友達と三姉妹 前編

 桐生君を家に招いての騒がしい夕食の数日後、現在俺は珍しく一人でうちに帰っている。

 何でも三人とも買いたいものがあるのだとか、何を買うのかはさっぱりだが。


「そう言えば久しく一人で帰ったことが無かったな……」


 最後に一人で帰ったのはママが出張に行く前の日だった気がする。

 その頃は姉さんとエリーは俺のことをキモイだのウザイだの言う輩だったし、シャルについては家ではベッタリだが外では全くだった。


「……それに、この間のシャルの言葉は何だったんだ?」


 俺はふと最後に俺の部屋でシャルがポツリと吐いた言葉を思い浮かべる。

「今の生活は楽しいですか?」未だにこの言葉の意味は分からずにいる。


「はぁ、一体なんだってんだ? ……ん?」


 突如制服のポケットの中で携帯が震え出す。俺はそれを取り出して確認してみると、どうやら朱鷺からのラインのようだった。

 肝心の内容は明日暇なら遊びに行こう、と言う内容で、明日が土曜ということもあって、俺は快く了解の返信を送った。


「……朱鷺のヤツ妙に最近ラインを送ってくるんだよな、どうしたんだ?」


 最近と言うか、ほぼ毎日なのだが朱鷺はことあるごとにラインを送ってくる。『今日は天気がいいね』とか『学校ってダルイね』見たいなどうでもいい事ばかり送ってくるのだが、何なのだろう朱鷺、そんなに暇なのか?

 そんなことを思っているうちに、家に着いたらしく、左には見慣れた一軒家が見える。


「あ! 篝君じゃないすか!」


 俺が家に入る瞬間そんな聞きなれた声がしたので、俺はその声の持ち主の方へ振り返ると、そこに居たのはなんと、と言うかやっぱり桐生君だった。


「あれ、今日帰るの早くない?」


 現時刻はせいぜい五時を少し過ぎたくらいで、普段桐生君が家に帰るのは六時くらいである。


「いやー、生徒会の仕事を片付けてから帰ろうと思ったんすけど、全部会長が片付けちゃってて」


 苦笑いを浮かべつつ頭を掻く桐生君は、困ったような顔をしていた。


「そう言う事か」


 俺は右の手のひらを左の手のひらにぶつける、ありきたりな動作を取りながらそう言った。


「ん? 何がそういう事なんすか?」

「いやー、何か今日姉さんが用事があるとか言ってたから多分その前に仕事を全部片付けちゃったんだな、って」


 それにしても一人で全部の仕事を終わらせるとか、姉さん凄すぎである。

 仮にも生徒会の仕事のはずで、量も沢山あるはずなのに。


「はぁ、自分は会長に比べたらまだまだっすね……」

「いやいや、姉さんと比べる時点で間違ってるって、あの人は仕事バカだから」

「それと、弟バカっすね」


 桐生君のそんな言葉に二人して笑い合っていると、ふと朱鷺からのラインを思い出す。

 んー、桐生君も誘ってもいいかな?


「えと、桐生君明日って何か用事ある?」

「え、どうしたんすかいきなり、……まぁ、特に何も無いすけど?」

「それじゃ明日ちょっと遊びに行かない? 仕事の息抜き見たいな感じで」


 俺が桐生君にそう誘うと桐生君は乗り気で承諾してくれたので、そう言えば交換してなかった桐生君のラインをゲットした後に俺は家の中に入ったのだった。



 ×××××××××



 ようやく春らしく暖かくなってきた春の陽気を体全身に浴びながらこの前のショピングモールへと続く道を桐生君と一緒にあるいている。

 桐生君の格好は上は薄手のカーキーのセーターに下は黒のパンツと言った落ち着いた様子の格好である。それに比べて俺の服装は適当なので特に描写したりはしない。


「ようやく暖かくなってきたっすねー」

「あーうん、そうだな。……やっぱり俺はこの季節が一番好きだな」


 春夏秋冬と四季の中でも俺が一番好きなのは春だ。理由の一つは、俺の親戚の住んでる当たりが結構有名な桜の綺麗な観光スポットになっている、と言うのが一つの理由だ。


「へー、でも自分は夏が一番好きっすよ、なんかこう……燃えないっすか?」

「萌える? あのニャンニャンとかの萌えか?」

「そっちじゃ無いっすよ!!」

「冗談だって……」


 冗談で言ったのに桐生君は割と本気で受け取ったらしかった。それにしても夏が好きだとは物好きだなーとか思ってしまってる俺は割とリア充からは遠いのかも知れない。


 そうこうしているうちに目的のショッピングモールへと着くと集合場所には朱鷺はいなかった。てかやっぱりいなかった。


「そう言えば今日朱鷺さんもくるんっすよね? 実は自分顔を合わせるのって初めて何すよ……」

「んま、それは仕方ない、アイツほとんど人前に顔出さないし……」


 この間心配した授業に出ているか云々について改めて朱鷺に聞いてみると、やはり授業には顔を出していないらしかった。

 この調子だと友達何かもいないのだろう。


「一体どんな人なんすかね……」

「いやぁー、言葉では表現しにくいと言いますか……」


 そんな風に桐生君と話していると俺達の目の前に黒塗りの高級そうな車が止まった。

 あれ、これこの間と同じ登場のような……


 するとやはりまず出てきたのはこの間ちらっと顔を合わせた夏目さんで、降りた瞬間に素早く後ろの方に回り込み重厚なドアを開ける。すると中からでてきた朱鷺は……


「ほぉ……」


 思わず感嘆の声が出るほどに別人へと変貌していた。


「……すまない待たせた」

「あ、いや、この間よりは待ってないよ」


 朱鷺の格好は前のデート同様に髪やらメイクはバッチリで、服は……何と普通に女の子らしい服を着ていた。


「……じ、ジロジロ見ないでくれ、は、恥ずかしい」

「お、お前……誰?」

「……し、失礼じゃないか!? 僕だよ!」

「あ、いや、そう言う事じゃなくてだな……」


 本当に目の前にいるのは朱鷺なのだろうか? いくら夏目さんにやってもらったとはいえ、変貌しすぎな気がする。それとも朱鷺の普通がこれなのだろうか?

