ラブコメの波動
今では全くと言っていいけれど、俺は幼い頃普通に父親が好きだった、普通に呼称がパパだった時もある。
そんな時ある日父親が姉を襲った、のかは正直曖昧な所であるが、少なくとも姉はそう言った。
父親はそれについて反論も何もしなかったので、幼い俺はそれを鵜呑みにした、そして俺は父親が嫌いになった。
おかしな話だろう、姉には毎日という程に罵倒されていたのにいざ普通に好きだった父親が姉に手を出した事を知って、姉の肩を持つなんて。
しかもそんな事をしても姉には『近寄らないでマザコン大魔神!』と鬼気迫る迫力で罵倒されてしまうのだが。
でも、それでも、多分好きだったんだろう、母親よりもとは言わないが、毎日罵倒する姉さんやエリーが、俺にベッタリなシャルが、そうでも無ければ母親がいなくなって立ち直れる筈がないのだから、恐らくママはそれを分かって出張に行ったのだろうと、今ならそう言える。
「……結論から言うとお前嫌い!」
「いや座って数分考え事してから何言ってんのお前?」
現在の状況、親父とガチバトルナウ。
××××××××××
「大体アンタはいきなり押しかけて来て何がしたいんだよ!」
「よぉし、とりあえず家に帰ってきてただいまの一言もなしに俺の正面に座り数分考えた後いきなり父親に罵倒して来た経緯について教えてもらおうか!」
「実の親ならそれぐらい察しろよ!」
「お前は実の親を超能力者か何かと思ってんのか! そんなん無理に決まってんだろ!」
「「はぁ、はぁ」」
息を整えながら俺は親父を睨む、確かに俺が帰ってくるなり親父に罵倒したのには理由がある。
しかし、それを親父に話す義理などない。
「だから、結論から言うとだな!」
「だからその結論までに至る経緯が分かんないっつってんの!」
「それは冒頭を読み直せ!」
「……いや何言っちゃってんのお前」
いや確かに何か流れに任せて意味不明な事を言ってしまった気がする。
と、まぁ、そんな事は別にどうでもいい。
「とりあえず篝、なんかあんなら俺に話してみろよ、一応お前の思うような理想の父親では無いけど、形として俺はお前の父親だからな」
「……分かった」
数秒悩んだ末に俺は親父に打ち明けることにした、その前に俺はキッチンに向かい二人分のマグカップにコーヒーを継ぎ、それを親父と俺の前に乱暴に置く。
「俺は今紅茶の気分だったんだが?」
「うるさいだまれ、四の五の言わずにその黒い液体を啜れ!」
「……何か乱暴だな」
そしてお互い入れたてのコーヒーを啜り気持ちを落ち着かせる。
そして俺は告げる。
「親父、……俺」
「いや、突然真剣だな」
「……聞く気ある訳?」
全くこのクソ親父はことある事に俺をおちょくってくる、まぁ別にそれは昔から変わってないんだけど。
「よし、言ってみろや篝」
だけど肝心な時は割と頼りになるのがこの男の気に食わないところだ。
「……笑うなよ」
「笑わねえよ」
「んじゃ、言うぞ」
「はよ言えや」
「親父、俺さ……」
ピロリーん♪
「あ、わりメール来た」
「早く話せよ! 近年稀に見る焦らし方だなぁおい!」
メールの差出人は朱鷺だった。
内容は一言で、『その後どうなった?』である。俺は一言、ナウ、とだけ送ってスマホをポケットにしまう。
そして改めて親父に向き直ると、何故か親父は俺の顔をじっと見つめていた。
「……な、何だよ」
「ん、いや、……一つ聞いてもいいか?」
「んま、どうぞ?」
そして親父は俺に言ってきた、今まさに俺が言わんとしていた事を。
「篝お前……好きな人出来た?」
その後リビングの扉が勢いよく開いた。
××××××××××
【米田シャル、他】
今日は何故か三人で帰宅していた。と言ってもその三人に兄様は入っていない。
要は兄様を抜いた三人で帰宅していた。
「この三人で帰るのは久しぶりですね」
私は後ろを歩くアイリとエリーにどうでも良さげにそう言った、だけど返事はなく……
「「ジー」」
不思議に思って後ろを振り向くと、アイリとエリーはお互いに睨み合っていた。
「大体アンタのその胸が気に食わないのよ! 見てるだけで吐き気を催すから!」
「だから、エリーより私の方が胸が大きいからって嫉妬するのは辞めてくれる?」
「なによ!」
「やる気!?」
「「ジー!」」
そんな二人の会話を聞いて私は自分の慎ましやかな胸に手を当てる。
アイリとエリーは中学に入ってから劇的に大きくなったけど、私は何故か中学に入っても少ししか大きくならなかった。
神様を恨みたい気分だ。
「二人共、その会話は私のいない所でやってください」
私がそう言うと二人はバツの悪そうな顔で、
「「ご、ごめんなさい」」
まぁ、別に胸が大きいとか小さいとかはどうでもいいのです、本当に、絶対、切実に。
大体胸の大きさで人の魅力が決まるわけでは無いのですから。チッ
「それにしてもこの三人で帰るのは久しぶりね?」
そうアイリがどうでも良さげに告げる。
「そのセリフは先ほど私が言いました、二人が胸の大きさで喧嘩していた時に……」
「ご、ごめんって!」
「いや、いいんです、お気になさらずに? どうせ私は貧乳ですから」
「アイリ! シャルがダークサイドに堕ちるよ!」
「イヤイヤ、それ私のせいかしら?」
「なによ!」
「やる気?」
「「ア゙ア゙?」」
またもや二人は喧嘩を始めてしまいました。よくまあ流れるように喧嘩できるものです。まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言いますしね?
そうこうしているうちに無事家に着くと、何やら扉の向こうから父様と兄様の怒号がきこえてくる。
私は空気を読んで二人が静まるまで待つことにしました。
「シャル? 入らないの?」
「私早くカー君に会いたいんだけど?」
「……しばしお待ちを」
何て言うか、この二人を相手取るのは骨が折れそうだ。と言うか折れた。
それにしても父様と兄様は何を話しているんでしょうか?
「ねえアイリ、そろそろあのクソ野郎に鉄槌を浴びせない?」
「……奇遇ね、私も今そう思ってた所」
「「うし!」」
何やら後ろで結託している様子ですが、やっぱり二人は仲がいいみたいです。
そして数秒扉の前で待つと、二人の怒号が聞こえなくなりました。
「……入りましょうか」
「何でそんな空き巣に入るかのように恐る恐る扉を開ける訳?」
「……キャッ〇アイなので」
「「ブフゥー!」」
失礼な、キャッツア〇をバカにする人は許しませんよ?
そして気付かれずに侵入した私達キャッツ〇イは、リビングの扉に耳をつけ聞き耳を立て始める。
何故か二人も私に続いて扉に耳をつけ聞き耳を立てるもので、扉には結構の力が加わっています。
ーーーーーーーんま、どうぞ?
兄様がそう言うのに、気づきました。
そして父様が一言。
ーーーーーーーー篝お前……好きな人出来た?
ガシャン! と凄まじい音とともに勢いよく扉が開かれます。
そして視界に入ったのは、こちらを呆れた様子で、見る父様と……
……図星を付かれた顔をして口をパクパクさせている兄様でした。
××××××××××
【米田 元気】
ラブコメ小説かよ!!
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