第47話 その先に待つ者は

「おい、いたか?」


・・・ドンドン、って、銃声・・・。


「いや、いねぇな。地下じゃないか」


・・・コツコツ、って、階段を、下る音・・・。


「・・・ここか・・・」


・・・声と、足音からして、二人、かな・・・。駄目だ、もう、アタシは・・・、体も動かないし・・・、逃げ・・・られない、や・・・。


「・・・おらぁ!!」


・・・バン、って壁をぶち破って・・・、声をあげながら、入ってくる・・・。


「・・・いない・・・」

「どっかに隠れているかもしれない、隅々まで探せ!」


・・・?あれ、アタシ、ここにいるのに、何で・・・。


「・・・駄目だな。あいつ、どこに晦ましやがった」

「まぁいい、ほら、そこ見てみろ。ノアが転がってやがる。それさえ持ち帰れば問題ない」

「ま、そりゃそうか」


・・・あらあら、無用心、ね・・・。


「おいバカ!!何生身で触ってんだ!!」

「しまっ・・・」


・・・ま、大丈夫、よ・・・。


「って、あれ?なんともねぇぞ・・・?」

「何?そんなはず・・・」

「ほら、ちょっと触ってみろよ」

「わっ、ばか、投げるな、って・・・」

「な?」

「・・・本当だ・・・。どうなってる・・・」

「これ、本物だよな」

「ああ、それは間違いない・・・」

「・・・あの裏切り者、一体何を・・・。とにかく、ずらかるぞ」


・・・アタシが全エネルギー、使い果たしちゃったからね・・・。またいずれ復活するだろうけど、今は触っても無害・・・。それにしても・・・、どうしてアタシのこと、無視したんだか・・・。


・・・よくわからないけど、助かった、のかねぇ・・・。まぁ、アタシも動けないんじゃ、このまま死ぬかもしれないけどねぇ・・・。


どれくらい、時間が経ったろうか。1時間くらい経った気もするし、まだ男たちが帰ってから、ほんのちょっとしかた経過していない気もする。


とにかく、また、コツコツと、今度は一つの足跡が聞こえてくる。


ああ、そっか、踵を返してきたのかねぇ・・・。

冷静に考えれば、アタシがここ以外にいるはずがないんだもんね・・・。


「・・・」


私は抱きかかえられた。体全体が、誰かの腕の中にすっぽりと収まる。あれ、アタシって、こんなに小さな体、してたっけ・・・?


「・・・まったく、無茶、しないでくれよ。頼むから・・・」


アタシの耳元で響くその声は、何度も聞いたことがあるもので。そして、とても安心するものだった。


「・・・アンタ・・・」

「・・・こんな姿になってまで、どうして・・・」


こんな、姿・・・?そういえば、えらく、アタシの体、ふさふさしてる気が・・・。


「・・・あれ・・・」

アタシの視界には、ピンク色のやわかそうな肉球が写っていた。


「・・・これって・・・猫・・・?」


アタシは猫になっていた。自分の姿は自分では分からないから、随分と長い間、気がつかなかったよ。成程ね、この姿だったから、あの二人はスルーしたってことか。


「にゃひひ・・・」


アタシは猫っぽく笑ってみた。猫になったからと言って、ヒト語が話せなくなるわけじゃないらしい。にしても、どういう理屈なんだか・・・。人知を超えてるっていうのは間違いないけど、何で猫になるんだかねぇ・・・。ま、朝起きて蜘蛛になっていた、なんてよりはマシだけどね。


「・・・心配しなさんなよ・・・。何とか、計画は上手く行ったから・・・」

「そういうことを言ってるんじゃない!!」


びくっ。ちょ、耳元で急に大声で・・・。何だい、珍しいじゃないかい・・・、大声で、叫ぶなんて・・・。


「死んだらどうするんだ・・・」

「・・・んっ」


猫のアタシをこいつは少し強めに抱きしめる。アンタに怒られたのは初めて、かねぇ・・・。でも、ちょっと嬉しかったりする。アタシのこと、本気で心配してくれたんだ、って。


「・・・だって・・・、こうでもしないと・・・、アンタが、死んじゃうじゃないか・・・」

「・・・僕のことなんて別に気にしないで・・・」

「だーめ」

痛っ、とこいつは反射的に声を漏らす。アタシは伸びた爪でちくっと頬を刺した。


「にゃひひ・・・。鋭いだろ、猫の爪って奴は・・・。アンタも分からないねぇ・・・。アタシがやりたかったから、やった。アンタを気にするから、気にした。ただ、それだけじゃない・・・」

「渚・・・」

「それに、生きてるじゃない、アタシも、アンタも・・・。だったら、それでいいじゃない・・・」


アタシは生きていた。猫になったからなのか、大量の血は止まり、傷も消えていた。つまりこれは、猫になったおかげで生き残れたってことだろう。あのまま、人間でいたら、間違いなく死んでいた。


「・・・とはいえ、流石にアタシももうくたくたでね・・・。アンタに話さなきゃいけないこと、山ほどあるんだけど・・・、今はちょっと、無理かねぇ・・・」

「・・・本当なら、な」

こいつは間をおいて、語り始めた。

「本当なら、こんな無茶をしたお前を許したくはないんだ。勝手にこんなことをしたお前を・・・。ただ、一回だけ、言わせてほしい・・・」


「・・・ありがとう、渚」


「・・・ふふ、どういたしまして」

あ、そうだ、とアタシは思いつく。ねぇ、アタシは話しかける。今晩だけでいいから、さ・・・。

「今晩だけ、このまま抱きしめていてくれない・・・?このまま、眠りたいんだ・・・」

「ああ、いいよ」

ああ、気持ちがいい・・・。アタシは腕の中で、ゆっくりと目を閉じる。


「・・・あ、そうだ、最後に一つ、アタシの見解と、予想を言っておこうかな・・・」

眠ったら忘れてしまうかもしれない、そう思って、眠たげながら、口だけ開く。


「アタシが開いたのは、次元の扉・・・。今から一ヶ月後、その扉は発現する・・・。これは、アタシの、女の勘だけど・・・」


「・・・きっと、待ってるよ・・・。その扉の先に━」


「アンタが望んで止まない、千尋が、ね」

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