ダンジョンマスターだが妖怪だと冒険者が来ないので、ダンジョンをテーマパークにすることにした
うみ
第1話 閃いた!
「そうだ。戦うだけがダンジョンじゃないんだ! 俺はダンジョンを冒険者が楽しめるアトラクションで満載にする!」
俺のダンジョンは地下三階までしかない零細ダンジョンだ……ダンジョンの華である宝箱ももう一か月ほど出してないから既に一つもないだろう。
もう一つのダンジョンの魅力……モンスターも俺のダンジョンにはいないのだ。モンスターの代わりに妖怪だから。それ故、人が来ない零細ダンジョンに甘んじている。
しかし、俺は閃いた! ダンジョンに冒険者を呼び込む手段は何も宝箱を餌に戦うだけじゃない!
俺は自身のアイデアに感動していた。これだ。これこそが、零細ダンジョンを立ち直らせる天啓に違いない。
俺が喜んでいるというのに、俺の正面で控える猫又の少女クロは呆れたような顔をしている……
彼女は小麦色の肌に前髪パッツンの背中まである黒髪、紺色の猫のモチーフが入ったワンピースを着ている。小柄でスレンダーな体型をしており胸はぺったんこだ。
見た目は人間に近いのだが、頭に黒色の猫耳、お尻からは黒色の尻尾が生えている。
「マスター殿……ダンジョンとは冒険者を打ち倒す場所ですぞ……」
猫又の少女クロは、猫のような丸い目を半眼にして俺に苦言を呈する。
彼女が俺を「マスター」と呼ぶ通り、俺はこのダンジョンのダンジョンマスターをしている鬼の一種「夜叉」で、見た目は黒髪黒目の人間にそっくりだが、頭から生えた短い二本の角が人と違うことを示している。
少しだけ身長が低いことが悩みの種なんだけど、ダンジョンに冒険者が来ないことに比べれば些細な問題だ……
「いいか、クロ。ダンジョンの魅力とはモンスターと宝箱だと言われているよな……」
「そうでござるが……吾輩たちに不満でも?」
クロをはじめとした妖怪たちは俺のダンジョンに入って来た冒険者と戦い、彼らを打ち倒しダンジョンの外に放り投げる。
さっきから彼女が不満気にしているのは、俺が彼女をはじめとしたダンジョンに住む妖怪たちの戦闘力に不満を持っていると感じているからなんだ……
しかし……違う。そうではない! 戦闘力が問題じゃあないんだ。ダンジョンにやって来る冒険者達を倒す倒さないはこの際どうでもいい。ダンジョンに冒険者が来ない事が問題なんだよお。
何故か? 妖怪では魅力に欠けるのだ! 俺のダンジョンは零細だから、宝箱もレア度の高いものは出すことが出来ない。よって宝箱にも魅力がない。
ダンジョンに住む妖怪たちにも宝箱にも魅力がないから、当然冒険者も来ない……
あのクソ野郎め……何が「ゴブリンさえいないダンジョンに人が来るとでも?」だよ! ちくしょう!
