第2話「14歳で大学生で高校生のメイドって」

「嫌だ! それでも俺はいかないぞ」


「どうしてですか。引きこもりって言われたくないならまず、高校に行きましょうよ。

 ぼくも一緒に行ってあげますから」


「行きたくない、出たくない、一生家でのんびりしていたい!」


 一瞬学校に行ってもいいかな。

 なんて世迷言が脳裏をよぎったが、冷静になると絶対に行きたくない。


「むしろ学校に行って何が得られるんだよ。

 悪いが勉学は自分でやっているから言い分には入らないぞ!」


「何ですかこのダメ人間……。

 どうやったらそこまで学校いきたくなくなるんですか。いじめですか?」


「いじめなんてされてないやい!

 むしろ一日しか登校してない人間がどうやったらいじめられるか、逆に聞きたいね」


 そう、俺はまだ一日しか高校に登校していないのだ。

 いじめを受ける前に退散する俺……賢い。


「じゃあいいじゃないですか。一緒に行ってあげますから頑張りましょうよ」


「……だって絶対馬鹿にされてる……」


「は? なんてですか? 声が小さくて聞こえません」


「絶対馬鹿にされているからだよ! 俺はやらかしてしまったんだよ!」


 あれはまだ、新しい場所、新しい出会い、そして新しい自分に期待していた時だった。

 俺は悲しい中学時代の環境をリセットし、生まれ変われると思っていたのだ。


「新しい環境に舞い上がって、ネタ系の自己紹介をやって、面白くてクラスの中心みたいなポジション狙った結果が大爆死のクラス全員総ぽかんだったんだよ! うわあああああ!」


「え、それだけで引きこもっているんですか?

 確かに痛々しい話ですがそれだけで引きこもりってどんだけメンタル弱いんですか」


「痛々しいっていうな!」


 俺には大ダメージだったんだよ。

 あの悲しい人を見る視線、忘れらるもんか!


「それに今更行っても、もう友達なんて作れないだろし、

 友達のいない負の高校生活送るくらいなら引きこもりの方を選ぶ俺は賢い!」


「開き直らないで下さいよ。……分かりました。友達がいれば学校行くんですね?

 ぼくが絶対何とかしますのでとりあえず一回行ってみましょう」


「お前になにができるって言うんだよ……」


「いいから、一度でいいのでぼくを信じて下さい。

 百パーセントの確率でご主人様にご友人をクラスに召喚してみせましょう!」




 ……という口車にのせられて絶賛俺は今、我がクラスの前につったっているのである。


「一ヶ月ぶりか」

 

 とは言っても、別になんの感慨もないのだが。


「いつの間にか香菜は消えているし、

 そもそも今もう三限やってるし入りずれえよ……。やっぱ帰ろうかな……」


 そう思い、教室を回れ右して帰ろうとしたとき、香奈の言葉がフラッシュバックする。


「「一度でいいのでぼくを信じて下さい」」


 (一度だけだかんな……。一度だけ騙されてやるよ)


 そう覚悟した俺は魔界のようにも感じるダンジョンもとい教室の扉を開き、中へ歩を進めた。


「こ、こんにちは。遅れちゃいました。アハハ……」


 と、とりあえず情報を集めろ。

 情報は武器だ。

 何々 、どうやら今は国語の授業らしい。

 クラスの反応は完全にあのネタ自己紹介後のそれだ。死にたい。


「え、えっと君は噂の佐須駕野くんかね。とりあえず自分の席に着きなさい」


 噂ってなんだよ! どんな噂だよ!

 完全にお前だれだよって顔しているよこの国語教師。

 そりゃそうだよね。初日で消えて一回も授業受けてないからそりゃ知らないよね。


「分かりました。すみませんお騒がせして。今、着席しま……」


 ってない。俺の席はど真ん中前から二番目だったはずなのにそこに空席がない。


「……サッスガーノが遂に来たぞ……」

「……だれかサッスガーノに席教えてあげろよ……」

「……いやどんな感じで話しかけたらいいか分からないよ……」


 あはは、俺いつのまにかサッスガーノってあだ名がついてるぞー。

 全然うれしくないぞー。

 ひそひそ話は聞こえないようにやってくれー。死のう。


「佐須駕野くん席後ろになったんだよ。窓側の一番後ろ。

 勝手に変えてごめんね。

 真ん中二番目がずっと空席ってよくないって担任がね」


「あ、分かりました…。親切にどうも」


 委員長っぽい感じの女の子、名前は覚えていないけれどこの御恩は忘れません。

 後世で恩返しします。



 そんな感じで何とか自分の席にたどり着き三限を乗り切った。

 

 しかしまだ授業の方がましである。

 デス・フリータイム(地獄の自由時間)もとい十分休憩は俺にとって永遠のように長く感じた。

 もちろん、俺は寝た振りでなんとか乗り切った。


 (こんなんでどうやって友達を作るっていうんだよメイドさんよ……)


 しかし事件は唐突に起きた。


「えー、四限の前に極めて異例だが今日突然決まった転校生を紹介する」


「ええ、まじで?」「今日突然ってどういうことですかー?」

「男かな、女かな? かわいい子がいいなあ」


 クラスは先ほどの招かざる客の襲来とは違い盛り上がりを見せている。

 そんな中俺はなんとなく察して正直呆れている。


「静かにしろ。じゃあ、入ってくれ。後軽く自己紹介を頼む」


 いつの間に制服を手にいれたんだ。

 というかやっぱり中学生にしか見えねえよ。

 そりゃそうかあいつ十四歳だもんな。

 十四歳で高校生って……。いや大学生が高校生って……。


 ……そんなつっこみ切れないその女の子はやはりこうして、ちゃんと見てみると


「あいつ黙っていればめちゃくちゃ可愛いな……」


「初めまして、ぼくは赤姫香菜と申します。

 イギリスから転校して参りました。不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」


「よしじゃあ赤姫は一番後ろの窓側の隣の席に座ってくれ。

 はいはい、皆うるさいぞ。質問したい気持ちは分かるが授業の後な」


 そして加奈は俺の隣の席に座って段々見慣れてきたそのどや顔でこう言った。



「ほら一正さん、お友達ができました。それもお隣の席にとってもかわいい女の子の」



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