 俺はふと朱鷺を変身させた著本人である夏目さんを見ると、何故か夏目さんはハンカチで目元から落ちる雫を拭き取っていた。


「あ、あのぉー、二人共自分の事忘れてないっすか?」


 俺と朱鷺の世界に馴染めずにいた桐生君はその後数分程唖然としていた。




 ×××××××××××




「……所でそこの灰色のリア充は誰だい?」

「いや灰色のリア充て、」


 あれから少しして俺達は何となく流れ的にこの前朱鷺と俺が入ったファミレスにいた。

 と言うか灰色のリア充とかなんか二つ名見たいでカッコイイな。


「え、と、か、篝君の友達の天音 桐生っす! は、はじめまして朱鷺さん!」

「……僕はこの人を呼んだ覚えはないぞ?」

「ま、まぁまぁ、俺が呼んだんだ、朱鷺に相談無しですまない」

「無視っすか! 二人共酷くないすか!?」

「……お前からはリア充の匂いがする、嫌いだ」


 いやリア充の匂いってなんだよ……


「んじゃ俺はリア充じゃないってことか……」

「……篝はリア充と言う名の隠れ蓑を纏った非リアだ」

「自分への罵倒より尚更タチ悪いっすね……」


 その後、最初こそ機嫌の悪かった朱鷺だが、料理が運ばれてくるとその機嫌は直ぐに直った。……ちょろいぜ朱鷺さん……。


「あ、朱鷺さん? これから仲良くしてくださいっす」

「……」


 桐生君が手を差し出して握手を求めるも、朱鷺はそれに応えようとせず、ミートスパゲティを黙々と口に運び続けている。

 どうやら桐生君に対しての扱いは変わっていないらしかった。


「篝君、自分心が折れそうっす」

「頑張れ桐生君、俺も最初の内はそんなんだった」


 俺が初めて朱鷺と会ったのは俺が高校一年生の頃なのだが……まぁ、その話は機会があれば話すことにしよう。


「所で朱鷺? 今日はどうゆう用事なんだ?」

「……今日はある人のプレゼントを買いに来た」

「か、篝君には反応するんすね……」


 勿論桐生君のそんな呟きは朱鷺の耳には届かない。


「プレゼント、か、誰に?」

「……分からないのか?」

「いや、分からねーよ……」

「……む、ばーか」


 その後朱鷺は俺が話しかけても全く反応しなくなった。……俺何かしたか?




 ×××××××××




「なぁ朱鷺?」

「……」

「おーい」

「……」


 朱鷺が先頭でその後ろを俺と桐生君が並んであるいていると言う訳の分からない状態のまま、無言でショッピングモールをあるいていると、ふと朱鷺の服装に目がつく、朱鷺が来ているのは白のスカート丈が短いワンピースだ。


「あれそれって……」

「どうかしたんすか?」

「分かったぞ」

「何が分かったんすか?」


 朱鷺の機嫌を治すにはこれしか無いだろう。ある雑誌に『デートの時に彼女が着てきた服を褒めよう!』これさえこなせば彼女はあなたにゾッコン間違い無し! と書いてあったのだ。


「朱鷺、その服、俺が買ったやつだろ? 似合ってるよ」

「……篝君ぱねぇっす」


 さぁこれでどうだ! 朱鷺の心は俺がい貫いてやる!! いや、別に惚れて欲しい訳じゃないけど……


「……本当?」


 ぱ、パネェ、雑誌に書いてある事は真理だったのか……

 朱鷺は俺の言葉に即座に反応を示し、頬を赤く染めながら後ろを振り返った。


「うん、似合ってるぞ」

「……あ、う、うゆ。ぼ、僕はちょっとぷ。ぷれじぇんとかってくる!!」


 そう言い残すと朱鷺は珍しくダッシュでどこかに言ってしまった。


「……効果はバツグンのようっすね」

「あぁ、しかしボールを投げる前に逃げられてしまった」

「弱らせ過ぎた見たいっす」


 そんなポ〇モンの小ネタを挟みつつ俺達は適当にショッピングモールをぶらつく事にしたのだった。

 所で、先程から視線を感じる気がするんですけど何かの間違いでしょうか?


「あれ、あ、すいません篝君ちょっと電話っす」

「え、あ、どうぞ」


 視線を感じると同時にタイミングよく桐生君の電話がなった気がするのは考えすぎだろうか?

 すると俺の携帯にも、ラインが来ていて、確認してみると朱鷺からだった。


「か、帰る!?」


 内容は急用が出来たから帰るとの事だった。

 するとまたもやラインがはいり、確認してみると桐生君だった。


「き、桐生君まで……」


 挙句の果てには桐生君までもが急用が入ったので帰るとのラインが入っていた。


「な、何が起きて……」


 すると三度目のラインが入る、差出人はシャルで、内容は『朱鷺さんと桐生君はキャ〇ツ・ア〇が預かった、返して欲しければ六時までそこで時間を潰してから帰宅する事!』とのラインが入っていた。


「いや、キャッ〇・ア〇って……」


 古すぎて思わず苦笑いしてしまう俺であった。それから表記の通り六時まで時間を潰すことにしたのだが……


「ショッピングモールに一人はキツすぎる……」



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