れにされてからゾンビに食い殺されるまであるぞ!


「……とりあえず兄様、先程の話は本当何ですか?」


 シャルが真顔で俺に問いかける、恐らく先程の話、と言うのはあれの事なのだろう。

 俺は意を決して震える体をどうにか抑え、目の前のラスボスへと啖呵をきる。


「ほ、本当だ」

「…………」


 ラスボスは口を開かない、まるで、『お前なんかいつでもひねり潰せるわ!』と言っているかのように腕を組みながら仁王立ちでこちらを見下ろす。


「しゃ、シャル?」

「…………」

「あ、あれ?」


 そんなに俺変なこと言った?


「篝、今アイツの意識は飛んでるぞ」

「はぃぃぃぃ?」


 立ったまま意識失うとか武蔵丸弁慶か!

 ……しかし、これは俺にとってチャンスでもあった。


「……親父、今のうちに逃げよう」

「それについては賛成だ」


 こうして俺と親父は修羅場とかした自宅から脱出した。



 ××××××××××



 逃げ込んだ先はとあるホテルの一室、部屋の中はダブルベッドと小さめのテレビ、そして小さめのテーブル。

 一応言っておく、ここはラブホではない、と言うか親父と一緒にラブホに入れるわけが無い。


「……いや、なんでホテル?」


 ポツリと吐き出した声が狭い部屋に木霊する。ちなみに親父は汗を流したいとか言ってシャワーを浴びている。

 念のためもう一度言っておくが、そう言うのではないです。


「ヤバイ、頭が混乱してる」


 ドカリ、と、一人では広く感じるベットに倒れ込んで目を閉じる。

 そして少し考える、俺は確かにあの時、親父に好きな人が出来たと言おうとした。

 前置きがめんどくさいとか言わないで欲しい、あれは親父専用の喋り方です。


「……好きな人、ねぇ」


 ぶっちゃけると好きという訳では無い、多分、恐らく。

 それに実際、俺はソイツと付き合いたいとか思っているわけでもない、何なら付き合いたいと言う気持ちは皆無だ。

 ならば何故こんなにも切羽詰まってるのか、その理由はただ一つ。


「……あの三姉妹にバレたら面倒くさくなるに決まってる」


 だから俺は消去法で親父に打ち明けた、別に打ち明ける事に意味など無いのだが、それでも一人で抱え込むよりもマシなのは確かだ。

 だけれど、結果はどうだろう? 親父に打ち明け、ついでに三姉妹にバレた。

 ……考えるだけで最悪の状況だ、俺は損しかしていない。


 すると突然ポケットの中にあるスマホが鳴り響く。そして俺は画面を確認すると同時に電源を落とした。


「……妻から逃げる夫の気持ちが何となくわかった気がする」


 ちなみにスマホと俺が震えた原因は言わずもがな三姉妹だ。

 しかしアイツらなら根性だけで俺を探し当てる可能性が無きにしもあらずだ。


「まだガキの癖に大人みたいな事言ってんじゃねーよ」


 ホテルの備え付けタオルで綺麗な金色の髪をゴシゴシと乱暴に拭きながら親父が歩いてくる。……フルチンで。


「とりあえず服着てくれ」

「いや無理だ、何故なら俺は裸族だからな」

「そんな事自慢げに言うんじゃねぇ!」


 いや確かに裸の解放感は俺にも分かるけれど!


「んま、とりあえずお前もシャワー浴びてきたら?」

「……サラリと俺の隣に座るんじゃない、フルチンで」

「細かい男は女にモテないぞー?」

「は! 残念ながら俺は学校ではモテる男…………だった」

「いや何で過去形?」


 そりゃ色々ありますよ、俺がシスコンと言う噂流されたり、男子の視線が前よりキツくなったり、逆に女子には憐れむような視線を向けられたり。


「……お前も色々あるんだな」

「やめろ! 膝枕しようとするな! 今の親父の状態でそんな事されたらカオス過ぎる!」

「まぁまぁ、裸の付き合いってやつだ」

「ダブルベッドで裸の男一人とソイツに襲われかけてる俺の状態は別の意味での裸の付き合いだ!」


 頭弱い親父にツッコミをし続けたせいで俺の呼吸は荒かった。

 何とか息を整えた俺は親父の顔を見つめる。


「……なんだ、まさかお前そっち系の……」

「断じて違う!」


 そんなこんなで言い争っていると、突如部屋の扉が荒々しく空けられた。

 俺と親父は顔を見合わせ、ギギギ、とまるで錆びたロボットのように頭を回して扉の方に目をやる。

 だけどその訪問者は思ってた人物ではなく、全く知らない人だった。


「ぜぇ、ぜぇ、やっと見つけましたよ


 その人物はかなりの美人で、結構俺の好みでもあったのだがそんな事などどうでもいい。


 朝倉太一先生。

 俺は隣のフルチン男性の顔を横目で見つめる。

 最近のマイブームであるあの小説の作者、朝倉太一、もし目の前のやつれた美人の言うことが本当なのであれば隣にいる男こそが俺のハマっている小説の作者、『米田元気《朝倉太一》』な訳で。


 ……詰まるところ現在俺は、頭痛で頭が割れそうだった。












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