認めよう、うちには人気のモンスターがいない。いるのは妖怪だけ……ゴブリンもオークもいないんだ。冒険者が来ないからダンジョンは零細のまま。だから、宝箱のレア度も低い。
このままでは一流ダンジョンに成長することなど、夢のまた夢なのだ。
だから俺は思いついたんだ。別の需要を掘り起こそうと……ダンジョンは冒険者が財宝を求めてやって来るもの。その先入観だ。
ダンジョンに来ることができるのは何も冒険者だけではあるまい。この際、観光客でもなんでもいいんだよ。ダンジョンに人が呼べれば。
ダンジョンに訪れる者が多くなればダンジョンにポイントが入る。成長ポイントが溜まるのだ! ポイントを集め、ダンジョンを成長させることがダンジョンマスターたる俺の当面の目的。
ポイントがあればレア度の高い宝箱だって作れる……宝箱が良いものになれば人が集まる……
見かえしてやる! 「ゴブリンさえいない」とか言ったダンジョンマスター共を。
「クロたちに不満はないんだよ。俺のような零細ダンジョンマスターによくついてきてくれてると思う……」
俺は猫又の少女クロを見やり、率直な気持ちを述べた。
彼女は少し感動した様子で黒い二股に分かれた尻尾を震わせると、俺を見上げ口を開く。
「吾輩たちに任せるといいです。バッタバッタと冒険者共を
グッと拳を握り締めるクロに、俺は肩を竦める。そうじゃないんだ。クロ……
「いいかクロ……クロ達や俺が弱いからとかそんなんじゃないんだよ。妖怪は今時流行らないんだよ! 冒険者は胸をときめかせないんだ。そこを分かってくれ」
「……といいますと?」
「このままでは冒険者が集まってこない。そうなるとポイントも溜まらないわけだ。今は雌伏の時……どんな手段を使ってでも冒険者を集めないといけないんだよ!」
「……なるほど。一理ありますな……」
「ポイントさえ溜まれば、レアな宝箱も準備できるし、ダンジョンを広げることもできる。ポイントが無い事には何もできないだろ?」
「理解したでござる。さすがは我がマスター。どうするおつもりで?」
「ダンジョンを改装する! ダンジョンを誰でも楽しめるテーマパークにするのだ!」
「遊園地みたいにです?」
「そうだ! 宿も併設すればより良いだろう。まずはどんなアトラクションをつくるかみんなでアイデアを出そう」
「相分かったでござる」
クロはようやく納得したように、頷きを返してくれた。
クロが納得してくれたところで、ダンジョンをどう改装するか現状を見て回るかな。
その時――
――扉がバーンと開く!
現れたのは純白の着物を着た白銀の髪をポニーテールにした少女……雪女のユキだった。
「話は聞かせてもらったわ! 夜叉くん!」
彼女は扉の外でじっと俺達の話を聞いていたんだろうか……彼女は俺のことをマスターではなく夜叉と呼ぶ。夜叉ってのは俺の種族名なのだが、俺にはクロやユキのように愛称は無い。
妖怪には基本、名前はないんだけどクロやユキのように自分で名前をつける者もなかにはいる。
「ユキ? どうだ俺のアイデアは?」
「悪く無いわ。正直……ポイントの管理をするのが辛くて……」
ユキは話をしながら、俺の正面に座り込むと電卓とノートを勢いよく机に叩きつける。彼女は俺のダンジョンの会計係兼秘書のような役目を任せている。
直接戦闘をすることは無いが、彼女がポイント管理などの事務仕事を一手に引き受けてくれているからこそ俺達は毎日の食事にありつくことができるんだ。
「そうだよな。今のままでは食べていくだけで精一杯だから」
俺とユキは顔を見合わせため息をつく。
ダンジョンで植物や動物を育てることができないが、ポイントを消費することで食材を作り出すことが出来る。
うちだって、ほとんど冒険者が来ないとはいえ全く来ないわけじゃない。稀に来る冒険者から入るポイントでなんとか食事分だけは捻出している。
そう、食事分だけはね……
「夜叉くん。今のポイントがいくらか知ってる?」
「いや……」
「なんと……」
「なんと?」
「千ポイントよ……」
「千かよ……一か月でいくつ増えたんだ?」
「五十ポイント……そして食事に六十ポイント……」
ええと、つまり……食べて行くだけでもマイナスなのかよ! これは真剣にまずいな。
最近、さらに冒険者の数が減っていると思っていたんだが、ここまでとは。
ダンジョンの改装をするのにもポイントがかかるんだけど、これは改装費用の捻出さえ厳しいんじゃないかなあ。うああ。
壁を作るにも、床に穴を開けるのにも、机や食器といった道具や家具を出すのにもポイントが必要だ。
「夜叉くん。ほんとうにほんとうにポイントが切迫しているのよ。テーマパークでも何でも人が来るのならそれでいいわ! 妖怪のプライドとか言ってる場合じゃないの」
ギュっと拳を握りしめ、悲壮な表情を浮かべるユキ……
「ユキ、クロ、まずはダンジョンを入口から見て行こうか。ポイントを使わずに出来る事を探そう」
「わかったわ。私は食事の準備をするから一旦席を外すね」
そうか、もうそんな時間なのか。今日の食事当番はユキだったか。
「吾輩はお供するでござるよ」
「ユキ、後でまた協議しよう。クロ、行こうか」
俺はクロと共に部屋の扉を開けダンジョンの入口に向かう。
前途多難だが、暗くなっていては始まらない。
よおし、やるぞ!
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